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HIV/AIDS治療へのアクセスに関するジョグジャカルタ円卓会議

【報告書】

2003年9月

〜国際協力から国レベルの自足体制へ〜

2003年9月1日〜3日
インドネシア・ジョグジャカルタ市 ジョグジャカルタ・プラザ・ホテルにて開催

Jogjakarta Roundtable Meeting (JRM) on Access to HIV/AIDS Treatment
"From International Collaboration towards National Self-Reliance"
September 1-3, 2003
Jogjakarta Plaza Hotel, Jogjakarta

1.会議の概要

 去る9月1日から3日にかけて、インドネシア共和国ジョグジャカルタ市において、主にASEAN地域に於けるHIV/AIDS治療の現状と将来について討議するための国際会議「HIV/AIDS治療へのアクセスに関するジョグジャカルタ円卓会議」が開催されました。

 「国際協力から国レベルの自足体制へ」という野心的なサブタイトルをもつこの会議は、昨年9月にオーストラリアのキャンベラで開催され、東南アジアや大洋州地域におけるHIV/AIDS治療の実現に向けた基本方針を形作るものとなった「キャンベラ円卓会議」の地平を引き継いで開催されたものです。

 会議を主催したのは、インドネシア大学医学部HIV/AIDSワーキンググループ(Pokdisus: HIV/AIDS Working Group, Department of Medicine, University of Indonesia)。会議には、インドネシアでHIV/AIDSに取り組む主要なNGOやPHA(エイズ患者・HIV感染者)の組織、研究者、政府の担当者などが勢揃いしました。また、東南アジア(9ヶ国)・オーストラリア・キューバ・アメリカ合州国等合計15ヶ国から、WHOなどの国連機関やASEANなどの地域協力機関、ドナー組織、国際NGOの活動家なども参加し、総勢72名(うちインドネシアが45名)の参加がありました。インドネシアからの参加者が過半数を占めていますが、会議の内容はインドネシア一国だけでなく、広く東南アジア・南アジアにおけるHIV/AIDS治療の現状を整理し、将来の方向性を探る非常に有益なものでした。残念ながら、日本を含む東アジアからは一名のみの参加にとどまりました。

 会議の主催・後援団体および参加国は、概ね以下のような形となっています。

(1)会議の主催団体

・インドネシア大学医学部HIV/AIDSワーキンググループ Pokdisus

(2)会議の共催・後援団体

・フォード財団(Ford Foundation)
・世界保健機関(WHO)
・オーストラリア国際開発庁(AusAID)
・ペリタ・イルム・ファウンデーション(Pelita Ilmu Foundation)
  (インドネシアのPHAおよびヴァルネラブル・コミュニティのNGO)
・ジョグジャカルタ・PHAネットワーク JOY
(ジョグジャカルタ市のPHAの当事者組織)
・ジョグジャカルタ調査・教育・出版研究所 LP3Y
  (ジョグジャカルタを中心にメディアのチェック・啓発を行っている組織)
・インドネシアHIV/AIDS治療アクセス促進運動 (GN-MATHA: Indonesian Movement to Improved Access to HIV/AIDS Treatment)
  (インドネシアでHIV/AIDS治療を促進するためのセクター間連携組織)

(3)会議参加者の出身国

・東南アジア:ブルネイ1、カンボジア1、シンガポール1、タイ2、ラオス2、マレーシア2、フィリピン2、アメリカ合州国1、ヴェトナム2、インドネシア45

・その他:オーストラリア4、キューバ1、インド5、日本1

(4)会議参加者の所属組織(インドネシア以外)

・オーストラリア・エイズ組織連合(AFAO)
・アジア開発銀行(ADB)
・ブルネイ・ダルサラーム国エイズ委員会
・国境なき医師団フランス(MSF-F)
・国境なき医師団ベルギー(MSF-B)
・アクション・フォー・エイズ(シンガポール)
・ヴェトナム社会主義共和国保健省
・ラオス人民民主主義共和国保健省
・マレーシア・エイズ財団
・マレーシア・エイズ協議会
・東南アジア諸国連合社会開発局
・アメリカ・エイズ研究連合(AmFAR) 等

2.インドネシアにおけるHIV/AIDSの現状と取り組み

 会議に関する報告の前に、インドネシアにおけるHIV/AIDSの状況について簡潔に整理することとします。

(1)インドネシアにおけるエイズのインパクト

 インドネシアでは、約13万人がHIVに感染していると推定されています。以前から、主に異性間の性行為感染が感染原因の多くを占めていましたが、近年になって、薬物使用に伴う感染がかなり増大しているようです(2002年で感染者全体の20%程度)。ジャカルタを中心とするヴァルネラブル・コミュニティを基盤としたエイズ・サービス組織であるペリタ・イルム・ファウンデーション Pelita Ilmu Foundation が2000年に調査したところでは、ジャカルタのカンプン・バリ地区 Kampung Bali のドラッグ・ユーザーでHIV検査をした152人の92%がHIVに感染していたということで、ドラッグ・ユーザーのHIV感染への関心が高まっています。ペリタ・イルム・ファウンデーションはドラッグ・ユーザーに対するニードル・エクスチェンジなどのハーム・リダクション(健康被害軽減)プロジェクトを開始しています。

(2)インドネシアのエイズに関する国家政策

 インドネシアでは、政府が包括的なエイズ対策に乗り出したのはかなり最近になってからのようです。インドネシアの中央政府は最近、「国家エイズ戦略(Strategy)」を策定しましたが、その理由は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金にファンドを申請する上で「国家戦略」を制定する必要があるから、というものだったそうです。また、現在においても、インドネシアは国家レベルでのエイズ対策の計画(Plan)を持っていません。これは、インドネシアのエイズ関係者の間では、スハルト政権崩壊以降の脱中央集権化(decentralization)により、中央政府から地方政府への権限委譲が大きく進んだことによるものです。しかし、各地方政府は独力でエイズ対策を形成・運営する能力を有しておらず、地方レベルでエイズ対策の滞りが著しい、と、多くの会議参加者が指摘していました。脱中央集権化の負の側面がエイズ対策において現れているとの指摘です。

