アニャンゴが止まらない

『アフリカNOW』86号(2009年11月30日発行)掲載

執筆:茂住 衛
もずみ まもる:『アフリカNOW』編集部。AJF理事。


アニャンゴ(Anyango)こと向山恵理子さんの活躍が止まらない。ルオ語で「午前中に生まれた女の子」を意味するアニャンゴという名前をもらった彼女は、ルオの民族楽器ニャティティ(Nyatiti)を演奏している。8本の弦を指ではじきながら、右足に付けた鉄の鈴(ガラ)とニャティティの木部に打ちつける鉄の輪(オドゥオンゴ)でリズムを刻み、ルオ語の歌を歌う。
向山さんは、2004年5月にはじめて訪れたケニアでニャティティに出会い、2005年3月にニャティティの修行のために再びケニアを訪問。4月にはケニア西部のカラプール村に住むニャティティの名人に弟子入りを志願した。当初は「女性にはニャティティを教えられない」と断られたが、あきらめずに頼み込み、師匠の家に住み込んで修行を続けた。11月にルオの長老やニャティティの名人の前で演奏して、ニャティティ奏者を名のることが許される。
ケニアでは、2007年1月に新聞やテレビ、ラジオで世界初の女性ニャティティ奏者として紹介され、名前が知られるようになった。この月に開催されたホマベイでの国連主催のSTOPエイズコンサートにも出演し、5万人の観客の前で演奏している。ちょうどこの時期にナイロビを訪れていた私は、ケニア在住の神戸俊平さんに紹介されて、ナイロビのレストランでアニャンゴのライブをはじめて体験した。
日本では、2006年から各地の小・中学校やライブハウス、アフリカンフェスタなどで演奏活動を続け、2007年秋ころから、全国各地の新聞などで活動が紹介されるようになる。また、2008年6月にはケニアから12名の高校生を招待し、札幌YOSAKOIソーラン祭りにて、日本人のダンサー3000人と共にニャティティのリズムによる演舞を行っている。
2009年夏からは、日本のメディアでの注目も一挙に高まってきた。ニューズウィーク日本版7月8日号の特集「世界が尊敬する日本人100人」に、その一人として紹介記事が掲載。8月に角川学芸出版から『夢をつかむ法則〜アニャンゴのケニア伝統音楽修行記』を刊行し、9月にはCD”Natiti Diva”をリリース。10月16日に東京・青山のCAYで行われたCDリリース・パーティ(ライブ)の会場は350名の観客で埋め尽された。
私は、1990年代から東京のアフリカ音楽シーンを観察しているが、これまでのマイナーな状況を覆すこの間のアニャンゴのブレイクに、率直にいってかなり驚いている。ニャティティの演奏、歌とダンスに魅力があることはもちろんだが、若い日本人女性が、自らの夢の実現のために単身でケニアの農村部まで音楽修行に行ったという事実自体が、多くの人びとやメディアの驚きと共感を呼んだのであろう。その心情を受け止めながら、このブレイクが一過性の話題に終わらずに、日本の多様なアフリカ音楽シーンにも波及していくことを願っている。


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