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ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとエイズ・結核・マラリア対策のシナジーを求めて
=「持続可能な開発目標」の下での国際保健政策に関する国際市民社会ワークショップを開催=


 2015年10月26日、(特活)アフリカ日本協議会は、東京・千代田区の砂防会館別館にて、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)に関わるグローバルな市民社会ネットワーク「グローバルファンド活動者ネットワーク」(Global Fund Advocates Network)との共催で国際ワークショップ「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとエイズ・結核・マラリア対策のシナジーを求めて」を開催しました。ワークショップには、アジア・アフリカをはじめ世界各地から合計20名のエイズ・結核・マラリアや国際保健政策に知見を持つ市民社会関係者や専門家が参加し、三大感染症対策とユニバーサル・ヘルス・カバレッジをどう両立させ、相互補完を強めていくかについて討議しました。討議結果は成果文書「一人一人の健康を最優先に」(People's Health Comes First:日本語・英語)にまとめられました。

1.ワークショップの趣旨:今なぜ「シナジー」か


 私たちがこのワークショップを企画した理由はいくつかあります。これまでのグローバルな開発戦略の中心を占めていた「ミレニアム開発目標」(MDGs)では、8つの目標のうち、保健に直接関連する目標が3つあり、エイズ・結核・マラリア等三大感染症への取り組みも、そのうちの一つでした(ゴール6)。そもそも、MDGsができた要因の一つが、アフリカにおけるエイズ危機にあったのです。結果として、2002年には三大感染症対策に資金を供給する国際機関として「グローバルファンド」(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)が設立され、三大感染症対策はMDGsの下で大きく進みました。

 SDGsにおける三大感染症に関するターゲットは、「2030年までに(世界の公衆保健上の脅威としての)エイズ・結核・マラリアを終焉させる」というものです。これは、MDGs時代の感染症対策の前進をより積極的に進めて行こうというもので、実際にこの目標を達成するには、これまで以上の努力が必要となります。

 一方、MDGs時代には、三大感染症対策や、子どもの死亡率の低下(ゴール4)、妊産婦の健康改善(ゴール5)など、個別の保健問題に焦点が当たる一方で、保健を全体として向上させる取り組みには必ずしも光が当たらず、一部では保健サービスの後退も見受けられました。「すべての人に健康を」という理想に向けて「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)を推進しよう、という国際保健政策上の取り組みは、こうした状況から生まれました。果たして、2015年に採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)の保健目標(ゴール3)は、「あらゆる年代の全ての人の健康を確保し、福利を増進する」という、UHCを大きく反映したものとなり、ターゲットにもUHCが盛り込まれたのです。

 一方、UHCの推進が声高に叫ばれるようになったことには、もう一つ理由があります。MDGs時代の途上国・新興国の保健対策は、ODA等の外部資金に大きく依存していました。UHCは、税金や公的保険制度によってこれを置き換え、途上国がなるべく自己財源で自国民の保健サービスを確保できるようにするという意図があります。これ自体は前向きなことですが、いくつかの新興国では、外部資金が撤退してUHCを謳う公的な保健サービス制度が導入されるにあたり、これまで外部資金を活用して積極的に対策が行われていた、HIV/AIDSに関連して脆弱性を抱える人口集団、コミュニティに向けた対策が打ち切られたり、保健医療の対象から外されるといったことが頻発しています。特に、移民・移住労働者や、薬物を使用する人々(People who use drugs)、セックスワーカー、男性と性行為をする男性(MSM)、といった人々の保健へのアクセスが妨げられたり、差別・偏見の対象になるといった事態が生じています。

こうした事態をどう防ぎ、UHCを真に「ユニバーサル」なものにして、UHCと「三大感染症の克服」を二つながらに達成するためには、どうすればよいのか。こうした問題意識から、私たちはワークショップを開催しました。

2.ワークショップの内容


 ワークショップには、海外から招聘した20名の市民社会活動家・専門家に加え、日本で保健分野にかかわる市民社会関係者なども参加しました。

(1)UHCについて知る

 ワークショップは、外務省の日下英司・国際保健政策室の開会あいさつから始まりました。国際保健政策における市民社会の重要性について言及した室長あいさつののち、参加者の多くを占めるHIV/AIDS、マラリア、結核関係者がUHCについて知見を深めるという趣旨で、JICAの杉下智彦・国際保健専門員のレクチャーがありました。杉下さんのプレゼンテーションは、「2000年までにすべての人に健康を」と宣言し、プライマリー・ヘルス・ケアの普及のきっかけとなった「アルマアタ宣言」から、UHCの重要性を説き起こすもので、特に、「人々とコミュニティこそが保健サービスを作る」、「公的保健サービスへの人々の信頼を回復することこそが重要だ」というメッセージは、途上国の現場で保健に取り組むNGO関係者の共感を集めていました。