(3)インドネシアのエイズに関するNGOの活動

 アジアのエイズに関わるネットワークであるセブン・シスターズの活動や、アジア太平洋国際エイズ会議等でのパフォーマンスにおいては、インドネシアのNGOはそれほど可視化された存在ではなく、インドネシアはタイやマレーシアなど他のASEAN諸国に比べ、HIV/AIDSに関わる活動は低調なのではないかと考えられてきました。しかし、実際には、インドネシアでは、ジャカルタやバリを中心に、HIV/AIDSに関わって数多くのNGOが活発に活動していること、PHAの組織も一定のネットワークを持って存在していること、また、インドネシアでエイズ対策を精力的に進めてきた少数の医師・研究者・専門家らと、これらのNGOやPHAグループの連携が大きく進んでいることが、今回の会議に出席して強く感じられました。

 たとえば、ジャカルタのペリタ・イルム・ファウンデーションは、PHAやドラッグ・ユーザーなど、ヴァルネラブル・コミュニティや地域別に11のブランチをもって活動しています。また、インドネシアのPHAのネットワークとしては、インドネシアPHAネットワーク(INP+)があり、ジャカルタのスピリティア協会 Yayasan Spiritia が事務局を務めています。会議が開催されたジョグジャカルタにも、PHAのネットワークであるJOY(ジョグジャカルタPHAネットワーク)が存在しています。

 その他、エイズに関するメディア報道の質の向上を目指すジャーナリストのネットワーク(LP3Y)や、エイズ治療の促進をめざすアドボカシー・グループ(GN-MATHA)、ジャカルタのエイズ関連のNGOの連合体「ジャカルタ・エイズNGOフォーラム」なども存在しています。これらのNGOが、HIV/AIDSの研究や治療等を行っているインドネシア大学や主要な病院・医学研究機関の研究者・専門家らと連携することによって、エイズ対策で自ら進められる部分を進め、政府へのアドボカシー等も行って、インドネシアのエイズ対策を一歩一歩前進させてきたようです。

(4)インドネシアにおけるエイズ治療

 先に述べたように、インドネシアには約13万人のPHAがおり、そのうち5〜10%がARVによる治療を必要とするとされています。インドネシアにおけるPHAの治療は、インドネシア大学医学部HIV/AIDSワーキンググループ(Pokdisus)によって1999年から開始されました。

 インドネシアにおけるARV治療開始までのPokdisusの取り組みは、彼らがまとめた「From Small Steps Towards A Giant Leap」(小さな一歩から大きな飛躍へ)という小冊子にまとめられています。インドネシアでは1996年のHAART療法の開発は知られていたものの、治療費の高さから公的医療機関ではARVの導入が行われず、ARV治療を得たい人は民間医療機関で全額自費で治療を受けるしかありませんでした。この状況を突破したのが、インドネシア大学医学部の医学者・研究者たちとインドネシアのPHA活動家たちです。

 Pokdisusはインドネシア大学医学部付属病院で廉価なARV治療の供給を開始するため、最初に欧米の多国籍製薬企業と交渉しました。若干のディスカウントはあったものの、すぐに値上げとなり、この交渉は不調に終わりました。そこで、インドのジェネリック薬企業であるアウロビンド社 Aurobindo との交渉により、一人あたり一ヶ月80万ルピア(1万円)でARV治療が実現することとなりました。当時は、Pokdisusのメンバーがインドに買い付けに行くという方法で治療薬を入手していたそうです。

 しかし、ARV治療を求めるPHAの増大により、この方法では十分な治療薬を入手することは困難となりました。そこでPokdisusは、インドネシアの国営製薬企業インド・ファルマ Indo Farma と連携し、大量のARVを、より安く恒常的にインドから輸入することができるようになりました。Pokdisusは現在、一人あたり一ヶ月60万ルピア(7500円)で1000人のPHAにARV治療を供給しており、2005年までに対象者を3000人に拡大する計画をたてています。

 一方、政府もようやくARV治療の公的医療への導入に重い腰をあげつつあります。インドネシアのもう一つの国営製薬企業キミア・ファルマ Kimia Farma は、タイの政府製薬機構(GPO)の支援を受け、三剤(AZT、3TC、ネビラピン)の製造を開始しました。これは現在、政府によって購入され、特定のARV治療プログラムに活用されつつあります。また政府は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の資金を得て、とりあえず100人のPHAにARV治療を供給するプログラムを開始しました。また政府は、先月に「治療・ケアに関する国家計画」(National Protocol of Care and Treatment)を発表。さらにキミア・ファルマのARV製造に関してWHOの事前審査を受けた上で、2004年度中に2000人のPHAに20万ルピア(2500円)でARV治療を供給するという目標を掲げています。

(5)インドネシアにおけるエイズ治療の課題

 このように、ここ数年でARV治療への努力は非常に大きく進みつつあります。しかし、一方で指摘されるのは、ジャカルタやジャワ島の主要都市、バリ島など、国の中心をなす部分についてはARV治療へのアクセスが徐々に容易になる一方で、西パプアやフローレス諸島、マルク諸島など周縁をなす部分との格差がどんどん拡大していくということです。また、地方分権化にともない、エイズへのケア・サポートや治療に関して十分に能力のない地方政府への権限委譲が進み、各地方でのエイズ対策の導入がスムーズに行かないということがあり、地方におけるエイズ対策の進展に影を落としています。

 また、ARV治療を開始する上で重要なのは自発的カウンセリング・検査(VCT)やCD4、ウイルス量などの診断検査へのアクセスですが、これについては、インドネシア全体でみると非常に厳しい状況となっています。例えば、VCTに関しては、ジャカルタにはVCTセンターは10箇所ありますが、他地域では、訓練されたカウンセラーはある程度いるにもかかわらず、検査設備がないために、VCTが行える場所は非常に限られているということです。また、診断検査については、ジャカルタでは2つの病院(ダルマイス・国立ガン病院 Dharmais National Canceer Hospital とシプト・マングンクスモ総合病院 Cipto Mangunkusumo General Hospital)でしかCD4検査ができず、ウイルス量に関しては一つの病院(シプト・マングンクスモ総合病院)でしかできないとのことです。また、CD4検査の相場は15万〜25万ルピア(1500〜3100円)、ウイルス量検査については1700万ルピア(2万円強)と高額です。インドネシアにおいて本格的にARV治療を導入するには、VCTおよび診断検査へのアクセスを、相当広い範囲で拡充していく必要があります。

