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崖っぷちに立たされた子どもたち2002

2002年7月、UNAIDS(国連合同エイズ計画)・UNICEF(国連児童基金)・USAID(米国国際開発庁)が合同で作成したレポート「Children on the Brink 2002」を感染症研究会が翻訳したものです。2004年には、同じ三者によって「Children on the Brink 2004」が作成されています。いずれも、UNAIDSのウェブページで入手することができます。


序章

この時代において、HIV/AIDSほど、世界中の最も若く弱い立場にある市民(=子どもたち)に悲惨な影響を与えている病気はない。研究者がHIV/AIDSを一世代ほど前に発見して以来、世界中で2,000万人以上の人々がこの病気で命を落としてきた。今日では、約4,000万人がHIV陽性者がおり、そのうち約300万人が15歳以下の子どもである。

この病気の最も明白で困惑させる結果の一つに、この病気によって親を奪われたあるいは深刻な影響を受けた子どもたちの数がある。現在、15歳以下の1,300万人の子どもが父親か母親または両親をエイズで失っており、そのほとんどがサハラ以南のアフリカに住んでいる。2010年までに、この数は2,500万人以上に跳ね上がると推測されている。

多くの命が失われた影響は、家族、コミュニティー、社会により異なるが、片方でも親を失った時、子どもたちの生活が崩壊することは明白だ。このまま感染率が増え続け、大人たちがこの病気によって倒れていくならば、少なくともこれからの20年間、HIV/AIDSは子どもたちに大きな苦しみを与えることになろう。

「崖っぷちに立たされた子どもたち2002」は、88カ国におけるエイズ遺児統計とその分析、エイズ遺児支援の戦略と指針について述べている。この第3版(以前の版は1997年と2000年に出版された。)は、1990年から2010年の過去と未来におけるエイズ遺児数と推計を広範囲にわたり最も包括的に伝えている。このレポートは米国国際開発庁(USAID)、ユニセフ(UNICEF)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の共同作業によるものである。

様々の要因による孤児推計は、その解決策を探るためのより現実的な方法を考えることにもつながる。2010年までに、1億600万人の子どもたちが父親母親のいずれかまたは両親を失うだろうと予測され、このうち2,500万人がHIV/AIDSによるものと見られる。またレポートは、HIV/AIDSによって危機にさらされたその他の子どもたちに対するニーズも以前より増して満たされなければならないことも強調している。

こういった非常事態の流れを変えるためには、あらゆる分野におけてすぐに行動が開始され継続されることが必要だ。このレポートは、家庭、コミュニティー、政府その他が、よく調整され、思いやりのある方策をとるための重要な点を述べている。

HIV/AIDSは孤児増大の危機を引き起こしている。前例のないこの危機は、特に子どもたちが最も影響を受けているサハラ以南のアフリカで、少なくとも20年におよぶ、国家、地域、コミュニティーによるスケールアップした取り組みを必要している。

また、その他の原因による孤児も注目されるべきだ。エイズによる孤児の増加は、孤児総体にかかわる問題の一部として考えられるべきだ。アフリカの12カ国で、2010年までに15歳以下の子どもの少なくとも15%が孤児になるだろうと予測されている。

その他の子どもたちも危機にされされている。家庭やコミュニティーへのエイズの影響によって、子どもたち全ての安全、健康、生存がますます危うくなっている。以前にもまして多くの子どもたちが、病気や死にかけた親、あるいは孤児を受け入れた家庭で暮らしている。また、病気はコミュニティー全体の貧困を深刻にし、常に子どもたちが最初に欠乏に苦しむことになる。

エイズは子どもたちの生命を脅かす。エイズが子どもたちに与える影響は複雑で多面的だ。子どもたちは、エイズにより、精神的苦痛と物理的困難に苦しんでいる。病気のあるいは死を目の前にしている親たちの世話を強いられ、農作業や家事の手伝いをするために学校をやめざるをえなくなり、また食べ物や医療サービスから遠ざかっていくという経験を強いられている。多くの子どもたちが、社会から排除され、いじめられ、差別され、汚名をきせられる瀬戸際にいる。

多くの孤児をかかえるコミュニティーは早急な援助を求めている。HIV/AIDSの影響を受けた孤児や子どもの多いコミュニティーがまず注目され大きな支援を受ける必要がある。なぜならこうしたコミュニティーが危機の中心であり、もっとも疲弊しているからだ。

