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ナイジェリア プロジェクト形成調査(HIV/AIDSその他感染症対策〈日米連携〉)
NGO配慮分野 報告書

2002年2月
アフリカ日本協議会感染症研究会 稲場 雅紀

第一 調査対象の概要

1.調査対象地域:連邦首都領域行政区アブジャ市 Abuja, Federal Capital Territory (FCT)

アブジャ市はナイジェリア連邦共和国の首都であり、行政区 としては連邦首都領域、地理的区分 としては北中央部 North Central に属する。

1976年、国家元首ムルタラ・ムハメド将軍 General Murtala R. Muhammed の勅令によりラゴス Lagos からアブジャへの首都移転が決定され、1991年、国家元首イブラヒム・ババンギダ将軍 General Ibrahim Babangida が元首府をアブジャに移転した。その後多くの政府機関や大使館、企業などがラゴスからアブジャに移転し、サバンナの荒野から出発したアブジャは、10年を経て人口約60万人を擁する中規模都市に成長し、首都としての位置づけを不動のものとした。

経済的・社会的な意味でのナイジェリアの中心都市はラゴスであるが、アブジャはそのラゴスと一日20便以上の航空網で結ばれ、経済・社会セクターにおける重要度も上がってきている。

2.調査の方法

本件プロジェクト形成調査は、ナイジェリアで深刻化するHIV/AIDS問題について日米の連携によって援助プログラム案件を形成することを目的とするものである。HIV/AIDS問題の援助プログラム案件の形成においては、ナイジェリア全土に分布する地方レベルの非政府組織・コミュニティ組織(NGO/CBO)や、これをネットワーキングする国際NGOの協力が不可欠である。

アブジャは、その都市としての成立後わずか10年の歴史しか有しておらず、地域共同体の形成は十分でない。そのため、コミュニティを基礎とするNGO/CBOの数は、ナイジェリアの他地域に比べて極めて少ない。一方、ナイジェリアの首都としての役割を実質上も担いつつあるアブジャには、複数の国際NGOや国際的な援助機関のナイジェリア地域事務所が存在しており、これらの国際NGOはナイジェリア全土において地域NGO/CBOを幅広くネットワーキングしている。

よって、本件調査のNGO配慮分野においては、

  1. 国際NGOを取材し、ナイジェリアにおけるHIV/AIDSの状況全般、および、それに対する地域NGOの取り組みの現状と問題点について調査する
  2. アブジャ市の地域NGO/CBOを取材し、地域NGO/CBOの取り組みの実例を調査する。また、連邦首都地域行政区におけるHIV/AIDS問題の実態について調査する

の二つのテーマにそって調査を行うこととした。

3.調査対象組織

本件NGO配慮分野において取材を行った組織は、

(1)国際NGO・国際的援助機関

  1. アフリケア・ナイジェリア Africare Nigeria (2月26日)
  2. パスファインダー・インターナショナル・ナイジェリア Pathfinder International Nigeria (2月28日)
  3. アクション・エイド・ナイジェリア Action Aid Nigeria (3月1日)
  4. ユニセフ・ナイジェリア UNICEF Nigeria Office  (2月27日)

(2)アブジャ市内の地域NGO/CBO

  1. 女性の健康・教育・開発 Women's Health, Education and Development (WHED)  (2月28日・3月1日)

(3)ナイジェリアの地域NGO/CBOの連合体

  1. ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ CiSCGHAN: Civil Society Consultative Group on HIV/AIDS in NIgeria(3月1日)

である。このうち(1)および(3)についてはナイジェリア国内におけるHIV/AIDS蔓延の状況、各団体の取り組みの状況と問題点、地域NGO/CBOとの連携の状況と問題点、援助国・援助機関との連携の状況と問題点について取材した。(2)についてはアブジャにおけるHIV/AIDS蔓延の状況と問題点、組織の活動状況について取材すると同時に、同組織がアブジャ郊外のスラム街において行ったセックスワーカー CSW: Commercial Sex Worker を対象とするワークショップに参加し、その活動実態の一端をみることができた。