(6)インドネシアにおけるエイズへの差別・スティグマ

 インドネシアのHIV/AIDSの感染拡大は、現状でおもに、セックスワーカー、ゲイ・MSM(男性と性行為をする男性)、ドラッグユーザーなど、HIV感染の可能性に特にさらされているコミュニティを中心に起こっています。90年代前半は、感染経路として同性間性的接触の割合がある程度高かったようですが、近年は、薬物使用に伴う感染が急激に増大していると言われています。ドラッグユーザーは貧困層と人口がかなり重なっており、差別や暴力にさらされる可能性が非常に高いと言えます。

 また、インドネシアの主要な地域ではイスラームの影響が強く、イスラームのコミュニティにエイズやこれらのコミュニティに関する正確な知識が十分に伝わっていないために、イスラームのコミュニティに属する人々がPHAに対して差別的な態度をとることが多く見られています。

 これらに関して、HIV/AIDSに取り組むコミュニティの側も、イスラーム宗教指導者との交流やコミュニティ活動への参加の促進をはかるなどの努力をしています。例えば、ジャカルタの有力なAIDSサービス組織であるペリタ・イルム・ファウンデーションは、ジャカルタのある地域にPHAのためのドロップ・イン・センターを持っていますが、これについて、周囲のイスラーム・コミュニティはセンターの設置に反対する態度をとり続けてきました。それについて、ペリタ・イルム・ファウンデーションでは、60名の宗教指導者を施設に招いてワークショップを行い、さらにイスラームの伝統的な音楽祭などのイベントを開催することによって、施設とコミュニティの共存をはかりました。その結果、センターは地域にある程度受けいられることに成功したようです。

 こうした社会的・心理的・宗教的差別に加え、制度的な差別も存在しています。PHAやHIV/AIDSに取り組む人々の間で最大の問題となっているのは、HIV/AIDSおよびSTIがインドネシアの国家健康保険 National Health Insurance の適用除外となっていること、および、就職や民間保険への加入等の際にHIVやC型肝炎などの検査が必須とされ、事実上の強制かつ秘密の守られない検査とカウンセリングなき告知が行われているということです。

 インドネシアの国家健康保険は、公務員や大手企業の雇用者が加盟しており、公務員は無料で医療にかかることができます。しかし、性感染症およびHIV/AIDSは適用除外となっています。これについては、労働環境の改善等に取り組むインドネシアのNGOなどが制度の改正に向けて働きかけを行っています。

 より多くの人に関わる問題として、後者の強制検査の問題があります。これは、就職の条件として事前の健康診断が義務づけられ、その中で、HIVやC型肝炎の検査が、本人への確認や承諾なく行われ、結果が企業側にも知らされ、本人への告知はカウンセリングを伴わない形で行われる、という問題です。これにより、就職口を奪われた上、大きな精神的ショックを抱える人が多く、PHAの組織やエイズ・サービス組織では、この問題を深刻に捉えていますが、まだ具体的なアクションには至っていないようです。

(7)ジャカルタにおけるPHAの組織の活動

 人口千万人を超える東南アジア最大の都市、ジャカルタの南部に、ユースのPHAが中心のピア・サポート組織である「ペリタ・プラス」 Pelita Plus の事務所があります。9月4日、私はジャカルタを訪れ、国境なき医師団フランスの東梅久子医師とともにこの団体の事務所を訪問し、インタビューを行いました。若手の国際関係スタッフであるバユ・ミルヨノ Bayu Milyonoさんに、質問に答えてもらいました。

 以下はインタビューの要約です。

Q:ペリタ・プラスはどのような組織ですか。

A:ペリタ・プラスは、ジャカルタのエイズ・サービス組織であるペリタ・イルム・ファウンデーションの11のブランチの一つです。ペリタ・イルム・ファウンデーションは、貧困なユース層、ドラッグ・ユーザー、セックス・ワーカーなど、コミュニティと地域とで区分された11のブランチを持っています。ペリタ・プラスはその一つで、PHAで構成するブランチです。

Q:ペリタ・プラスはいつ結成され、どのような活動をしていますか。

A:まず、ペリタ・イルム・ファウンデーションの歴史について話します。ペリタ・イルムは1989年に結成されましたが、当時はスハルト政権で権威主義体制にあり、政府はエイズの存在を大きなものと認めたがりませんでした。そのため、ペリタ・イルムは1990年代後半まで、公然と活動をすることは困難でした。1999年になると、エイズに関する活動を公然とできる状況ができてきました。そこで、PHAで構成するグループとしてペリタ・プラスが設けられ、まずPHAのピア・エデュケーターの育成に取り組みました。また、一般の人々へのキャンペーンや啓発活動としては、毎年世界各地で行われているエイズ・キャンドル・ライト・メモリアルにジャカルタから参加したのが最初です。

 ペリタ・プラスは、ピア・エデュケーター以外に、PHAとして社会に対して話をしていくためのスピーカーの養成や、ポジティブ・リビングの促進のためのワークショップ、伝統的な治療に関するワークショップなども行うようになっています。

Q:ふだんの活動はどんなことをしていますか。

A:私たちの活動は、最も低い階層に属するPHAとの連携とサポートです。アドボカシー活動はそれほど行っていません。ペリタ・プラスはこの事務所に、7名のフル・タイムのスタッフを置いています。事務所は月曜日から金曜日までの午前9時から午後4時までと土曜日の午前中に開設しています。日曜日には、PHAのためのホットライン・サービスを行っています。バディ・サービスなども行っています。

