コンゴ共和国で森と動物を守る人たちの活動

セミナー “TALK FOR AFRICA~コンゴ共和国で森と動物を守る人たちの活動” 報告

--開発および国際支援と環境保全についての課題を考える

アフリカの多くの国は、石油や鉱物、木材などの天然資源が豊富なことから、それを諸外国に輸出することで、近年経済開発を進めている。また日本を含む多くの先進国や新興国がアフリカに投資して開発を主導している。しかし、一方で、無反省、自己満足的な開発事業に伴って甚大な環境破壊が引き起こされたり、地域社会にマイナスの影響を与える事例があることに警鐘が鳴らされている。2014年8月26日に開催したトーク・イベントでは、コンゴ共和国の国立公園管理や野生生物保全に長年携わってきたジェローム・モココ氏をお招きして、コンゴ共和国やガボン共和国の熱帯林の現場で、20年以上、研究調査、国立公園管理、環境保全などを行ってきた西原智昭氏とともに現地の最新事情を紹介してもらった。
(1)アフリカ当地からのアフリカ人自身による先進国の見え方について
(2)国家の経済発展の狭間での野生動物・自然環境の保全について
(3)開発業における環境負荷(自然環境に与える負の影響)への事前調査と木材認証制度の拡大の重要性について

講演

Jerome Mokoko(ジェローム・モココ)氏
コンゴ共和国森林省に長年勤められ、鳥類研究者である一方、自国の国立公園設立や整備などに尽力されてきた。のち、森林省の協力者であったWCS(Wildlife Conservation Society) に出向し、現在は、WCSコンゴ共和国の副局長として生物多様性保全のために活動されている。

西原智昭さん
自然環境保全マネージメント技術顧問。コンゴ共和国北部Ndoki Landscapeで活動。WCSコンゴ所属。GCOE生存学創成拠点:西原智昭

イベント概要

最初にモココ氏からコンゴ共和国の全体的な状況、生物多様性の豊かさ、また野生生物の保全に関する主な問題などを紹介していただいた。その内容を受けて、西原氏から開発と国際的な支援を環境保全との関わりとどう考えていくか、話題を提供してもらった。開発教育協会の八木氏から、開発教育について、またいかに私達の生活と熱帯林の現状がつながっているか、開発などの意思決定をする人と影響を受ける地域住民とのギャップなどについてのコメントをいただいた。また、参加者の方々からさまざまなご質問やご意見をいただき、モココ氏、西原氏にお答えいただいた。

モココ氏 講演

○コンゴ共和国の自然や生物多様性の豊かさ、いくつかの野生生物の紹介とそれらの現状について:

  • 4183種の植物、342種の淡水魚、678種の鳥類、21種の霊長類、19種類の肉食獣、43種のコウモリ、14種の他の哺乳類が生息している。マルミミゾウ、西ローランドゴリラ、中央アフリカチンパンジー、ボンゴ、アカスイギュウ、シロクロコロブスなどサルの仲間、ヒョウなどの紹介。特にゴリラ・チンパンジーに関しては高密度で生息している。
  • 1,100万ヘクタールの広範囲の湿地帯があり、ラムサール条約に指定されている貴重な場所である。