第二 国際NGO・援助実施機関に対する調査

1.国際NGOの果たす役割

ナイジェリアは一億二千万人(推定、1999年)の人口を擁する大国である。この人口は、ヨルバ Yoruba、ハウサ Hausa、イボ Igbo の三大民族をはじめとする数百の民族に分かれており、ナイジェリアの社会編成を極めて多様かつ複雑なものとしている。これに対応して、国土は6つの地理的区分および36の州、700以上の地方に分割されている。

こうした複雑な地域の前線でHIV/AIDSに係わる活動を担うのが地域NGO/CBOである。これらは地域共同体や教会などの宗教共同体を基礎としたものが多いが、小規模で自立しうる財政力を持たない、会計処理能力が国際的な水準に達しない、活動のノウハウがないといった問題を抱えている。

国際NGOは、こうした地域NGO/CBOを州・全国規模でネットワーキングし、運営・活動能力の向上、援助国・援助機関と連携しての財政的支援、政府機関と地域NGOの橋渡しなど、ナイジェリアにおけるHIV/AIDSに係わる活動を行う諸セクターの結節点としての役割を果たしている。また、これらの国際NGOの中には、地域NGO/CBOの意見を集約し、中央政府機関へのアドボカシー的な役割を担うことをめざす組織も存在している。本章では、3つの国際NGOおよび、国際NGOと類似の役割を果たしている国際援助機関UNICEFへの取材を通して、ナイジェリアのHIV/AIDSの実態およびこれらの国際NGOの役割を明らかにする。

2.アフリケア・ナイジェリア Africare Nigeria

(1)基本事項

  1. 所在:3 Kariba Close, Off Mississippi Street, Maitama, Abuja
  2. 連絡先:
    • 電話 09-413-8385
    • FAX 09-413-0031
    • e-mail africarenigeria@mlstn.com

(2)取材状況

  1. 日時:2002年2月26日 午後1時〜2時30分
  2. 場所:ナイジェリア事務所 Africare Nigeria Office
  3. 対応者:チンウェ・エフィオン博士、国代表  Ms. Chinwe A. Effiong, Ph.D., Country Representative

(3)取材内容

(1)アフリケア Africare について

アフリケアは1971年、アフリカ系米国人たちによってアフリカにおけるQOL(Quarity of Life: 生活の質)の向上のために米国で設立された国際NGOであり、現在、ネルソン=マンデラ・南アフリカ共和国前大統領が名誉議長を務めている 。アフリケアは現在、アフリカの27ヶ国で150以上の健康・農業・水の供給等の事業を支援している (設立以来の通算では35ヶ国、2000プロジェクトにのぼる )。アフリケアは1978年にナイジェリアへの支援を開始しており、米国国際開発庁 USAID や他の民間援助機関、ナイジェリア連邦保健省 FMOH などの支援を受けて年間1500万ドル以上にわたる支援を継続している 。現在アフリケアはナイジェリアのアブジャとラゴスに事務所をおくほか、リヴァーズ州 Rivers State のポートハーコート Port Harcourt に地域事務所 Field Office を置き、ナイジャー・デルタ地帯(地理的区分としては深南部 South South にあたる)における活動の発展を目指している 。今回インタビューを行ったチンウェ・エフィオン博士はアフリケアの国代表を務める女性で、米国で教育を受けたナイジェリア人である。以下は筆者とのインタビューにおけるエフィオン氏の答えをまとめ、提供された資料により補強したものである。

(2)ナイジェリアにおけるアフリケアの役割と位置づけ

アフリケアは、国際NGOとしての長年の経験から、NGOの運営についての高度な能力を確保している。その能力を生かし、先進国や国際援助機関などと、現地で活動する地域NGO/CBOの結節点 focal point としての役割を担うことを目指している。