杉下智彦氏によるUHCについての説明
杉下智彦氏によるUHCについての説明

リンダ・マフ氏(グローバルファンド)の説明
リンダ・マフ氏(グローバルファンド)の説明

(2)川田龍平議員との交流セッション

 ランチタイムを経て、日本で唯一、HIV感染を公表している国会議員である川田龍平・参議院議員(維新の党)と参加者の交流セッションが開かれました。薬害エイズ裁判での闘いの経験から、エイズに対する世界的な取り組みの重要性を説き起こし、現在のUHCの可能性と課題についても鋭く言及した川田議員のスピーチは参加者の感動を呼んでいました。

川田龍平参議院議員のスピーチ
川田龍平参議院議員のスピーチ

(3)UHCと三大感染症対策の接点を探る

 その後、海外からの参加者たちがパネリストとなって、二つのパネル・ディスカッションが行われました。最初のディスカッションは、アジア・アフリカ、また薬物によるHIV感染が拡大している東ヨーロッパなどにおける三大感染症の現実や、あまり注目されてこなかった結核やマラリアとUHCの接点を探るというもの。二つ目は、特にHIVの影響を強く受けている、MSMやセックスワーカー、移住労働者・移民、薬物使用者などのコミュニティにとってのUHCの可能性と問題点を整理するものでした。

パネルセッション1(各感染症とUHC)
パネルセッション1(各感染症とUHC)

パネルセッション2(HIVへの脆弱性を抱える人々とUHC)
パネルセッション2(HIVへの脆弱性を抱える人々とUHC)

(4)成果文書を作る

 次のグループワークでは、予め主催団体や関連する専門家によって起草されていた成果文書案が検討に付されました。最後のセッションでは、今後、12月17日に東京で開催が予定されているグローバルファンドの「増資準備会合」を皮切りに、来年の9月の「増資本会合」に向けて開催される、グローバルファンドの第5次増資プロセス(2017年から19年までの3年間のグローバルファンドの資金の確保のためのプロセス)に向けて、市民社会としてどのように取り組みを展開するか、また、UHCと三大感染症対策のシナジーをどこに見出していくかについて、真剣な討論が行われました。

ワークショップの風景
ワークショップの風景

3.成果文書と今後に向けた展望


ワークショップから2週間を経て、多くのインプットを得て成果文書「一人ひとりの健康を最優先に/People’s Health Comes First」が完成しました。成果文書では、

  • 三大感染症対策とUHCには多くの接点があり、両立・相互補完によってお互いの目標を達成していくことは十分可能であること
  • UHCの達成は、上からの制度設計によってだけでなく、人々、コミュニティの能動的な参加によってはじめて可能になること
  • 三大感染症への取り組みの中で確立してきた様々な制度や機構を活用することが、UHCの達成にとっての近道であること
  • 特に、グローバルファンドは、疾病の当事者、コミュニティの参画を積極的に位置付けており、UHCの実現にとっても重要な導引力となること

などが指摘されています。

 このワークショップにより、これまで必ずしもUHCについて十分に認識してこなかった世界の三大感染症関連の市民社会が、UHCについて考えるうえで、重要な指針が「成果文書」という形で確立したこと、また、逆に、この成果文書が、UHCに取り組む市民社会や関係者にとっても、三大感染症との関係で検討すべきことを明確にするものになったことは、非常に画期的だと言えます。

 このワークショップを国際的に提案し、成功へと導いたのは、日本の市民社会でした。「あとからついていく」だけでなく、国際保健政策を主導するプレイヤーとしての役割を自覚し、提起していくこと。世界の市民社会は、日本の市民社会に大きな期待を寄せています。(特活)アフリカ日本協議会は、日本の市民社会の役割を「フォロワー」から「プレイヤー」へと転換させていくために、イノベーティブな取り組みを進めていきたいと考えています。

参加者集合写真(川田龍平・参議院議員と)
参加者集合写真(川田龍平・参議院議員と)


 10月25日〜27日 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジと三大感染症対策のシナジー構築を目指して

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