○ コンゴ共和国の野生生物の保全に対しての脅威の原因

  • 野生生物の生息地である熱帯林の伐採などによる消失と、また、伐採した木を運搬するために熱帯林の奥深くまで道路を作ったことで、それが密猟者にも使われ、野生生物の密猟を容易にしてしまった。
  • 一部では森林開発の認証制度(FSC認証)を取得している伐採会社の事例もある。FSC認証は、森林の開発はするが同時に森林を持続的に利用できる、しかも野生生物への影響等を阻止して、森林を開発しながら野生生物保全を目指す。
  • 木材は世界の市場-アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどに輸出される(日本のアフリカ熱帯材の購入額は世界第3位という記録がある)。コンゴ共和国は特に産業がないため、自然資源(木材や鉱物資源)を開発して売ることで国家経済を成り立たせている。そのため、野生生物の保全のためにすべての開発業を中止するというわけにはいかない。
  • 象牙の密猟:アジア(中国・日本を含む)で象牙に対する需要があるから密猟がある。現地のパトロール隊が密猟者を取り締まっているが、検挙できる例は氷山の一角で、実際はたくさんの象牙が密猟され、最終目的地であるアジアに密輸されている。また、コンゴ共和国やその周辺地域の内戦・あるいは政情不安定も原因のひとつである。内戦で使われたカラシニコフ銃等が出回って密猟に使われている。
  • ブッシュミート問題:ブッシュミートは野生動物の肉のことだが、ブッシュミートの需要が急激に増加したことにより、合法的な範囲を超えて大量に狩猟され、大規模に商業化されて大きな問題になっている。

○ツーリズム:野生生物保全につながる経済活動になる可能性があり、希望のひとつである。地元住民の伝統文化である歌や踊りをツーリストに見せる、湿原の観察台からツーリストがマルミミゾウやゴリラを観察する、などである。

西原氏 講演

○アフリカは広大な土地があって、天然資源が豊富であるため、工業・農業・資源開発などが行われている。企業の進出・資源開発・インフラ整備、市場拡大などがされ、さまざまな形で人間の経済活動が行われている。その99パーセントが外資系企業である。その一方で、外国からの支援のプロジェクトも多い。人口増加の問題や貧困・飢餓・食料安全・病気の蔓延の問題、あるいは内戦・政情不安定・民族対立があるという問題に対してさまざまな形で ”人道的” 支援・援助がされている。開発と国際支援を環境保全の関わりとどう考えていくかということに対して、コンゴ共和国での具体例から話題を提供したい。

○インフラ整備:ある外資系の企業がインフラ整備という形で、国道を改善しつつある。道路沿いの開発だが、実は地域住民への配慮が全くない。畑・湧き水・墓場などが全部破壊されてしまった。国家と外資系企業の間で約束ができ上っているため、地域住民の意見は全く無視、その一方で、アクセスが良くなることによって、密猟者が入り易くなり、きちんとした規制のシステムがなければ野生生物への負担が大きくなってしまう。また電力を供給するためのダムの開発では、資材を搬入するために河川が人工的に拡大され、地域住民による従来の伝統的漁労活動がしにくくなった一方、何百人という労働者の流入により、河川への環境汚染が懸念される事態となっている。

○伐採業については、国際的に熱帯材の需要があるから、外資系企業が伐採を行ない木材を輸出する。そこでいつも両極端な意見が存在する。「森林を伐採することは生物多様性保全に反するから悪である、それはやるべきではない」と主張する自然保護団体などが多い一方、森林を伐採して木材を輸出することは、コンゴ共和国にとって国家経済の基幹をなすものであり、かつ地域住民の雇用機会にもなるため、全面禁止は不可能だとする主張があり、そこにジレンマがある。

○医療設備が作られることに対して決して否定はしない。ただし、5年、10年先に、医療の充実化によって拡大し得る人口増加に対して将来の食料安全を維持できるか、そこまで長期的な視点で考えなければならないのではないか。

○熱帯林の奥地まで携帯電話が普及したことによって、奥地で密猟した象牙やブッシュミートなど野生生物の違法な運搬や受け渡しなどが容易になり、野生生物への負担がさらに強くなる。

○食料安全のために森を切って畑を作るというのも環境破壊につながる場合がある。

○食料安全の問題で食料が足りないからブッシュミートもやむを得ないとか、ブッシュミートは残酷だから家畜を導入しろと言う人たちもいる。しかし牛の導入には草原が必要で、そのために森を破壊しなければならないことになる。豚、ヤギ、鶏はそこまで広い土地を必要としないが、大規模になれば環境を破壊する可能性は十分にある。