協力がカギとなる。ここで述べるエイズによる孤児の推計は、きちんとした数を公表するために行われた初めての協力作業の結果である。この取り組みは、協力を強化することの重要性を明らかにしており、拡大された対応への出発点となる。だれも一人ではこの危機に立ち向かうことはできない。

世界的なコミットメントの拡大

「崖っぷちに立たされた子どもたち」の初版は、HIV/AIDSが世界中の子どもたちへ与える影響についての沈黙を破った。HIV感染拡大が子どもたちへ与える影響は衰えておらず、本書の出筆者たちは今年度版が以前にもまして注目を引くことを望んでいる。

本レポートに概略された戦略と原則は、政策立案者、援助国・援助機関、NGO、宗教指導者など、子どもたちの未来を守ることに関わっている人々の行動への実際的な提案を通して、国家、地域、現地レベルの取り組みを高めるためにまとめられたものである。

この報告と行動提案は、ここ2年で始まり急速に広がっているHIV/AIDSに対する国際的取り組みに推進力を与えるだろう。2001年6月の国連エイズ特別総会が一つの旋回軸となり、国連加盟国はHIV/AIDSに対するコミットメントを宣言した。この宣言は、社会のあらゆるレベルで強力なリーダーシップを確立することを求め、エイズ予防、ケア、支援、治療の基準を明確にした。特にHIV/AIDSによって影響を受けている子どもたちに対する2つの目標を設定した。:

  • 加盟国は2003年までに、HIV/AIDSによって孤児になった子どもたちや影響を受けた子どもたちを支援するための、政府、コミュニティーそして家族の力量を構築し強化する国家政策と戦略を確立する。
  • 加盟国は、2005年までにその政策と戦略を実施する。

目的の達成は困難だが、取り組みは始まっている。その例として2002年4月、この危機に立ち向かう行動を調整し強化するため、西及び中央アフリカ21カ国の代表が初めて一同に会した。また、2002年6月アフリカの著名な宗教指導者たちがナイロビに集まり、HIV/AIDSによって孤児になった子どもたちや危機にさらされている子どもたちのための取り組みを実施することを公約した。

エイズ危機が子どもたちに及ぼす影響

本レポートはサハラ以南アフリカ諸国、アジア、ラテンアメリカ、カリブ海諸国の孤児に焦点を当てた新しい統計に基づいている。この統計は各国の過去、現在、未来のエイズによる孤児の数を算出している。子どもたちが親(両親または片方の親)を失うにあたって、エイズが及ぼす影響を判りやすく示すために、さまざまな要因による孤児の総数も表している。国ごと地域ごとの感染率の傾向を比較・参照しやすいように、「崖っぷちに立たされた子どもたち2000年度版」では34カ国だった対象国は、本版では88カ国に広がっている。

HIV/AIDSが無かったならば、調査地域のうち3地域では、伝統的子育て期における大人の死亡率が改善され、孤児の割合が減っていただろう。実際には、HIV/AIDSは、孤児の発生率そのものが増加している原因となっている。88カ国における2001年末までの調査で、その時点で15歳以下の子ども1,340万人が母親か父親、または両親をエイズで失っている。この数は2010年までに2,500万人になると予測される。同じ時期に、孤児総数に対するエイズによる孤児の割合も、12.4%から24%に大きく増加する見通しである。

サハラ以南アフリカ諸国が、飛び抜けて大きな重荷を背負っている。この地域の子ども全体の12%が孤児である。この数字は、アジアでは6.5%、ラテンアメリカ、カリブ海諸国では5%である。HIV感染拡大が原因で、孤児の絶対数とサハラ以南アフリカ諸国の子ども全体に占める孤児の割合(図1)が増えている。サハラ以南アフリカ諸国のエイズによる孤児の割合は、HIV陽性の母親の出産が減少していなければ、さらに高かっただろう。生物学的な理由で、HIV陽性の女性は子どもをあまり生むことができず、出産可能期を終える以前に死亡してしまうのである。