アフリカにおいて医療・福祉分野に係わる各セクターは、それぞれ以下のような問題を抱えている。

  • 援助国・援助機関:ナイジェリアの多様な社会の前線で活動する地域NGO/CBOを自ら発掘できない、地域NGO/CBOの能力増進を自らの手で行うことができない、必ずしも現地の直接の信頼をかちうることができない。
  • 地域NGO/CBO:アカウンタビリティの確保など、ドナーが要求する国際的な水準を確保することができない、小規模のため自らの活動に必要な資源全部を確保することができない。
  • 現地政府セクター(連邦・州・地方政府):保健医療分野の具体的な問題にアプローチする能力が欠如している、援助予算を自ら組むことができない。

しかし、この3つのセクターは、具体的に問題を解決していく上でいずれも不可欠なものであり、それぞれの力を統合していくための結節点が必要である。アフリケアはその結節点として、地域NGO/CBOの発掘・育成・訓練、援助機関や政府・オフィシャルセクターとのマッチングなどを継続して行い、地域における持続可能な開発に資することを目標とする。

(3)アフリケアの行っているケア・サポート活動の実例:エイズ孤児への支援

前提として、ナイジェリアにはエイズに関する広範な無知、無視が存在する。またとくに地方では、エイズ問題を主要な課題として継続的に取り組む組織が少ないという問題もある。その中で、15歳以下において両親をHIV/AIDSで亡くした子どもたちの問題が存在する。

これについて、アフリケアはUSAIDおよびCEDPA(Center for Development and Population Activities:米国の民間国際NGO)の財政支援を受け、リヴァーズ州においてエイズ孤児救援の活動を行っている。内容は、エイズ孤児を引き取って育てている家族の所得を、技術指導、職業訓練、小規模金融などを通じて向上させるというもので、現地でForward Africa と the Ogoni Youth Development Project (オゴニ青年開発計画。オゴニ人の地域CBOと思われる)と提携して、2002年には800人のエイズ孤児をサポートするものとなる。この事業はシェル石油(リヴァーズ州における石油開発を実施。以前からオゴニ人との間で資源の搾取が社会問題となっていた)や地元のキリスト教会からの財政的支援の対象ともなっている 。

なお、前述のCEDPAは、ベヌエ州(地理的区分では北中央部 North Central に位置する)において同様のプロジェクトへの支援を展開している。

(4)ナイジェリアにおける「個別施策層」 vulnerable group とは

ナイジェリアのHIV/AIDSの蔓延状況は全土に及んでおり、例えば都市で多く農村で少ないとか、南部で多く北部で少ないなどといった明確な基準で割り切れるような有意差は存在しない。しかし、その中でも感染率の高い地域(ホットスポット hot spot)は存在する。1999年の保健省の感染率調査で最も数値が高かったのはベヌエ州のオトゥルクポ Oturkpo, Benue(妊婦の感染率が21.0%)、次がカドゥナ州(地理的区分は北西部)のカファンチャン Kafanchan, Kaduna (同15.0%)である。三番目がアクワ・イボム州のエシエン・ウディム Essien-Udim, Akuwa-Ibom (同13.3%)である 。

なぜベヌエ州の感染率が最大なのか。大都市もなく、長距離運輸労働者の通過点として重要なポイントであるとも言えない(ちなみにカドゥナ州カファンチャンは長距離運輸の集約点の一つであり、アクワ・イボム州は石油開発の中心地の一つである)。その要因として挙げられるのが、この地方は社会・文化的に女性の地位が極めて低いことである。この地方では、文化的に女性を男性の所有物とみなす習慣があり、夫が死んだ場合、女性は夫からの持参金を返済しなければならない。しかし女性が就労できる職業は限られており、女性はやむなく性労働 sexwork を行うためにベヌエ州から都会に出て、そこでHIVに感染するケースが多い。女性の地位の低さがベヌエ州をHIVの最大のホットスポットに押し上げたのである。こうした場合、文化的な状況を変えていくことが極めて重要である。

ナイジェリアにおけるHIV/AIDSに関するもっとも影響を受けやすい集団 vulnerable group は、女性である。例えば、先進国と違い、ナイジェリアにおいては、学校教育を受けている若い女性たちは働く場所を持っていないため、彼女たちは学校を出るために「オヤジ」 sugar daddy との継続的な援助交際をすることになる。性的に無防備な彼女らが男性のいいなりになり、HIV感染の可能性の高い性行為 unsafer sex をすることになるのは自明である。