○近代教育の問題:アフリカ中央部の熱帯林にいる先住民の狩猟採集民が近代教育を受けるようになったことで、森に関する知識や森を歩く技能などを親から学ぶ機会や時間が失われている。そのため、若い世代の先住民に知識や技能が引き継がれず、彼らの伝統文化が消失するおそれがある。また、先住民はその知識や能力を使って、密猟のパトロールや研究者が野生動物の調査をする手助け、あるいは森の中でのツーリストのガイドを担っているため、もしも彼らの森に関する知識や技能が失われてしまったら、野生生物保全どころではなくなってしまうだろう。

○まとめ
アフリカでは、開発や国際支援の事業、たとえば伐採・インフラ整備・食料安全・医療保険・近代教育は、企業であれNGOであれ、ほとんどが外資系、先進国・中進国が中心となって、実施されている。残念ながらこれらの多くは自然環境保全・野生生物保全・地域伝統文化を配慮していない、つまり自分の目線でしか行われていないのが現状である。また、その努力を否定するわけではないが、一方的に伐採業を根拠なしに悪だと決めつけたり、象牙の使用の伝統文化である側面などを考慮せず否定するNGOや自然保護団体なども存在し、そういった姿勢が対話を妨げ、解決策のない悪循環が未だに継続している。野生生物保全の観点から見た時に、アフリカでの国際支援や国際貢献やビジネスや開発などの問題を良い悪いではなくて、もう一度どういう観点で話をするべきか、バランスを持って考えるべきである。

座談会

【開発教育協会の八木氏からのコメント】
コンゴ共和国での開発が与える影響について知る時間になったと思う。皆さんあまりご存じないと思うので、開発教育について少しだけ説明させていただくと、開発=ディベロップメントが引き起こす課題や影響について、例えば今回の話題であれば野生生物とか森林に対するインパクトがどんなものがあるか?、またその問題と私たち日本の市民がどう関わっているか、決して無関係ではないことを学ぶという教育活動をしている。例えばアフリカの熱帯材の輸入の世界第3位が日本であるというお話があったが、それを消費している私達の便利で豊かな生活というものが、アフリカの環境を破壊しているということを知るのもまず大事かと思った。象牙の話とか、熱帯材の話とか、実は自分たちの生活と関係なくはなくて、つながっているという具体例が今日のお話の中にたくさんあった。開発教育はまず知ることを入り口にして、その後考える、そして行動することを最終的な目標にしている。ダム開発のお話があったが、ダムを造るという意思決定をする人、そしてその影響を受ける人間や野生生物、その間に大きなギャップがある。影響を受ける人は意思決定ができない。例えばダム開発であれば日本の政府開発援助、ODAなどが入っているかもしれないし、私達が預けているお金が投資されているかもしれないし、その大きな開発プロジェクトと私達の政府の問題、私達が選んで意思決定権を持っている政府の問題とつながってくるかもしれない。私自身は開発教育の教材を作ったり、色々なつながりを探す仕事をいつもしているので、日本やヨーロッパなどの南の国々の資源を消費したり開発したりしている人たちと、現地の状況、その環境保全・破壊のこととつながる部分があって、たくさんの人に知ってもらって目を見開いてもらうきっかけになるお話だったと思う。

八木氏:エコツーリズムが経済活動の中で唯一希望がもてるというモココ氏からのお話があったが、コンゴでエコツーリズムというと実際どんなものがあって、どういう位置づけなのか。