新たな孤児推計

新たな孤児推計(エイズで母親か父親または両親を失った孤児とその他の原因による孤児を加えたもの)は、UNAIDS、UNICEF、USAID、米国勢調査局による共同作業によって新たに作成された(付録II)。この推計は、HIV/AIDSと闘うための世界規模のパートナーシップが直面する主要な課題を明確にすることを目的とする一連の新しい統計情報の一つで、計画立案・プログラム実施ひいては2001年の国連エイズ特別総会で出された世界目標の進展の指標となりうる数値の必要性に応じるものである。

推計では全ての孤児を取り扱っているが、エイズとその他の原因による孤児を区別している。親の死を別にしても、全ての孤児が基本的な要求を持っている。しかし、国家レベル、地域レベルで計画をたてる際には、変化する孤児発生の規模を確認し規模および要因の変遷をたどることが重要だ。この研究で明らかになったのは、HIV/AIDSはかなり深刻で憂慮すべき変化を生みだしているということだ。

これまで、国連諸機関が行った孤児推計は、累積値であった。今日の状況をよりよく示すために、本レポートの数字は現在大人になっていない孤児の数である。主な傾向を、下記に述べる。(記: ここでは、15歳以下を「子ども」とする。)

1.孤児比率はサハラ以南アフリカ諸国で最も高い。

2001年、サハラ以南アフリカ諸国の子どもの12%が孤児であった。これはアジアの孤児比率(6.5%)の2倍で、ラテンアメリカ(5%)の2倍以上である。この差はおもにHIV/AIDSによるものである。HIV/AIDSがなかったならば、サハラ以南アフリカ諸国の孤児の割合は8%前後だろう(図2)。

エイズのために、サハラ以南アフリカ諸国では、孤児数が減少することなく急増している。この地域の孤児は3,400万人で、うちエイズによるものが1,100万人である。2010年までにサハラ以南アフリカ諸国の子どもの5.8%がエイズによる孤児になると予測されている。2010年には、孤児総数は4,200万人になり、そのうち2,000万人がエイズで片親または両親を失っていると予測される。ラテンアメリカとアジアでは、2010年までに、孤児総数はわずかな減少が予測されるが、エイズによる孤児が全体に占める割合は大きくなると予測される。

2.アジアにおけるエイズによる孤児の割合はサハラ以南アフリカ諸国よりかなり低いが、孤児の絶対数ははるかに大きい。

2001年、アジアには、アフリカの3,400万人のほぼ2倍の6,550万人以上の孤児がいた(図3)。エイズによる孤児の比率はかなり低く、2.8%で、数にすると180万人であった。このことはアジアの人口は多いが、HIV感染率は低いということを示している。しかし、アジアの多くの国は人口が多いので、HIV感染率は低いが、HIV陽性者数は、最も深刻な影響をうけているアフリカ諸国を上回ろうとしている。

たとえば、インドでは、成人のHIV感染率は1%以下だが、380万人がPWA(HIV陽性者)である。成人感染者の絶対数は南アフリカの次に多いのである。インドでは、HIVは急速に広がっており、感染率の増加は僅かでも、新たなエイズによる孤児を急増させるだろう。

3.HIV/AIDSは、特にサハラ以南アフリカ諸国では両親のいない孤児を急増させている。

子どもたちが片親を失ったからといって、残された親をすぐさま失うということはまれだ。だが、エイズでは片親がHIVに感染すると、その配偶者のHIV陽性の可能性は極めて高い。つまり、子どもは短い期間で両親を失うことになる。HIV/AIDSがなかったならば、1990年から2010年の間に、全体の孤児率の減少に伴い、両親を亡くした孤児の数は減少しただろう。しかし現実には、2010年までに、サハラ以南アフリカ諸国でHIV/AIDSにより両親を失う孤児数は3倍になろうとしている。

サハラ以南アフリカ諸国では、両親を失った孤児の数は、エイズによって劇的に増えてきた。全体でその数は、1990年の280万人から2001年には550万人へと増加し、そのうち360万人が少なくともエイズで片親を失った(その他は、他の原因で親を失った)。この全体数は2010年には790万人にまで跳ね上がると予測され、そのうち650万人がエイズで少なくとも片親をなくすだろう(図4)。三つの対象地域を通して、950万人が両親を失っており、そのうち380万人、40%がエイズで少なくとも片親を亡くしている。