こうした状況の改善のためには、女性が男性に対する交渉力をもつこと、HIV/AIDSについて自覚的になること、女性の reproductive rights を確保することが重要であり、そのために地方の女性のNGO/CBOの活動が必要である。ベヌエ州においてもこうした女性のNGO/CBOが活動しており、その援助を主に行っているのが前述のCEDPA である。

(5)男性における啓発・教育の必要性とその実例

女性の側がreproductive rights を確保することだけでなく、男性の女性に対する態度を変え、HIV/AIDSに対しても自覚的になることが必要である。これは困難な作業であるが、アフリケアはリヴァーズ州とその西隣のバイェルサ州 Bayelsa state(地理的区分:深南部 South South)において、アングリカン・チャーチを基盤とする団体である Boys Brigade (青年団)と協力関係を結び、教会の場を借りて、ヴィジュアルな要素を使ったディスカッションやワークショップ、ピア・カウンセリングなどを実施することによって、この啓発・教育を進めている。寸劇の要素なども用いている。

これ以外に、大衆向けの予防啓発イベントとして成功したのが、ナイジェリアで3ヶ所、ガーナで二ヶ所を選んで1999年12月31日に実施した「ダンス21」Dance 21 イベントである 。ナイジェリアでは、大都市のスポットとしてラゴス市のラゴス大学、イモ州オウェリ Owerri, Imo State の二つと、地方のスポットとしてアビア州のエペ Epe, Abia の三ヶ所で行われた。これは、夕方6時から早朝4時までの10時間にわたってダンスイベントを開催し、27分ダンス、3分の休憩時間を設け、その時間にエイズワーカーがエイズ予防啓発のメッセージを参加者に伝えるというものである。また、そのイベントには健康分野の専門家がはりつき、参加者からの質問や相談に答えるという体制もとった。ラゴスでのイベントはCNNニュースでもとりあげられるなど盛況を博した。

(4)所感及び付記

アフリケアは上記のように地域NGO/CBOと連携し、エイズ孤児へのサポート、女性の reproductive rights の確立、HIV/AIDSに関する啓発教育などの活動を展開している。前二者の活動は主にリヴァーズ州などのナイジャー・デルタ地帯で進んでいるものであるが、活動実績はそこに留まるものではない。

また、それ以外に州政府等との連携により医療従事者の研修や診療所の設備改善などを行っている。これらの多くは、USAID、ナイジェリア連邦・州保健省との協力により行われている。

アフリケアは、具体的なプロジェクトの進行において、地域NGO/CBOと政府機関、援助国・援助機関とを統合する結節点を任じている。日本が新たにナイジェリアの保健・医療分野に援助国として参入する上で、こうした国際NGOと連携を持つことは重要である。日本にとって、ナイジェリアのHIV/AIDS活動の前線で活動を行う地域NGO/CBOを自ら発掘することは困難であり、また、地域NGO/CBOがドナーである日本側の援助スキームに合わせた高い会計処理能力などを独力で整備することも困難である。以上、国際NGOと連携し、これを通じて地域NGO/CBOの活動を支援していくことが現実的な選択肢である。

アフリケアは、多くのプロジェクトの遂行資金をUSAIDから供給されており、この点でもアフリケアは日米連携のHIV/AIDS関連援助案件の形成において重要な役割を果たすことが期待される。

3.パスファインダー・インターナショナル・ナイジェリア Pathfinder International Nigeria

(1)基本事項

  1. 所在:Plot 1165, Lake Chad Crescent, off IBB Way, Maitama, Abuja
  2. 連絡先:
    • 電話 09-413-8657
    • e-mail ahmadttime@yahoo.com

(2)取材状況

  1. 日時:2002年2月28日 午後0時30分〜1時40分
  2. 場所:JICAナイジェリア事務所
  3. 対応者:マイク・エボー氏、国代表 Mr. Mike Egboh, Country Representative

