
![]() |
![]() |
アフリカに関わる活動を行っているNGOのデータベースおよびアフリカのエイズ問題に関するニュース・情報データベースです。
収録されたデータ更新の連絡、最新情報の紹介をAJF事務局あてにお願いします。
【2017年3月】アフリカに関わる活動を行っているNGOのデータベースを順次、更新しています。
2001年6月に発行された国連アフリカ専門情報誌「Africa Renewal」エイズ問題特集号掲載記事です。
by Gumisai Mutume
この4月、39の製薬会社は南ア政府を相手取って起こしていた訴訟を取り下げた。この訴訟は、国民のために安価な医薬品を提供しようとする南ア政府の動きを差し止めるためのものだった。何百万人という救命薬を必要とする国民のために、廉価な医薬品を輸入したり、あるいは製薬業者に廉価な医薬品の製造を許可したりすることが、最貧国に可能なのか、といった事について、この裁判が判断を下すことになると、広く考えられていた。
訴訟を取り下げることによって、企業側は知的所有権について取り決めた世界貿易機関(WTO)協定に設けられているアクセス条項を各国政府が利用することに、もはや異議を唱えないとの姿勢を示したと言える。TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)として知られるこの協定は、後にWTOを設立した国々が採択した自由貿易に関する1994年のウルグアイ.ラウンド合意の一部をなすものである。この協定が注目をあびるようになったのは、HIV感染拡大によって大きな被害を受けている途上国が、協定を遵守する一方で、国民の求めに応じようとの試みを始めた事による。
アフリカ各国の政府は、協定の実施状況を監視するWTOのTRIPS委員会に対して、知的所有権や特許権が、アフリカ大陸を蝕んでいる疾病と戦うために必要とされる医薬品の入手をどのように阻んでいるかについての自分達の懸念を考慮するように申し入れている。WTOにおけるアフリカ諸国の主たる交渉人であるジンバブエのタディアス・チファンバ氏は、特にHIV/AIDSのような感染病に直面している国々が、どのように関連TRIPS協定を解釈し、また運用すべきかについて、「更なる法的な明確さ」を手に入れたいとするアフリカ側の希望を語った。
TRIPS協定の義務
TRIPSは140のWTOメンバー政府に対して、20年間に渡って、医薬品を含む幅広い分野の新製品の著作権と特許権を保護することを義務付けている。この期間、特許権者の許可なしには、その製品を使用したり、製造したりあるいは販売したりすることはできない。特許権が消滅して初めて、別の会社はその製品の「ジェネリック」版を販売することができるようになるのである。TRIPSはまた商標と貿易に関する秘密も保護している。
先進国には1996年1月までにTRIPSを遵守するための国内法整備が義務付けられた。多くの途上国と旧ソ連圏の国々は2000年までに、そして後発途上国は2006年1月までに整備するよう求められている。しかし、これらの最貧国は、WTOに更なる期限延長を申請することができる。多くの政府にとって、このことは自分達の領土における知的所有権の保護と施行を強化することを意味している。TRIPSを遵守するための国内法の整備が終了しない国々に対しては、貿易制裁措置を含む罰則を科すことも可能である。
TRIPS協定は、特許権者をどのように保護すべきかについての最低基準を定めている。しかし、これらの権利は絶対的なものではない。「現在の国際貿易に関する取り決めは特許権者の権利と患者の権利との間の均衡を保つことを目指して策定されたものです」世界保健機関(WHO)事務局長ブラントランド博士は、最近ノルウェーでWHOとWTOが共同開催したフォーラムでこのように語っている。「TRIPS協定の条項には保健に関する重要な例外規定が含まれています」これらの「例外条項」は参加国が強制実施許諾に踏み切ったり、並行輸入を行ったり、あるいはボラ−ル条項に訴えたりすることによって、TRIPS協定で課せられている義務に従わないことを認めている。