4.サハラ以南アフリカ諸国の孤児は、HIV感染率そしてHIV陽性者数に対応して特定の国々に集中している。

2001年、サハラ以南アフリカ諸国12カ国が孤児の70%を占めた。予測されるように、人口の多い3カ国、ナイジェリア、エチオピア、コンゴ民主共和国(DRC)に大多数の孤児がいる。これらの国において、2010年までに、HIV/AIDSに親を奪われる孤児が孤児の多くを占めるだろう。ナイジェリアでは、エイズによる孤児が孤児総数に占める割合は18%から40%へと増えるだろう。エチオピアは、26%から43%以上に、コンゴ民主共和国では34%から42%に増えるだろう。

HIV/AIDSの影響は、人口が少なくHIV陽性者率が高い国でより深刻だ。2001年、サハラ以南アフリカの10カ国で孤児の割合が15%以上だった。たとえば、ジンバブエの孤児の割合は17.6%で、4分の3以上がエイズによる孤児だ。レソト、マラウイ、スワジランド、ボツワナ、ザンビアでは少なくとも孤児の半分がエイズによる孤児だ(図5)。

2010年までに、サハラ以南アフリカ諸国12カ国で、孤児が子ども全体の少なくとも15%を占めるだろう。最も割合が高いのがレソトで、子どもの25%以上が孤児になると予測され、5人のうち4人がエイズによるものだ。ジンバブエでは、21%の子どもが孤児になり、その89%がエイズによるものだ。ザンビア、スワジランド、ナミビアでは、孤児全体の75%がエイズによる。南アフリカでは、子ども全体の16%が孤児になり、そのうち70%以上がエイズによる孤児だ。(図6)

重要なことは、孤児推計は国内平均といことだ。それぞれの国で地域ごとのHIV感染のレベルによって孤児の割合はかなり低かったり、非常に高かったりする。ケニアでは、妊娠女性のHIV感染率はMosoriotの3%からChulaimboの31%までばらつきがあり、孤児の割合はMosoriotよりChulaimboがはるかに高い。

5.少なくとも次の10年間、孤児数は増え続ける。

一般に、HIV感染からエイズによる死亡まで10年かかる。現在の感染率が、次の10年間の孤児の傾向を大きく決定することになる。感染から死亡まで10年という時間差は、HIV感染が減少した国でも、孤児数は高い数値を維持するということだ。

たとえば、ウガンダのHIV感染率は1980年14%でピークに達し、2001年には約5%へ急減した。しかし、孤児数はピークの後10年間は増加し続け、やっと現在減少し始めており、2001年14.6%から2010年9.6%へと減少するだろう(図7)。

最近HIV感染が急増している国では、孤児推計の完全な影響がまだ現れてはいない。たとえば、南アフリカでは過去10年間HIV感染率が急速に増加、1990年の1%から2001年には20%となった。ウガンダではHIV感染が急激に減少しているが、南アフリカは次の10年間孤児増加の重荷を背負うだろう。この国の孤児は2001年の150万人 から2010年のは230万人に増加すると予測される。

定義

Maternal orphansとは、母親を亡くした15歳以下の子どもをさす。父親を亡くしていることも多い(両親をなくした孤児を含む。)

Paternal orphansとは、父親を亡くした15歳以下の子どもをさす。母親を亡くしていることも多い(両親をなくした孤児を含む。)

Double orphans とは、両親を亡くした15歳以下の子どものこと。

Total orphans とは、父親か母親、または両親を亡くした15歳以下の子どものこと。

孤児の総計は、maternal orphans及び paternal orphansの合計からdouble orphansを引いたものに等しい。孤児はmaternalとpaternalの両方で数えられているからだ。

「崖っぷちに立たされた子どもたち」は「エイズ孤児(AIDS orphans)」という言葉を意識的に使用していない。それは弱い立場にある子どもたちを不適切に区別し、差別の対象にしてしまうからだ。代わって、「HIV/AIDSの影響を受けた子どもたち」(children affected by HIV/AIDS)、「エイズによる孤児」(orphans due to AIDS)、またはエイズで少なくとも父親か母親のいずれかを亡くした子どもたちは、「エイズで孤児になった子どもたち」(children orphaned by AIDS)という言葉を使用している。「エイズによるdouble orphans」は、両親を亡くし、その片方が少なくともエイズで亡くなった場合である。