モココ氏:コンゴ共和国でのツーリズムはまだ初期段階だが、もし成功すれば、野生生物保全の一つの希望となる。ツーリズムの一つの貢献は、ツーリズムによる収益を、国立公園の保全・管理に回すことができるという点。なぜかというと、現在の国家予算では国立公園の管理等に直接あてる予算はないという状況にあるからである。現在の状況で、政府が国立公園に対する予算がないので、大きなふたつの国立公園、オザラ・コクア国立公園とヌアバレ・ンドキ国立公園で、コンゴ政府が直接管理するという形ではなく、財源をいろんなNGOや助成金から取って、それを元にして原理的にはコンゴ政府がマネージメントするという形ではあるが、当面はNGOが肩代わりして管理して進めていくというやり方をとっている。もちろん困難な問題はいくらでもあるが、現段階ではそうしたやり方が国立公園の発展とツーリズムにとって重要である。コンゴのツーリズムは初期段階で、だからこそちゃんとインフラを作ったりと、大きな資金が必要なので、そういうシステムでやって行かざるを得ない状況である。また、地域住民にとって、いったいツーリズムとは何なのか、何をしてくれるのか、そこの点がまだ明解にされてない。同時に、例えばツーリストがコンゴ共和国に入った時に何遍もパスポート審査をしたり、非常にツーリストを悩ませるような状況になっている。それは軍や警察がツーリズムの重大さをわかっていないためである。

西原氏:ツーリズムについて補足説明をするが、いわゆる皆さんが言っているエコツーリズムのエコというのはいったいなんなんだろうというのを考えてほしい。ツーリズムによって本当に地域住民に貢献しているのかということを。通常貢献していることになっているが、それについてフォローして検討されたことが、一部の地域以外はほとんどない。エコツアーという名前だけ掲げていると、お客さんは集まるが、いったい本当に環境配慮とか野生生物保全、地域住民に貢献をしているのかということを真摯に検討しているのか。それから、ゴリラを先住民のトラッカーさんをつかってトラッキングして観察するツーリズムがあるが、これは今問題になっているエボラ出血熱とも少し関係がある。(エボラに感染している)ゴリラにタッチした人間にも感染する可能性があるし、また逆もありきで人間からゴリラに感染することもある。またツーリストなどが糞尿などの排泄物を森の中に放置したり、ロッジで糞尿の処理をちゃんとやっていなかったら、それをタッチしたゴリラやチンパンジーに人間の病気がうつることになる。つまり、ツーリズムによって逆に野生生物に負荷をかける。ツーリズムを本当に発展させるためには、そこまで考えなければならない。

会場の参加者からの質問・意見

質問者1:ケニアで保護活動をしており、(野生生物の保護などの活動には)地元の人たちの協力が必要だと思うが、インセンティブを作るのが非常に難しいと感じている。その方法について何か考えておられるか、また具体的にどんなことをされてるのか教えてほしい。

モココ氏:コンゴの場合でも野生生物保全にとっては地域住民の参加型のやり方が必要不可欠である。残念ながら何10年間、国立公園の保全などに取り組んできたにも関わらず、地域住民への貢献とはいったい何なのか、というのがきちんと確認されないまま今に至る状況である。例えば国立公園であるとすると、その国立公園の管理計画書を作らなければならないのだが、そこにも地域住民が積極的に参加するという場が実際にはない。本来は彼らがむしろ管理プランを作るときの主役となるべき人たちであることは確かである。

質問者2:お話を聞いて悲観的になってしまうが、開発か保全かということになるし、それらはお互い相容れないように感じる。将来的にこれらが相容れるような形があるのかということをお聞きしたい。

モココ氏:保全の問題と開発の問題を対立項目として考えるのではなく、一緒に協力する方法でやって行く。例えば伐採会社が対密猟のパトロール隊のためのお金を出す、あるいは環境配慮型で伐採を行う、木は切ってビジネスはするけれども、環境に対して確実に配慮し、同時に伐採会社も一回限りで全部切ってしまうのではなくて、持続的に何年もビジネスが続けられる、そういう環境認証型の形で伐採をやる。地図上で国立公園であって仮に伐採区に指定された場所であっても、国立公園の中で一部は保護されるべき地域である、あるいは野生生物にとって敏感な地域であるということをあらかじめ管理計画書で定義する、定義されたからには伐採会社にそれをきちんと守る形でやってもらう。現実にそういう事例は進行中で、木を切りながらも野生生物への違法行為は一切禁止するということが、管理計画書に書かれていて、それを実行している伐採会社もある。つまり、木を切りながら、しかし野生生物は殺さない、そして決められた分量・種類の木以外は切らないということである。