 これまでペリタ・プラスでは、合計586人のPHAと連絡を持ち、一緒に活動してきました。活動の基本は、毎月開設しているPHAミーティングです。

Q:活動に参加してくるPHAにはいろいろな人たちがいると思いますが、お互いにいい関係を保つことはできていますか。

A:かつては性行為で感染した人が多かったのですが、最近は、薬物使用による感染が大きな割合を占めます。ペリタ・イルム・ファウンデーションでは、ドラッグ・ユーザーに対するニードル・エクスチェンジなどのハーム・リダクション・プログラムを実施しています。インドネシアでは、自分(oda)と仲間(ohida)という考え方があり、私たちもポジティブ・リビングの啓発のワークショップなどでこの考え方を応用してお互いがよい関係を作れるように努力しています。

Q:資金はどのようにしていますか。日本の感染症対策援助を受けたことはありますか。また、国際的なPHAのネットワークとの関係はどうなっていますか。

A:私たちにファンドを提供してくれている組織のうち、主要なものは、フォード財団です。ARV治療に関しては、Pokdisusを始め、国内の多くの団体や国境なき医師団(MSF)などと連携しています。日本の感染症対策援助についてはよく知りません。アジア・太平洋のHIV/AIDS関係のネットワークのうち、APN+(アジア太平洋PHAネットワーク)とは多少の関係があり、また、恒常的にAHRN(アジア・ハーム・リダクション・ネットワーク)と関係を持っています。

Q:どうもありがとうございました。

 ペリタ・プラスの事務所はスタッフの出入りも多く、活発な活動が行われているようでした。インタビューに答えてくれたミルヨノさんは、2年前までマレーシアの大学で学業に励んでいて、この団体で活動をし始めたのは今年になってからということでしたが、とても丁寧かつ親切に質問に答えてくれました。数時間の滞在とインタビューでは活動の状況は十分には分かりませんが、ミルヨノさんの受け答えは堂々としたもので、活動への自信のほどが伺えました。

(8)インドネシアのHIV/AIDSの状況に関するリソース

 本章の内容については、本件ジョグジャカルタ円卓会議で配布された以下の資料および、会議中および会議後に行った以下の方へのインタビューによって構成したものです。

○文献:

・Pokdisus, "Jogjakarta Roundtable Meeting: From International Collaboration towards National Self Reliance", 2003.

・Samsuridjal Djauzi and Kurniawan Rachmadi, "From Small Steps towards a Giant leap", The Working Group on HIV/AIDS, Faculty of Medicine, university of Indonesia, Dr. Cipto Mangunkusumo General Hospital, Indonesian perspective Group, 2003.

○インタビュー:

・Adi Sasongko, Director for Health Services, Yayasan kusuma Buana, Jakarta

・Husein Habsyi, VIce Director of Perita Ilmu foundation, Jakarta

・Kurmanian Rachmadi, Program Manager of Pokdisus, Jakarta

・Chris Green, treatment Educator, Spiritia Foundation, Jakarta

・Samsuridjal Djauzi, Director of Dharmais Cancer hospital, Jakarta

・Tuti Parwati, Director, yayasan Citra usadha indonesia, Bali

・Zubairi Djoerban, Chairman of Pokdisus, Jakarta

・Bayu Milyono, Pelita Plus, Jakarta

・Andrias Karel Keiluhu, Deputy Medical Coordinator, MSF Belgium Indonesia

3.ジョグジャカルタ円卓会議のプログラム

 ジョグジャカルタ円卓会議は9月1日〜3日の三日間、「ジョグジャカルタ・プラザ・ホテル」で開催されました。初日の午前中は開会式および3本の講義 Lecture、初日の午後と2日目は10本のケーススタディが行われました。3日目の午前中は、アジア・太平洋地域における「ネットワーク」の形成に関する分科会討論が行われ、午後は全体討論で締めくくられました。3日目の分科会討論以外は、講義・ケーススタディは全体で行われました。9月4日は、希望者で交流を深めるため、ジョグジャカルタ郊外にあるボロブドゥール遺跡の観光というアトラクションが設けられました(本報告書筆者はジャカルタを訪れ、国境なき医師団フランスの事務所およびペリタ・プラス事務所を訪問)。

 円卓会議の講義・ケーススタディは、現在アジア・太平洋地域が直面している「治療へのアクセス」の問題の多様な側面、とくに政策的な側面を大きく網羅するものとなりました。以下、まず会議のプログラムを紹介し、その中で印象に残ったものを会議の順番に即して紹介することとします。なお、講義・ケーススタディのプレゼンテーションのうち、初日におこなわれたもののいくつかについては、以下のウェブサイトからダウンロードすることができます。

http://www.pokdisus-aids.org/jrm_site.htm

<ジョグジャカルタ円卓会議プログラム>

第1日(9月1日)

○開会式

・組織委員会からの報告 クルニアワン・ラマディ(組織委員会議長)

 Kurniawan rachmadi, Chair of Organizing Commitee, Jogjakarta Round Table meeting

・開会スピーチ:ユースフ・カラ(インドネシア共和国人民福祉省執行長官)

 Jusuf Kalla, Coordinating Minister of People Welfare of Republic of Indonesia

○講義1

・「国際協力から国家の自足体制へ」ムラジャト・クンコロ(ガジャマダ大学教授)

 Dr. Mudrajat Kuncoro, Gajah Mada University, Indonesia

○講義2

・「キャンベラ円卓会議の精神」エリザベス・リード(国立オーストラリア大学教授)

 Prof. Elizabeth Reid, Australia National University

○講義3

・「資源の限られた国でのARV治療 WHOのガイドライン」ロー・イング・ルー(WHO東南アジア地域事務所担当官) Dr. Ying-Ru Lo, WHO South East Asia Regional Office

○ケーススタディ1

・「PHAのサポートとケアの供給における政府の役割」ミゲル・ラミレス(キューバ共和国大使)

 Miguel Ramirez, Ambassador of Republic of Cuba

○ケーススタディ2

・「ARVの国内生産」ビン・ミン(ベトナム社会主義共和国保健省担当官)、グナワン・プラノト(キミア・ファルマ代表)Dr. Binh Minh, Ministry of Health, Socialist Republic of Viet Nam, Gunawan Pranoto, Chairperson of Kimia Farma