子ども、家族、コミュニティーへ与える影響

HIV/AIDSが子どもに与える影響は複雑・多岐にわたり、対処するには多額の社会的費用が長期間必要となる。結論からいえば、エイズは、さまざまな危険にさらされいる、栄養不良で社会性がなく教育を受けていない若い人の数を増やし、社会的不安定を引き起こす。もともと乏しい社会資本は限界を超え、この病気の感染拡大は家庭、コミュニティー、援助しようとしている政府に大きな負担をかけている。

子どもへの影響

エイズが社会・経済におよぼす影響は、世界中で数百万の子どもたちの福祉と安全を脅かしている。親や家族のメンバーが病気になると、子どもたちは、収入を得ること、食料生産、家族の世話をすることにより大きな責任を負わされることになる。子どもたちは、適切な栄養、基本的な保健医療、住居、衣服を得ることがむずかしくなる。子どもを学校に行かせることができない家族がますます増加し、特に女の子は教育を受けることができなくなる。都市部でも田舎でも、子どもだけの世帯になってしまった多くの孤児たちが、何とか自力で生き延びようと努力している。さらに多くの子どもたちが路上で生活することを余儀なくされている。

HIV/AIDSの影響を受けた子どもたちが強いられているトラウマと困難を言葉にするのは簡単ではない。病んで死の床につく母あるいは父を助けたくとも、見ていることしかできず、しかも、残されたもう一方の親が死んでいくのも見ていることしかできない。家族が、子どもの将来のために計画を立てることなどほとんどできない。親の死に対する悲しみ、将来への不安、兄弟離別、悪化する経済状況の苦悩、HIV/AIDSに関わる差別と孤独感といった、いくつもの要因が絡み合って、子どもたちに被害をもたらしている。しかも、孤児も未亡人もしばしば遺産を奪われ、ますます貧窮を強いられる。

拡大家族が、圧倒的多数の両親を失った孤児を受け入れている。多くの場合、孤児たちは、兄弟が別々の家庭に送られ別離のためにさらに深い傷を受ける。世話をする家族の多くは貧しく、すでに不足している食料や衣類などを受け入れた孤児と自分の子どもに与えるためにさらに無理をしなければならない。中には、孤児を受け入れた親戚や扶養者が孤児たちを手ひどく扱うこともある。

HIV/AIDSの影響を受けた子どもは、肉体的、精神的虐待など搾取の危機にさらされている。家族との親密な関係から離れ、危険な性的行動に走るものもいる。路上での生活を強いられた子どもたちは生活のために、売春や犯罪に走るかもしれない。多くの子どもたちはHIVに感染して生まれたわけではないが、非常に感染しやすい状態にいるのだ。

孤児たちが強いられる状態を表す最も明白な指標の一つが、学校に行けないこと、教育を受けられないこと、教育が教える安全に対する意識を欠くことだ。最近、ユニセフは、サハラ以南アフリカ諸国20カ国を対象に、親を失うことが子どもの就学そして児童労働に及ぼす影響について調査を行った。対象となった20か国全てで、片親または両親を亡くした5歳から14歳までの子どもは、両親のいる同年代の子どもに比べて在学率が低く、一方で孤児たちの多くが週に40時間以上の労働に従事している(図8)。646人の孤児と1,239人の両親がいる子どもを対象にしたケニアでの調査では、孤児の52%が学校から離れているのに対し、両親がいる子どもの中では、わずか2%しか学校から離れていない。

家庭とコミュニティーに対する影響

HIV/AIDSの影響を最も深刻に受けた国々では、孤児およびHIV/AIDSの影響を受けた子どもたちの世話は、まず第一に家庭とコミュニティーにかかってくる。しかし、HIV/AIDSはアフリカ社会の基盤である大家族に大きな負担を強いており、さらにはコミュニティー全体を崩壊させつつある。このことは、多くの孤児が世話をほとんど受けられないままになっていることを意味する。たとえば、ジンバブエに関する最近の調査では、ストリートチルドレンの半数が孤児で、その多くがエイズによる孤児だ。