質問者3:大学生でNPOを手伝ったりしている者だが、西原氏の以前の講演にも参加し、今日も新しい情報を聞けて良かった。状況を見る限り、悲観的になる必要はあまりないと考えている。認定証を付けるとか、オーガニック認定を与える、フェアトレードに持っていく、ビジネスの側とぶつからないで。我々自身もコーヒー・紅茶・チョコレートなどに慣れてしまって、商品作物を作らないのは現実的に無理である。以前はNPOは全面禁止や不買運動の方向に持っていこうとしていたが、今はより高い値段で買ってあげれば、どうにか解決できるんじゃないかとか、アプローチが少しずつ変わってきている。ただ日本のカスタマーがまだあまり意欲的じゃなくてオーガニック商品を買う流れができていない。道路を作って終わりではなく道路の作り方も含めて指導するような形で、ODA支援をするなどの方法がある。ダムに関しても、日本の河で鮎が川上の方に戻っていけるように、泳いで超えていけるような堤防を造って、鮎が実際に東京の川などに戻ってきたという例もある。悲観的になって何もしなくなったら終わりなんじゃないかなと思った。

質問者4:ジャングル大帝のお話みたいだと思った。50年位前と変わってない、その間の時間は何だったのだろう?開発と保全の課題についてもコンゴの国民が決めなきゃいけないと思う。そのためには教育が必要だと思うが、彼らが自分で決めるという方法や希望はあるのか。

西原氏:僕が先住民に限ってお話しした教育の問題なんですけれども、そのことについてモココさんに答えていただく。
モココ氏:先住民の教育の問題は繊細な問題で、一概にこうだと言える問題ではない。その一方で、国際的な基準で近代教育を盛んにさせる動きはある。先住民の教育の問題に関わることで、2つの極端な流れがある。ひとつは先住民が教育を受けて”立派な文明化された”人になるべきであるといった考えがあり、一方、先住民は先住民で森の中に残ったまま狩猟採集などをやるべきであるという考えがある。このようにふたつの対立した考えが並行して起こっている。先住民の問題は、コンゴ共和国の狩猟採集民だけではなくて例えば北アメリカのインディアンやオーストラリアのアボリジニなどの多くの先住民族が世界中にいる。国際的な先住民会議があるが、その会議に出席する代表者は、やっぱり自らの通常の姿でなく正装して、先住民であって先住民でないような、そしてしかも飛行機に乗って会場に現れる。その辺の矛盾もあると思う。コンゴ共和国にも法律があり、例えば教育に関する法律であろうがなんだろうが、コンゴ国民として先住民も認定されている一方、コンゴの国内法に従って一国民として教育を受けなければならないという規定はあるが、しょせん規定だけであってそれ以上にはならない。コンゴ共和国には先住民がかなりいるが、さまざまな形でそうした先住民が変化してきている、いろいろな分野で働く先住民、例えば車を運転する先住民、伐採会社で働く先住民……などいろいろな生活形態の先住民がでてきている。