○ケーススタディ3

・「HIV/AIDSとの闘いにおけるメディアの役割」スラメット・リヤディ(ジョグジャカルタ教育・出版・調査機構)Slamet Riyadi, Yogya Institute of research, Education, and Publication

第2日(9月2日)

○ケーススタディ4

・「経済界のイニシアティブ:インドネシアの経験」アディ・サソンコ(クスマ・ブアナ協会)

 Dr. Adi Sasongko, Yayasan Kusuma Buana

○第1回グループ・ディスカッション(8グループ)

 テーマ:ビジネス・セクターとの連携について

○ケーススタディ5

・「途上国でのARV供給の経験」クリスティーヌ・マルシーイ(MSFフランス・インドネシア)

 Christine Marcilly, MSF France-Indonesia

○ケーススタディ6

・「HIV治療へのアクセスの促進」ディディエ・ローレイヤール(MSFフランス・カンボジア)

 Dr. Didier Laureillard, MSF France-Cambodia

○ケーススタディ7

・「貿易に関連した知的所有権」カリン・ティマーマン(WHO)

 Karin Timmerman, WHO

○ケーススタディ8

・「HIV/AIDS治療へのアクセスに向けた政策アドボカシー」エレン・ローリンガー(MSFベルギー・インドネシア) Helene Loringer, MSF Bergium-Indonesia

○ケーススタディ9

・「ファンディングのための組織の役割」メイウィタ・ブディハルサナ(フォード財団インドネシア)

 Meiwita Budhiharsana, Ford Foundation Indonesia

○ケーススタディ10

・「PHAの参加拡大(GIPA)」ショーン・リム(シンガポール・アクション・フォー・エイズ)

 Sean Lim, Action for AIDS Singapore

第3日(9月3日)

○第2回グループ・ディスカッション(8グループ)

 テーマ:HIV/AIDS治療のアドボカシーについて

○ネットワーキングについてのディスカッション(2グループ)

 テーマ:アジア・太平洋地域におけるネットワーキングについて

○全体討議

○総括

4.主要な講義・ケーススタディ

(1)「キャンベラ円卓会議の精神」

・日時:9月1日午前中

・講義:エリザベス・リード・オーストラリア国立大学教授

 ジョグジャカルタ円卓会議は、ジョグジャカルタの名門ガジャマダ大学の経済学部教授による「グローバリズム」に関する講義で幕を開けました。この講義は、グローバリズムの負の側面に直面している途上国の立場から、いかにグローバリズムと是々非々で渡り合っていくかについて概説したものです。エイズに関する国際会議の最初の講義がグローバリズムに関する分析で始まるという点に、日本と途上国の「エイズ問題」に関する立脚点やアプローチの違いを改めて思い知らされました。

 さて、2番目の講義は、このジョグジャカルタ円卓会議開催の一年前に開催された「キャンベラ円卓会議」についてです。講師のエリザベス・リード氏はオーストラリア国立大学教授で、キャンベラ円卓会議の開催をになった中心人物です。

 キャンベラ円卓会議は、正式名称を「資源の乏しい状況におけるHIV治療・ケアへのアクセス拡大の為の国際円卓会議」(International Roundtable on Inreasing Access to HIV Treatment and Care in Resource Poor Settings)といい、2002年9月20日から24日の5日間、キャンベラのオーストラリア国立大学で開催されました。この会議は、国際機関等が公式に開催したものではなく、主にリード氏ともう1人の人物によって発案され、オーストラリア国際開発庁(AusAID)と、オーストラリアの地元製薬企業7社のファンドによって実現しました。アジア・太平洋13ヶ国からの参加がありましたが、これらの参加のファンディングは各国の国際NGOや国連などによってなされました。また、オーストラリア・エイズ組織連合(AFAO)や全国PHAネットワーク(NAPWA)からの支援も受けました。

 「待つことはしない。小さく始める。行動しながら学ぶ。」(Don't Wait. Start Small. Learn by Doing.)が、この会議で確認された「治療へのアクセス拡大」の精神です。

 この会議の目的は、アジア・太平洋地域でHIV治療・ケアへのアクセスを有意 significantly に拡大するための戦略枠組みを作ることでした。この戦略枠組みは、WHOが2002年のバルセロナ国際エイズ会議において打ち出した、「2005年までに300万人(治療を必要とするPHAの半数)に治療を供給することは可能だ」という国際目標を実現するためのものです。

 この目的に照らして意義のある会議にするために、「実践から学ぶ」ということで、世界各国のケーススタディが中心に置かれました。ケーススタディには、アジア太平洋だけでなく、ブルンディやボツワナなどアフリカ諸国の実践例も報告され、いかに現実的なアプローチで抗エイズ治療を得ていくかについての具体的な検討が行われました。この会議で発表された文書等は、以下のサイトから得ることができます。

http://www.spas.anu.edu.au/hiv

 この会議では、2003年に2回目の円卓会議をインドネシアで行うことが決定しました。それが、このジョグジャカルタ円卓会議というわけです。90年代には、アジアのエイズへの取り組みは「アジア太平洋国際エイズ会議」(ICAAP)を軸に進んでいましたが、21世紀に入って、地域別・課題別に様々な会議が開催されるようになり、人脈や連携も、こうした地域別・課題別の会議を軸に行われるようになっています。東アジアにおいても、こうした動向はもっと注目されるべきでしょう。

(2)「PHAのサポートとケアの供給における政府の役割」

   「ARVの国内生産」

・日時:9月1日午後

・講義:ミゲル・ラミレス(キューバ共和国大使)

    ビン・ミン(ベトナム社会主義共和国保健省担当官)

    グナワン・プラノト(キミア・ファルマ代表)

 第1日の午後に行われたいくつかのケーススタディの中から二つをご紹介します。最初は、ミゲル・ラミレス・キューバ共和国大使による「PHAのサポートとケアの供給に於ける政府の役割」です。