HIV/AIDSが家族構成に与える影響についての調査は幅広く行われていないが、広範囲にわたる噂も交えた証言によれば、子どもたちは、様々な家庭、たとえば片親、祖父祖母、親戚あるいはまた子どもたち自身が所帯主となっている家庭で暮らすことが多くなっている。コートジボワールのエイズによる孤児の状況を分析すると、拡大家族にとっても、エイズによる孤児の親代わりを務めることは他の孤児を対象としたときよりも困難だ。

このような変貌を遂げた家庭はさらに変化し続けており、また心理的な苦しみがが事態に対処する力を危うくしている。そうした家庭において、HIV/AIDSは失業、生産力の低下、そして病気になった家族の治療のための、またその家庭にやってきた子どもの世話に関わる多大な支出につながり、さらには家族が一人亡くなれば財産も蓄えも失われることになる。2000年のウガンダの家庭に関する調査によると、孤児になった子どもを引き取り育てることは、すでに広がっている家族の貧困をますます悪化させている。自給的な農業で暮らしている人々が受け入れた子どもたちのための日用品を買う現金を早急に得なければならない必要に直面し、一方、日銭稼ぎに頼っている人々は、増えた家族を養うに十分な収入がないと伝えられている。

もうひとつの問題は、孤児を世話するのが大抵は貧しい女性であるということだ。女性は財産を確保することも仕事を得ることも難しいため、このような家庭の子どもは両親のいる家庭の子どもに比べるとたいへんな不利を被っている。女性たちは品物やお金のために性を売ることを強いられ、さらにHIVに感染する危険性を高めていくことになる。

HIV/AIDSによる死の広がりによって、コミュニティー全体が損失を受けることになる。公的事業の運営、社会福祉、教育そしてヘルスケアに携わる高い技術を持つ人々が、多数、HIV/AIDSで病の床に伏し死んでいく。HIVの感染拡大によって労働力も農業生産力も低下し、社会構造は弱体化し、保健衛生その他のサービスに対する需要が高まるにもかかわらず、供給力は失なわれていく。また、絶望が広がり人びとが選択肢を失っていく中で、犯罪の増加、社会不安の増大にもつながっている。

子どもたちを支援するための戦略

1997年の初出以来、「崖っぷちに立たされてた子どもたち」のシリーズは、孤児やHIV/AIDSの影響を受けた子どもたちを支援するための主要な戦略の概略を述べてきた。私たちが提起してきた戦略は、家族とコミュニティーが危機と闘うことを支援することに焦点を当てており、地域、国内、国際的グループによって採用されてきている。この前例のない広範で長期にわたる危機に適応するための取り組みの枠組みとなっている。

下記の5つの戦略は、2001年11月、UNAIDSを構成する諸機関なる委員会で承認されたものである。また、同委員会はHIV/AIDSの影響を受けた子どもたちを支援する諸機関の指針となる12原則を承認した。この原則は付録IIIに簡潔に記されている。

1. 家族が自分の子どもたちを保護し世話することを強化し支援する

ほとんどの孤児およびHIV/AIDSの影響を受けた子どもたちは、親兄弟もしくは大家族の人々と一緒に暮らしている。この子どもたちの安全と福祉は、主として彼らを守り世話する親兄弟や拡大家族の能力によるものである。子どもたちの多くにとって、他に現実的な選択肢はない。子ども保護の制度が比較的広範囲で実施されている国でさえ、孤児院に入ることができるのは、対象となる子どもたち全てからすれば、ほんのわずかの子どもたちでしかない(別掲コラム「孤児施設はどうか?」参照)。

家族への支援には様々な方法がある。生き残るために当面必要なことと、経済支援と心理的支援など家族が生き残る能力をつけるための長期的に必要なことの両方に、注意を払わなくてはならない。ヘルスケア、教育などの基本的なサービスが受けられるようにしていくことは、絶対欠くことができない。その他の必須の課題は、農業生産性の向上、雇用と市場へのアクセス向上、稼ぎ手世代の収入を増加させることなどである。さらに、エイズに起因する病気に対する基本的なケアを通して、病んでいる人がより長く生きられるような支援がなされなければならない。子どもの世話ができなくなった親たちは遺言状を書いたり、子どもの世話の手はずを整えたり、また子どもたちに将来のことを話したりすることも望ましい。