公共の利益と個人の利益
インドとタイは、もともとの製薬業者によって開発された方法とは異なる製造方法を用いて、先進国で既に特許登録されている医薬品のジェネリック版を製造することを業者に認めている国々のうちの二つである。これらの医薬品は他の途上国に対して極めて低価格で提供されている。HIV陽性者の腸内感染を防ぐために使われているシプロフロザシンは、欧米で特許登録されているにも関わらず、市場での販売が始まってから7年も経たないうちに、インドの製薬業者48社によって製造されるようになっている。
最近、インドの製薬業者シプラは、エイズ患者に投与されている3種類の抗レトロウィルス薬の組合せ(3薬カクテル)のジェネリック版を、アフリカ諸国の政府に対しては患者一人あたり年間600ドルで、またアフリカで活動するNGOには同様の薬を年間350ドルで提供すると申し出て、世間の注目を集めた。この3薬カクテルは、エイズを引き起こすウィルスの治療において、現在最も一般的に投与されている薬である。この薬は、HIV陽性が意味していたものを死から延命へと変化させた。米国ではこの薬にかかる年間の費用は1万〜1万5千ドルにのぼる。
世界的に、製薬会社は政府やその他の組織に対し、ジェネリック製薬業者から薬品を購入しないように圧力をかけている。ジェネリック製薬業者は、既製品を模倣するだけで、新製品開発のための調査研究を行うことはない。しかし、このように極端に安い医薬品がなければ、サハラ以南アフリカ諸国のような最貧国は、結核、マラリア、HIV/AIDSといった死病に立ち向かうための医薬品を手に入れることはできないのである。
ダビデとゴリアテ
しかし、状況は未だ不透明である。国民に有利なように特許権法を解釈するといった大胆な行動に出たブラジルと南アの二つの途上国であるが、これらの国が国際的な法律問題から解き放たれたわけではない。米国は、WTOの紛争調停機関に対して、TRIPS協定違反としてブラジルを訴えた。
1996年、ブラジルは米国で使用されていた5つの主要な抗レトロウィルス薬を国内で製造することを認めた法律を可決した。母子感染を防ぐ抗レトロウィルス薬AZTのようにいくつかの医薬品は、WTOの条項が最初に採択された1995年以前に特許登録されているためTRIPS協定の適用外である。ブラジルは自国の特許法で、特許料を支払うことなしに、医薬品を製造することを認めている。この結果、ブラジルでは、エイズ患者に無料で医薬品を提供することができるのである。最近、ブラジルは、米国企業メルクに対し、同社が製造する2種類のエイズ治療薬クリクシバンとストクリンの価格を半分に切り下げなければ、強制実施許諾に踏み切るとの脅しをかけ、値下げに応じさせている。
米政府は、ブラジルの法律は海外の特許権者を不当に差別していると考えている。この法律によれば、国内業者の成長を助け、医薬品の価格を低く抑えるためにブラジルでは医薬品が国内で生産された場合にのみ特許権が保護されることになる。よって、外国企業が保護を受けるためには、ブラジル国内に事務所を設立しなければならない。米国は、このような差別をTRIPS協定が禁じていると主張する。米政府は、一方的な貿易制裁措置に踏み切ると圧力をかけながら、ブラジルに対して特許法と医薬品政策の修正を求めての外交圧力をかけた。
昨年、ガーナはジェネリック製薬業者のシプラから廉価なエイズ治療薬の購入を試みた。特許権者であるグラクソ・スミス・クラインは、ガーナに対してその製品は特許登録されているとの警告を行った。政府はその警告に反発する一方で取引を断念した。グラクソ・スミス・クラインも最終的には、その警告が誤りであったと認めている。
知的所有権保護のための最低基準を盛り込んだ国内法の制定が各国で進展する中、政府ができることは、ジェネリック製造を禁じたり、あるいは特許権者に排他的な販売権の付与を認めたりする法律が既にその国で採択されているかどうかによって左右される。