 キューバは途上国でありつつ、保健医療に関する統計指数では主要先進国に並ぶ実績を持つ国です。この国のHIV/AIDS感染拡大は、ちょうどこの国の経済を丸抱えしていたソ連邦が崩壊した時期と重なっており、当初はHIV感染者を強制的に収容するサナトリウムの存在などが世界のHIV/AIDSコミュニティの非難を巻き起こしたこともありました。

 キューバはその後、サナトリウムからデイケア中心の対策に移行し、エイズ治療に関しては、国営製薬企業であるノヴァテック Novatec がARVの国内生産に踏み切り、現在はAZTと3TC(ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤)およびインディナビル(プロテアーゼ阻害剤)の3剤を製造し、無料でPHAに供給する体制が実現しているということです。これらのジェネリック薬の製造はブランド薬の10分の1の値段で実現しているということです。

 現在のところ、キューバで把握されているHIV感染者の数は5000人弱(人口1125万人)です。日本と比較すると、およそ5〜10倍のインパクトということになります。キューバ政府はデイケアと無償治療を全ての感染者に提供しています。PHAの組織やエイズNGOの結成・政策提言・政策批判の自由がどの程度認められているか、また、これらの自発的な組織の活動はどの程度活発なのかについて調べる必要はありますが、感染症に対する政府の対策のあり方という点では、途上国だけでなく、先進国にとっても、一つのモデルとして検討する余地はあるのではないかと思います。

 次に紹介したいのは、ベトナムとインドネシアにおけるARV国内生産に向けた動きについてのケーススタディです。

 まず、ベトナムからは、ベトナム保健省のビン・ミン氏および米国の国際NGO「ポリシー・グループ」のベトナム国代表であるトラン・ティエン・ドゥク氏 Tran Tien Duc からの発表がありました。後ほど私の方で実施したインタビューで得た情報も加えて以下報告します。

 ベトナムでは、HIV感染の報告数は6万人強(2002年4月)、2005年にはHIV感染者数が20万人になると予測されています。最大の問題は治療へのアクセスがとぼしいことで、現状でPHAの0.69%にしか治療が普及しておらず、母子感染予防にアクセスしている人も全体の26%にしか到達していません。対策に当たる政府の資金難が一つのネックであり、2002年のHIV/AIDS対策予算は400万ドル(5億円)程度しかなく、ケア・治療に使われているのはそのうち7%ほどに過ぎません。

 しかし、その中でも、ARVの国内生産や輸入による治療へのアクセスの試みは始まっています。政府は150人の患者・感染者の治療および400人の妊婦への母子感染予防を2年間行うプログラムを、各種ファンダーの協力を得て開始。ARVについては、ドイツの製薬企業STADAがベトナムの民間製薬企業と連携して設立したSTADA Vietnamにより、AZTとd4Tの二剤の製造が開始されました。また、その他6剤について、インドおよび韓国のジェネリック薬製造企業より購入し、現在ベトナムでは、ARVは8剤が導入される状況になっています。

 VCTに関する試みは立ち後れており、1〜2年前から、米国のCDC(疾病対策センター)やCAPS(エイズ予防研究センター、UCSFの一機関)などと提携して、ホーチミン・シティやハノイ、ハイフォンなどで開始され始めた段階です。

 一方、インドネシアからは、円卓会議の1カ月前、2003年8月からARVの国内製造を開始したインドネシアの国営製薬企業キミア・ファルマ Kimia Farmaからの報告がありました。

 Kimia Farma はインドネシアの二つの国営製薬企業の一つで、(もう一つはPokdisusと連携してインドからARVを輸入しているインド・ファルマ Indo Farma)オランダ植民地時代からの古い歴史を誇る企業で、様々な医薬品の製造と販売を両方手がけてきたキミア・ファルマは、タイからの技術支援を受けてジャワ島の高原都市バンドンに新しい製薬ユニットを設立し、8月から、AZT、3TCおよびネビラピンの3つの治療薬の製造を開始しました。現在、これらは需要ベースで政府に対して販売される形となっています。

 この国内製造により、インドから輸入すると月に60万ルピア(7500円)した上記三剤の併用療法が50万ルピア(6250円)となるそうです。政府はこの国産のARVを使って、2005年までに2000人のPHAに月20万ルピア(2500円)で供給する計画を立てています。

 東南アジアでは、いち早くジェネリックのARVの国内生産を開始したタイから各国への製薬技術の移転が開始されつつあり、インドネシアでのARV国内生産は、こうした南南協力の先駆的な一例ということができます。ただし、ARV供給だけで問題が解決するわけではなく、VCTや診断検査へのアクセスを整えたり、治療リテラシーに関するPHAのネットワークを拡大するといった、包括的な治療・ケア体制をどう作れるかが、HIV治療体制の構築にとっての次の課題となってくると思われます。

(3)「途上国でのARV供給の経験」

   「HIV/AIDS治療へのアクセスに向けた政策アドボカシー」

・日時:9月2日午前中および午後

・講義:クリスティーヌ・マルシーイ(MSFフランス=インドネシア)

    エレン・ローリンガー(MSFベルギー=インドネシア)

 二日目の午前中には、「国境なき医師団」(MSF)フランスのインドネシア事務所長クリスティーヌ・マルシリー氏、およびMSFフランスのカンボジア事務所長ディディエ・ローレイヤール氏より、MSFフランスがカンボジアで実施しているARV治療プロジェクトに関する報告がありました。

 MSFは、途上国におけるARV治療へのアクセスに関して、現場でのパイロット・プロジェクトの実施およびジェネリック薬導入のアドボカシーにおいて非常に重要な役割を担ってきました。今回の2名の発表は、この分野に於けるMSFのヴィジョンと実績を知る上で非常に有意義なものであったといえます。