2. コミュニティーを基盤にした活動を立ち上げ、強化する

コミュニティーは、危機にさらされた子どもと家庭にとって、二番目に頼れるものだ。コミュニティー内のさまざまなグループが、危機にさらされた子どもたちを直接支援したり、エイズの影響を受ける家族が子どもたちの必要を満たすのを支援したりしている。多くの貧しいコミュニティーが独力で子どもたちを支援しているが、外部の機関の援助はさらに大きな成果につながるだろう。

危機にさらされた子どもたちを自ら保護し世話しているコミュニティーが、どの子どもと家庭が最も危機的かの判断ができるし、現地あるいは外部からの支援を最も必要な人に提供することができる。

一部のコミュニティーの対応は自然発生的で、一方、政府の積極的支援をも得たNGOや宗教グループに指導された取り組みもある。いくつかの国では、地方部や都市近隣地区での取り組みを促進し支援するための地区レベルの仕組みを、さまざまな関係者が設立している。

3. 子どもや若い人たちが自ら事態に対処していく能力を強化する

HIV/AIDSは子どもたちを二重に苦しめている。子どもたちは、しばしば厳しい貧困に悩まされながら、また多くが自分を未来を切り開くために最も必要としている時に学校を離れることを余儀なくされながら、自分自身と家族の世話をしなければならない。多くの場合、少女たちがまず学校から離れることになる。このことは、学校から離れざるを得ない少女たちの健康や生活を損なうだけでなく、次世代の健康と福祉をも損なうことである。

危機にさらされた子どもたちを学校に通わせること、危機対処の第一歩である。このことは、子どもたちが成人した時自らの事態に対処する技術を学ぶことにつながる環境を提供することになる。ドロップアウト率を増加させる主な要因に対処しなくてはならない。学費、親兄弟の世話、減少した収入の埋め合わ、が必要とされている。

大きく言えば、若者たちは問題の種ではなく、危機解消の欠くことのできない要素であることを理解することが重要だ。若者たちが事態に対処する計画を立て問題解決に当たろうとする時、これを支援することは決定的に重要である。これは、第一段階で感染防止に取り組んでHIV/AIDS危機に対応すること以上の意味を持つ。HIV予防が最も成功している所では、若い人々がその前線に立っている。

4. 最も危機にさらされた子どもたちに欠くことのできないサービスだけでなく、法的及びプログラムの枠組みなどを含む適切な政策を、政府は立案・施行しなくてはならない

政府は、子ども、家庭、コミュニティーが対処できるよう保障する重要な役割を担っている。多くの場合、各国政府は、危機への対応を義務付ける国際協定、国内法に署名している。HIV/AIDS危機に直面している各国政府は、危機にさらされた子どもたちの数が増えつつあるのに対応する法律と政策をさらに創り出し、強化しなくてはならない。さらに、各省庁、諸機関その他の政府機構を通して、これらの政策を実施し強化しなくてはならない。また政府は、家族やコミュニティーのセイフティーネットからこぼれた子どもたちを保護し、不可欠な社会サービスにアクセスできるようにするという、最終的な責任を負わなくてはならない。

HIV/AIDSの影響を受けた子どもに対する政府の取り組みは、多くの部門にわたっており、基本的な保健、教育、開発プログラムと統合されていなければならない。政府が取るべき戦略は次のようなものだ。プログラムを方向付ける国内行動計画の策定、子どもに関する法と保護サービスの見直し・強化・創出、教育、保健衛生、その他の必須サービスの実施。このような取り組みは、政府が国際機関、援助国、NGO、宗教団体、コミュニティーをベースにした諸団体、民間企業や団体と広範な協力関係を作っていくことを求めている。

HIV感染が減少した国を見ると、強力なリーダーシップが不可欠であることがわかる。多くの国が近年、エイズ危機に対して大きな危機意識を持って行動している、しかし一部にはエイズ関連問題と対決する政治的意思を欠いている国もある。各国政府は、必要な事業全てを実施するには十分な資金を持っていないかもしれないが、さまざまな関係者がそれぞれに国民的な共同の取り組みに寄与するよう、一堂に会させる力と責務がある。