1990年代、米国は多くの国に対して、貿易制裁措置をちらつかせながら、WTOで取り決められた日程よりも早く知的所有権法を強化するよう求めた。米国通商法のある条項は、もしもある国が一定の基準に従わない場合には、ワシントンがその国の輸出品に対して一方的に制裁措置を発動することを認めている。南アに対して、当初、制裁措置発動をちらつかせた当時の米国大統領ビル・クリントンは、後日、サハラ以南アフリカ諸国におけるエイズ治療薬提供に関連して、米国の知的所有権法を緩和するための大統領令に署名した。この大統領令は、サハラ以南アフリカ諸国がエイズ治療薬を製造したり、あるいは入手したりすることを断念するように、WTOによる措置発動や米国特許権法違反をたてに圧力をかけることを全ての米国の機関・組織に禁じている。
アフリカの後発途上国は何が出来るのか
ブラジルは、しばしばアフリカ諸国がその手本とすべき国として引き合いに出される。「既に特許権法を制定している一部の国を除いて、アフリカの多くの国は、製薬会社の注意を引くことなしに、ジェネリック薬を製造したり、あるいは並行輸入したりすることができる」こう語るのは、南アで医薬品価格保護を模索している強力なロビー団体、米国医薬品研究及び製薬業者組合のマーク・グレイソン氏である。「特許権保護法を制定しているのは、ケニア、南ア、ジンバブエといったわずかな国に過ぎない。」
1995年にTRIPS協定が施行された時に、医薬品に対して特許権保護を行っていなかった国々には10年間の猶予期間が認められている。つまり、アフリカのほとんどの国にとって、2006年初頭まで特許権保護の義務はないということである。それまでは、多くの国がブラジルの例に倣うことができるはずである。猶予期間の延長をWTOに申請している国は13カ国にのぼるが、これらの国にアフリカの国は含まれていない。米国に本部を置くアドボカシー・グループ、アフリカ・アクション代表のサリー・ブッカー氏は「WTO協定のこのようなシステムをアフリカ諸国が積極的に利用しないことは驚きである。」と語っている。
ワシントンにある南ア大使館保健分野担当官員であるグラウディン・ムシャリ博士は、アフリカ・リカバリーに対して、1997年薬事法が採択された際、南アは「TRIPS協定が認めている義務免除の項目を法案に取り入れ、政府が強制実施許諾に踏み切ることを可能にしました。しかし、これは医薬品についてのみ認められているものです」と語っている。
製薬会社が南アに対する訴訟を取り下げたことで、パリに本部を置くNGO、国境なき医師団の法律アドバイザー、エレン・ホーエン氏は次のように述べている。「製薬会社が近い将来に、別の途上国を相手取って訴訟を起こすようなことはないでしょう。」
しかし、イギリスに本部を置く国際救援開発NGOのオックスファムは、貧困国の状況を改善するためにはTRIPS協定の修正が必要だと考えており、他のNGOやいくつかの政府と共に、TRIPS協定の修正を求めてのロビー活動を展開している。TRIPS協定見直しのために、WTOは2年に1度会合を開くが、次回予定されている2002年の会合で、TRIPS協定が修正され、途上国が医薬品特許権の期間や適用範囲、特許権登録を行わない医薬品、あるいは特許登録されている製品の製造を国内業者に認めるといったことを、国家開発戦略の一環として自由に決定できるようになることをオックスファムは期待している。
TRIPS協定の定める例外規定
特定非営利活動法人アフリカ日本協議会 (Africa Japan Forum)
〒110-0015 東京都台東区東上野 1-20-6 丸幸ビル3階
TEL:03-3834-6902 FAX:03-3834-6903 E-mail:info@ajf.gr.jp
|English|プライバシー・ポリシー|サイトマップ|お問い合わせ|
Copyright© Africa Japan Forum. All Rights Reserved.