 クリスティーヌ氏の発表は、途上国におけるARV導入をどう進めるかについて、アドボカシーの側面から報告したものです。

 90年代から、MSFは各国における医療プロジェクトで、ARVがないためにエイズの治療を適切に進めることが出来ないという深刻な問題を抱えました。その結果、99年から必須医薬品アクセス・キャンペーンを開始し、一方で、ブラジルやインドのジェネリックのARVを安く導入して、アフリカ5ヶ国を含む途上国でARV治療のパイロット・プロジェクトを開始しました。このパイロット・プロジェクトは、資源の乏しい地域でもARV治療は可能だ、ということを示し、2002年のバルセロナ国際エイズ会議でのWHOの「300万人治療計画」や、ARVを含むエイズ治療を資金供給の対象としている世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の形成を大きく支えました。また、南アフリカ共和国ケープタウン郊外の旧黒人居住区カイェリチャ(Khayelitsha)で現地のPHA組織「治療行動キャンペーン」(TAC)と連携して行っているARV治療の供給プロジェクトは、南アフリカで抗レトロウイルス治療を求めるPHAたちの運動の象徴となり、南アフリカ政府のエイズ否定政策を具体的に変えていく上で大きな足がかりとなりました。

 クリスティーヌ氏は、この数年間のARV治療の途上国での価格低下について、a)多量の注文、b)値下げ交渉、c)国内生産、d)ジェネリック薬との競争 の4つの要素により実現したものだと報告しました。これらの複合的な作用によって、現在、カメルーンでは最も安価な三剤併用療法で月一人当たり実費で24ドルという価格を実現しているとのことです。

 また、1996年のWTO(世界貿易機関)の設立、TRIPS協定(貿易関連知的所有権に関する協定)加入の義務づけによって、ARVへのアクセスが阻害されている現状への対応策として、まず、必要なARVについて、国家の必須医薬品リストに掲載すること、つぎに、自国の特許法に、強制実施権(compulsory licensing)や並行輸入権(parallel importing)についての規定を必ず設けること(設けていないと、これらを発動できない)が必要だと述べました。

 このクリスティーヌ氏の発表について、より具体的なケースを交えながら報告したのがMSFベルギー=インドネシアのエレン・ローリンガー氏です。「HIV/AIDS治療へのアクセスに向けた政策アドボカシー」という報告の中でエレン氏は、国レベルで安価なARVを入手する上で必要な手順として次の7点を示しました。

a)ARVに特許がかかっているか確認する。

b)かかっている場合には、国の特許法を確認し、強制実施権や並行輸入権などが法律に盛り込まれているかどうかを確認する。HIV/AIDS治療へのアクセスに向けた政策アドボカシー最貧国は2016年までTRIPS協定順守を免除される権利があるが、米国などの指導によりTRIPS協定よりも厳しい特許法の制定作業が進められていることがあるので、そのような場合にはアドボカシーを展開する。

c)ジェネリック薬が、国の必須医薬品リストに掲載されているかどうかを確認する。

d)ジェネリック薬の輸入と、技術移転等による国内生産の可能性を検討する。

e)ブランド薬・ジェネリック薬の各国市場での価格を調査する。

f)国際的・地域的な、治療へのアクセスに関わる議論に注目する。例えば、世界に係わるものとしては、2003年9月のカンクンWTO閣僚会議、地域に係わるものとしては、例えば米州自由貿易協定(FTAA)など。

g)ARV輸入の関税などに関する協定について確認する。

 その上でエレン氏は、ARVの無償治療が実現し、エイズ対策全般に大きな効果を上げたブラジルと、現在、ARVの安価な導入に向けたアドボカシー活動が展開されているケニアの例をあげました。エレン氏が強調したのは、ブラジル、ケニアとも、PHAや関連NGOを中心とした強力なアドボカシー・ネットワークが存在し、それが国の政策に大きな影響を及ぼしたということです。ケニアでは、こうしたネットワークの存在によって、国の特許法が、安価な治療薬の導入を可能にする形で制定され、また、WTO内での知的所有権に関わる討議においても、ケニア政府は途上国のリーダーとして、安価なジェネリック薬導入を阻害する制度作りに反対する立場を鮮明にとり続けました。

 今回の円卓会議では、クリスティーヌ氏、エレン氏の発表に見られるように、ARVへのアクセスを阻害する諸制度にどのように対抗していくか、ということに一つの重点が置かれました。アセアン諸国は、一定の製薬能力をもつことから、アフリカ諸国とは異なった意味で治療薬へのアクセスに向けた制度的難題に直面しています。この点に関して、アセアン諸国のPHA、NGO、研究者、政府当局者等がそれぞれ、対策を真剣に検討していることに強く心を打たれました。

(4)「HIV治療へのアクセスの促進」

・日時:9月2日午前中

・講義:ディディエ・ローレイヤール Didier Laureillard (MSFフランス=カンボジア)

 MSFフランス=インドネシアのクリスティーヌ氏の発表の後に、MSFフランス=カンボジアのディディエ氏より、カンボジアでのMSFのARV治療プロジェクトに関する報告がありました。

 カンボジアはアジアで最も感染率の高い国(成人感染率2.6%)です。しかし、ARV治療は公的医療機関では行われておらず、治療を受けるとしたら民間医療機関で高額な自己負担により行うしかありません。このカンボジアで、MSFフランスは1997年から、プノンペンの国立ノロドム・シアヌーク病院(PBNS)でカンボジア保健省との合同プロジェクトを行っており、2001年から、この病院でARV治療のプロジェクトを開始しました。

 このプロジェクトでは、初回に治療に来た人に、まず診察、つぎに日和見感染症の治療を先行させて行い、3回目に初めてARVの治療を開始します。ARVは8種類使っており、診断検査は6カ月に一度行っています。診察に来る多くの人が、相当に病状が進んだ段階で来訪しています。2001年6月から2003年8月までにARV治療を受けた853人の成人と34人の児童の平均のCD4値は12、ほとんどの人が日和見感染症を発症しています。

 しかし、この段階に進んでもARV治療は大きな効果を発揮しているようです。これらのうち、2年間で亡くなった人の数は64人、フォローアップが出来なくなった人の数は4人です。免疫の回復については、18カ月で増えたCD4値の平均が194、60%以上の人がCD4が200以上までに回復しているとの数値が出ています。また、ARV治療を受けている人々の間で「ARV治療者協会」(ART Users Association)というグループを作り、投薬アドヒアランスを向上させる努力を続けているということです。