5.HIV/AIDSの影響を受けた子どもたちへの支援を可能にする環境を作っていくために、社会啓発・意識作りを進める

HIV/AIDSが子どもや家庭に及ぼす被害について、政策策定者、コミュニティーのリーダー、諸機関そして一般の人々の理解を促すことは、幅広く共有された対策に関する責任感を産み出す。HIV/AIDSに関わる差別意識と差別は、今なお大きな課題である。しかし、効果的な社会啓発・意識作りが、HIV/AIDSは誰かの問題ではなく私たちの問題だ、という意識の変革を促す。

特に利害関係者が幅広く参加した総合的な状況分析を通して、社会意識の変革に必要な情報の多くを得ることができる。メディア、信仰集団、主なオピニオンリーダーたちが積極的に参加することは特に重要である。たとえば、ジャーナリストはこの問題とその解決策を国家的観点から展開することができるし、宗教的ネットワークはHIV/AIDSの影響を受けた人々への同情的な行動を促す力を持っている。


孤児だけが問題ではない。HIV/AIDSは数百万の子どもたちに危機をもたらしている

「崖っぷちに立たされた子どもたち」は、エイズによる孤児が驚くほどに増加していることに対する注目を呼び起こしてきた。しかし、孤児はそれよりはるかに大きな問題のほんの一部にしか過ぎないと認識することは重要である。エイズのより孤児になった子どもの割合が高い国々は、エイズ危機に脅かされる数多くの子どもを抱えており、この子どもたちは感染の危機にもさらされている。総数を述べるのは難しいが、3百万人近くの子どもがHIV陽性者である。

さらに数百万人の子どもたちの親たちは発病していたり死にかけたりしている、そして子どもたちが親兄弟の世話をしなければならない。親戚たちが多くの孤児の世話をしている。エイズのため、わずかの財産が食料、学費、その他の必需品に使い尽くされた家庭の子どもたちも直接的な影響を受けている。さらに本記録の推定値は、性的搾取やHIV感染などにさらされやすく、ことに配慮を必要とする14歳以上の孤児を含んでいないことに留意する必要がある。

孤児施設はどうか?

エイズ危機に瀕する国々で、増加している孤児を世話するための効果的な方法は、児童施設や他の施設をさらに増やすことだ、と言う人びとがいる。しかし、児童施設はエイズ危機への実際の対策としては不適切である、と広く考えられている。施設で施されるケアは発達段階にある子どもたちの後々に影響を及ぼす必要に対応しきれないことが多く、また、孤児施設は、孤児を世話する拡大家庭やコミュニティーを支援する方よりかなり高くつく。

主な国際的子ども支援機関の経験が明らかにするところでは、子どもたちは、拡大家族やコミュニティーによるケア、個人的配慮、社会的な関係によって非常に救われている。特に途上国では、大家族やコミュニティーが主な社会的セーフティーネットであり、このつながりが無くなると、長期にわたって危機にさらされることになる。孤児施設で育った子どもは大人になった時、社会参加を困難に感じることが多い。子どもたちの多くが外の世界で生活する術を身につけていないというのだ。エチオピアとウガンダでは、長期にわたる孤児施設での経験を踏まえ、家庭を基盤にしたケアへと、政府の政策が転換した。

孤児への基本的世話を行うことに、給与の支払い、建物の建設とその維持、食料の準備とサービスの提供を伴うなら、経費はたいへんな大きさになる。ウガンダでの比較によると、児童施設運営経費はコミュニティーによるケアの14倍かかっていた。1992年の世界銀行の調査によると、タンザニアでは、施設での年間一人の子ども当たりの経費は1,000ドルで、その国の家族・共同体によるケアの平均経費の6倍だった。またその他の調査によると、その比率は1対20あるいは1対100とも言われている。経済状況の厳しいコミュニティーで孤児施設の数が増えているは、家族が、子どもたちが家庭でより孤児院の方が良い扱いを受けると、判断したからだ。

一般的に途上国では、拡大家族やコミュニティーが伝統的に孤児の世話をしてきた。この伝統を強化するために、施設を、コミュニティーによる子どもたちの世話を支援するセンターへ変えていく、という案も出されている。そのようなセンターは、家族が世話している子どもの一時預かり、支援グループ、カウンセリング、子どもの世話に関する技術習得を必要とする家族への支援、成長した子どもへの技術訓練プログラムなどを行うことになる。家族による世話ができない状況が生じた時は、より適切な受け入れ先が決まるまで、施設が一時的に世話をすることになる。

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