質問者5:コンゴ共和国はいかに日本から遠いかと思った。またFSC 認証について教えていただきたい。

モココ氏:おっしゃったようにコンゴは日本から遠いし、我々コンゴ人にとっても日本は遠い。日本がアフリカに知られていない理由のひとつに単に遠いだけではなく、アフリカはヨーロッパ諸国から植民地化されて先進国からいろんな影響を受けてきたが、日本は海のまん中にある島で、これまで植民地化された事例はないし、特殊な歴史を送ってきた、そういう意味でも我々コンゴ人にとっては把握しにくい国である。外交上の問題でも、ほとんどつながりがないので、実際コンゴ共和国に日本大使館はない。隣国のコンゴ民主共和国の首都、キンシャサには日本大使館があるが、コンゴ共和国の首都ブラザビルにはない。外交上のつながりは薄いが、例えばコンゴ共和国のヌアバレ・ンドキ国立公園に最初に来た観光客は日本人である。日本人はあちこち海外に行く傾向があるので、政治の問題はともかく、どうぞコンゴに来てコンゴのことを理解していただきたいと思う。
西原氏:FSC認証について。FSCというのはForest Stewardship Council認証といって、森林伐採に関する認証制度のことである。環境配慮・社会貢献に配慮を持った企業に対して認証が与えられる。アフリカの熱帯林でも多くの外資系の企業が今そちらに向かって努力しているにも関わらず、ほとんど日本でその思想が広まっていないのが現状である。FSC認証の紙も日本ではあまり出回ってない。FSC認証のマークがついている紙を買うということは、FSC認証を持っている環境配慮型の伐採会社で生産された紙なり木材を買うことである。また、消費者の側がFSCのマークがついている物しか買わないということになれば、環境や社会に配慮した伐採会社しか生き残れないから、そういう方向で消費者から支持されなければならない。

質問者6:モココさんご自身が東京をご覧になってどう感じたか?また、東京の町並みを見てコンゴもこうなりたいと思われたか?

モココ氏:決してコンゴが東京のようになるとは思えない。日本はコンゴと日本は決定的に違って、例えば自然環境でもコンゴでは地震もないし津波もない。歴史的背景もだいぶ違っていて、日本は歴史が長いが、コンゴは独立してせいぜい50年ぐらいしか経ってないので、今すぐにコンゴが日本みたいになるわけにはいかない。今回初来日するにあたって、富士山とか広島とか多少日本のことは学んできたが、先日実際に生まれて初めて富士山に行って、そこでやっと実際に自分の学んできたことと、自分の経験が結びついた。アフリカではその程度にしか日本のことを知らないという状況が未だにある。

最後に西原氏から
圧倒的に情報が不足していると思う。コンゴ人も日本のことを良く知らないし、逆もしかり。これだけインターネットで情報があふれてるのに、実際の問題をほとんどの人が知らない。みんなインターネットに振り回されている。こういう話題を提供できる機会があればいいと思うが……。情報がないとこれまでの先入観とか通念で人々が物事を判断してしまう。それが国際貢献やNGOのあり方、開発業のあり方などに影響を与えてしまう。開発業分野の方と以前話をしたときに、環境を配慮するような形でのビジネスはまだ構築されていないとのことだった。それは別にその方の責任ではなくて、やはり情報がない。そして情報がないことの障壁になっているのは、日本の場合は縦割りで、分野を超えた対話がないからである。それが情報流通を阻止しているネックである。国際協力とか国際貢献とか一見良かれとして進んでいることはあるが、実際、環境を配慮することとか、地域住民の方の目線でやっているのかというと、実際は成されていないことが多い。
先入観の例では、よく使われる「熱帯夜」という言葉も、実際アフリカの熱帯地方には熱帯夜はないので、先入観から生まれたおかしな言葉である。また現在日本各地で起こっている集中的豪雨も低気圧などだけの問題でなく、気象変動や温暖化などの問題が関わっている可能性も大いにある。アフリカの熱帯林がなくなっていくことが今の日本の問題に関わってくるかもしれないということ、遠い国の問題だが、このように情報がつながっていけば実際に自分の問題として考えられるかもしれない。また、皆さんがスマホなどから頻繁に受け取っている情報も、確たる情報かどうか、皆さんが情報を取捨選択しながら、受け取ってほしい。

>>アフリカ熱帯林の現状と日本の関係