WTO一般理事会(2022年2月23-24日)に向け、政府に要望書を提出

2021年11月末に予定されていた世界貿易機関(WTO)閣僚会議は「オミクロン株」の登場により延期され、2022年になってから初めて、2月23-24日にWTO一般理事会が開催されることになりました。この一般理事会で、長年の懸案となっている新型コロナ(COVID-19)関連製品の知的財産権の一時・一部免除(TRIPS免除提案)が主要議題として討議されます。これに向けて、各国が公式・非公式の提案を出し、会合が行われている状況です。この課題に取り組んでいる国際的な市民社会のネットワークも、声明等を出しています。

◎第3世界ネットワーク(TWN)・世界民衆保健運動(PHM)の声明(英語)

私たち連絡会としても、この重要な機会に、改めて要望書を執筆し、本日、日本政府にお送りしました。この要望書では、以下のことを求めています。

  • 日本政府として「TRIPS免除提案」を明確に支持すること。
  • 「TRIPS免除」については、ワクチンだけでなくCOVID-19関連製品全体を、また、特定地域だけでなく世界全体を対象とすること。
  • 「公平な医療アクセス」について、日本政府としての取組の幅を広げ、技術移転や、日本企業などが今後開発する製品に関する「医薬品特許プール」(MPP)や「COVID-19技術アクセスプール」(C-TAP)の活用促進などにも取り組むこと。

また、日本政府の支援の下で、本年2月にUNDP人間開発報告局が刊行した特別報告書「人新世における人間の安全保障への新たな脅威:より大きな連帯の必要性」についても言及しました。この報告書では、現代の新たな脅威として気候、暴力的紛争、健康、科学技術、その他の脅威の5つを挙げたうえで、人間の安全保障を実現するには、これまでの「保護」と「エンパワーメント」に加え、「連帯」が必要であると述べています。この報告書の精神をCOVID-19との関連で体現するには、TRIPS免除を含めた、「独占と競争」から「共有と連帯」への転換が必要だ、というのが、この要望書の趣旨です。以下お読みください。

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2022年2月21日

内閣総理大臣 岸田  文雄 様
外務大臣   林   芳正 様
経済産業大臣 萩生田 光一 様
厚生労働大臣 後藤  茂之 様

「新型コロナに対する公正な医療アクセスを
すべての人に!」連絡会

新型コロナウイルス感染症関連製品への知的財産権免除で「連帯」の精神の具現化を
WTO一般理事会に向けた日本政府への要望書

 2月23日~24日の二日間、世界貿易機関(WTO)の一般理事会が開催され、ここ数年に渡って議論されてきた「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連製品の知的財産権の一部・一時免除」(以下、「TRIPS免除提案」とする。)も重要な議題の一つとなります。私たちは日本の市民社会の立場から、日本政府に対して、改めて、WTO加盟国のうち64か国が共同提案し、過半数の国が支持している同提案を同理事会において明確に支持することを要望いたします。また、日本政府には、COVID-19にかかる医薬品の公平なアクセスについてご努力を頂いているところですが、この取り組みの範囲を拡大し、医薬品特許プール(MPP)やCOVID-19関連技術アクセスプール(C-TAP)の積極活用や、途上国におけるワクチン・医薬品の製造能力強化による世界全体でのパンデミック予防・対策・対応(PPR)体制の確立に積極的に参画して頂くことを要望いたします。理由は以下の通りです。

  1. 「TRIPS免除提案」支持でWTOの合意形成を前へ

2021年11月に南アフリカ共和国で始めて検出された新変異株「オミクロン株」は12月以降、瞬く間に世界を席巻し、現在、世界はこれまで以上に大きな感染の波に覆われています。これは、迅速に開発されたワクチンや検査・治療ツールについて、知的財産権保護を活用した独占や「ワクチン国家主義」などにより、世界全体で公平なアクセスを実現することができず、その結果、より感染力の強い変異株が出現したものです。現時点でも、高所得国と低所得国の間にはワクチンで5.5倍[1]、検査で77倍[2]の開きがあります。この格差を埋めるには、知的財産権の一部・一時免除と積極的な技術移転により、世界の公衆衛生上のニーズに沿った供給を可能にすることが不可欠です。「誰もが安全にならない限り、誰も安全でない」という警句を踏まえ、日本政府がTRIPS免除提案を支持し、WTOにおける合意形成を前に進めていただくよう、お願いいたします。