 ディディエ氏は結論として、以下のことを挙げています。

a)核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)2種類+非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)1種類の三剤併用療法は、進行の進んだ患者にも効果を発揮する。

b)ARV治療のコストは、ジェネリック薬の導入によって激減した。

c)短期的・中期的な投薬アドヒアランスは適切になされている。

 一方、ディディエ氏は次のような疑問も投げかけています。

a)長期的なアドヒアランスはどうなるか、また、投薬アドヒアランスを維持する上で有効な介入方法はどんなものがあるか。

b)長期的に見て、副作用や耐性などについてどのように対処していくべきか。

 MSFフランス=カンボジアのこのプロジェクトは、途上国の資源の乏しい環境に於けるARV治療の成功例として良く取り上げられます。現在までの成功は非常に希望の持てるものでしょう。課題として、ディディエ氏が挙げているように、より長期にわたって見た場合にどのような変化が生じるか、もう一つは、非常に大きなスケールで生じているカンボジアのHIV感染に関して、それに対応できるように、どのように、質を落とさずにスケールアップしていくかということだろうと思います。

5.総括

 円卓会議では、上記のような講義、ケーススタディを経た上で、3日目に分科会および全体討議を行い、以下のような戦略枠組みを策定しました。この戦略枠組みは、アジア・太平洋地域における治療へのアクセスを進めていく上で非常に重要な考え方を含んでいるものだと思います。ここに紹介して本レポートを締めくくりたいと思います。

アジア太平洋地域におけるHIV治療・ケアへのアクセスを有意に拡大するための戦略枠組み

1.HIV/AIDSとともに生きる人々(HIV感染者・AIDS患者)が、ケア・サポートの文脈の中で、治療にアクセスするための準備と計画を行うことについて、支援的な環境を形成する。

2.HIV/AIDSの問題に活発に取り組んでいるHIV感染者・AIDS患者に対して、HIV治療とケアへのアクセスを確実に保障する。

3.適切かつ入手可能なHIV治療とケアへの平等なアクセスの実現に努力している個人や組織を支援する。

4.治療とケアへの適切かつ公平なアクセスを可能とするための保健上・法律上の、および調整のための制度の整備を確実に実施する。

5.治療薬への需要の増大に見合う形で、ジェネリック薬の製造業者、および研究ベースの製造業者 research-based manufacturers から、効果的で経済的に入手可能な治療薬の十分な供給を確保する。

6.HIV/AIDSとともに生きる人々(HIV感染者・AIDS患者)の組織を含め、コミュニティと市民社会が、その役割を十分に発揮できるように、自らの能力を向上させる。

7.当該地域において、HIV治療のために活用できる資金を増大させると同時に、資金の流入の増大をはかる。同時に、治療薬と治療のためのモニタリングの費用対効果を高め、経済的に入手可能な範囲を増大させるための戦略を形成する。

8.治療へのアクセスを増進させるための、社会的・臨床的・生物化学的な研究の役割を強化する。

9.治療とケアへのアクセスの拡大に向けた、民間セクターの参加を拡大する。

10.域内での呼応関係と協力を強化する。

11.待つことはしない。小さいことから始める。行動しながら学ぶ。経験を共有する。

以上

<参考> ジョグジャカルタ円卓会議に関する現地新聞報道

抗レトロウィルス治療の拡大が追求される

ジャカルタ・ポスト 2003年9月4日

通信員 デビー・エー・ルビス 

【ジョグジャカルタ】水曜日のHIV/AIDSに関する国際円卓会議で、参加者はHIV感染者のための治療対策の新しい枠組みに合意した。

「この会議は新しい精神をもたらすことに成功した。その精神とは、連帯すること、希望を持つこと、大きな構想を持つこと、今行動すること、そして自発性である。私たちが学んでいるのは、感染症による苦痛と困難を最小限にし、人々の生活の質を向上させることだ。この地域の国々は、この困難な状況下での取り組みを進めるために、自ら考え、自力更生を図り、より多くのエネルギーを投下する傾向が強まっている。」とオーストラリア国立大学の教授であるエリザベス・リードは語った。

「国際協力から国レベルの自給体制へ」というタイトルで月曜日に始まったこの会議では、一連の講演とケース・スタディーの発表が行われ、会議を活気付けた。15カ国から、政府機関、大学、NGOの代表や、医療関係者、HIV感染者・AIDS患者、ジャーナリストらがその会議に参加した。

インドネシア大学エイズワーキング・グループで治療と診断へのアクセスのコーディネーターを務めている、サムスリジャル・ジャウジー氏は「全体として、参加者は東南アジア地域全体及び二国間でのネットワークを通じて協力し、抗レトロウィル治療ヘのアクセスを拡大して、人間の命を利益追求よりも優先させることに合意した。」語った。

その他、参加者の一人である、ジョグジャカルタ・エイズ感染者ネットワークのプリマ氏は、HIV感染者・AIDS患者がウィルスに対する国家規模の運動の先導的役割を担っていくことを訴えた。「今こそ、インドネシアのHIV感染者・AIDS患者は、NGOに頼ることなく自分のために行動する必要がある。彼らは、公にアドボカシーのための活動を行ったり、そのほかの活動に従事することができる。」とプリマ氏は語った。

参加者は、昨年キャンベラの会議で合意された戦略的な枠組みを更新することにも合意した。それは以下の7点である。

  • HIV感染者・AIDS患者が治療へのアクセスを計画し準備するために環境を作ること
  • 感染症への対応に活発に動いている患者感染者の治療へのアクセスを拡大すること
  • HIV治療のアクセス拡大に取り組んでいる個人と組織を支援すること
  • 公平かつ適切に治療にアクセスするための公衆衛生上、法律上、及び調整の制度を強化すること
  • 増大する治療薬へ需要を満たすために、ジェネリック薬の製造業者と研究所からの効果的かつ入手可能な適切な供給を確実にすること
  • 患者・感染者の組織を含む市民社会組織の治療へのアクセスに向けた取り組み全てへの参加を保障すること
  • コミュニティー及びコミュニティー組織、さらに治療へのアクセスの増大への役割を担うパートナーの能力を向上させること
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