  1. ワクチンのみならずCOVID-19関連製品全般を対象に

WTO一般理事会に向けて、非公式に様々な提案が出されています。免除の対象をワクチンに限るとか、特定の地域のみを対象に免除する、もしくは特定の国を免除の対象から外すといった提案です。しかし、COVID-19の被害は全世界に及んでおり、特に、東欧、中南米、中東などの上位中所得国の多くは、人口当たりの死亡率が他の地域よりも高く、世界でも最もCOVID-19のインパクトを大きく受けている状況です。また、オミクロン株は既存のワクチンの効果がこれまでのCOVID-19株に比べて限定的であり、ワクチンのみならず、予防、検査、治療の各種手段を組み合わせて対応することが必要です。世界全体を例外なく危機に陥れているCOVID-19に対しては、製品や地域等を限定するのでなく、ユニバーサルな形で取り組む必要があります。市民社会として、地域や製品を限定しない、普遍的な「TRIPS免除」を求めます。

  1. より幅広い方法で公平な医薬品アクセスを

日本政府が、COVID-19にかかる公平な医薬品アクセスの実現のため、ACTアクセラレーター、特にそのワクチン・パートナーシップであるCOVAXへの支援や、現地でワクチンを必要な人に届ける「ラスト・ワン・マイル支援」に尽力していることは承知しています。私たちは、これに加えて、世界保健機関(WHO)が進める「mRNAワクチン技術移転ハブ」構想や「COVID-19技術アクセス・プール」(C-TAP)などと協調したアジア・アフリカ・ラテンアメリカ各地におけるワクチン・医薬品の製造能力強化の支援や、アフリカ連合のワクチン・イニシアティブであるAVATT(アフリカ・ワクチン調達・接種タスクチーム)への支援、また、今後日本で開発されるCOVID-19にかかる治療薬・医薬品の「医薬品特許プール」(MPP)や上記C-TAPとのライセンス契約の促進など、より幅の広い方法で、世界における公平な医薬品アクセスの実現に取り組むことを提案します。

先日、国連開発計画(UNDP)の人間開発報告室(Office of Human Development Report)が発表した「人新世における人間の安全保障への新たな脅威:より大きな連帯の必要性」報告書(New Threats to Human Security in the Anthropocene: Demanding Greater Solidarity)では、現代の健康・気候・紛争・科学技術・その他の脅威を克服して人間の安全保障を実現するには、これまでの「保護」「エンパワーメント」に加え、「連帯」(solidarity)が必要であり、その決め手となるのは「行為主体性」(Agency)であると喝破しました。この報告書は、日本政府のサポートの下で策定されたものです。COVID-19の脅威を克服し、今後のパンデミックへの備えと対応を確実にし、持続可能な新たなパラダイムを確立するには、日本政府をはじめとする高所得国が、その行為主体性を発揮し、TRIPS免除の実現と積極的な技術移転という形で、「連帯」を具体的な政策として実現することが必要だと考えます。WTO一般理事会に向けて、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現に強い政治的意思を持ち、国際社会をリードしてきた日本政府のご高慮を求めるものです。

[1] UNDP他「Global Vaccine Equity Dashboard」2022年2月16日段階の数字。
[2] FIND「SARS-COV-2 testing tracker」2022年2月21日段階の数字。

 

※国境なき医師団のウェブサイトでも紹介されています。
プレスリリース「WTOで交渉再開──コロナワクチン、治療薬、検査も含め知財保護免除で早期合意を」


「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会
連絡会呼びかけ団体(五十音順)

 (特活)アジア太平洋資料センター(PARC) 共同代表 内田聖子
 (公財)アジア保健研修所(AHI) 理事長 斎藤尚文
 (特活)アフリカ日本協議会 共同代表理事 津山直子・玉井隆
 (特活)国境なき医師団日本 会長 久留宮隆
 (特活)シェア国際保健協力市民の会 共同代表 本田徹、仲佐保
 世界民衆保健運動(People’s Health Movement) 日本代表幹事 宇井志緒利
 (公社)日本キリスト教海外医療協力会 会長 畑野研太郎
 国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 土井香苗