(3)取材内容

(1)パスファインダー・インターナショナルについて

パスファインダー・インターナショナルは、米国マサチューセッツ州に本部をおき、発展途上国におけるReproductive health に係わる事業に対して技術的・財政的な支援を行う民間の自発的な組織 PVO: Private Voluntary Organization である。ケニアに地域事務所をおき、アフリカ・アジア・ラテンアメリカの20ヶ国において地域NGO/CBOとネットワークを作って、40年以上にわたって Reproductive Health に係わる活動を行っている 。

パスファインダー・ナイジェリアは、非営利のNGOとして政府に登録を行っており、1965年以来、ナイジェリアで家族計画や Reproductive Health に関する地域NGO/CBOの運営・技術訓練やIEC(information, education and communication: 情報・教育・コミュニケーション)の提供等を行ってきている。パスファインダー・ナイジェリアに対しては、米国のUSAID、英国のDfIDを始め、フォード財団、パッカード財団など米国の主要な民間財団などが資金を拠出しており 、パスファインダー・ナイジェリアはこれらの資金と技術をもとに、東部の山岳地帯や深南部のデルタ地帯などの僻地を含むナイジェリア全土で、地域NGO/CBOと連携して活動している。国代表のマイク・エボー氏はナイジェリア人の男性で、米国で保健医療に関する教育を受けた人物である。

(2)パスファインダーのナイジェリアにおけるHIV/AIDSに関する活動の例

パスファインダー・ナイジェリアがHIV/AIDSに関する活動として最初に取り組んだのは、99年の保健省によるHIV感染率調査で最大の数値が出たベヌエ州のオトゥルクポ Oturkpo, Benue とオグン州のシャガン Shagan, Ogun である。主要にはReproductive health に関する教育・啓発プログラムを展開し、現在ではこれらの地域で育ったNGOに活動を引き継ぐ形となっている。

現在展開している活動のうち主なものを挙げると、バイェルサ州 Bayelsa (地理的区分は深南部 South South, ナイジャー・デルタ地帯西部)のネンベ Nembe でHIV/AIDSに関するカウンセリングおよびスクリーニング・サービスを開始、また、カドゥナ州カファンチャン Kafanchan, Kaduna (99年の保健省HIV感染率調査で二位の数値がでた都市)で商業的性労働者およびすず鉱山労働者に対する啓発活動を開始した。さらに、カドゥナ州カドゥナ Kaduna, Kaduna では軍におけるHIV/AIDSに関する啓発活動を行っている。

(3)ナイジェリアにおけるHIV/AIDSの蔓延の地理的・歴史的構造

ナイジェリアにおけるHIV/AIDSの最大のホット・スポットはベヌエ州およびその周辺であり、次に位置するのは、この北側に位置する各州である。

なぜこの地域が最大のホット・スポットになったのか、その秘密は1967年〜70年に起こったビアフラ戦争 にある。この地域は、ビアフラ側を北部から包囲する連邦軍の前線基地であったところであり、軍が拠点にセックスワーカーを吸い寄せる構造が作られた。この戦争によって出来た人や資源の流れが、この地域にHIV/AIDSに影響されやすい構造を作り出し、そこに80年代以降HIVが浸透したということが言える。

また、ナイジャーデルタから北東部、ラゴスから北西部へと、ナイジェリアには南と北を結ぶ二つの動脈があるが、これを通じてHIV/AIDSが全土に拡散しているといえる。

まず、ナイジャーデルタから北東部へと結ぶ道については、深南部のポートハーコート(リヴァーズ州の州都)からエヌグ Enugu 、オポロ Opolo と輸送労働者のトラックステーションが位置している。また、ラゴスからの道について言えば、オヨ州北部のジャバ Jabba, オクワ Okwa にトラックステーションがある。こうした輸送労働の中継地点には、必ずセックスワーカーが集まる。

一方、アニャンブラ州オニチャ Onitcha, Anyambra やアビア州アバ Aba, Abia (いずれも地理的区分は南東部 South East)にも大きなマーケットがあり、そこにセックスワーカーが集まる場所がある。また、ナイジャーデルタ地帯は石油産出地であり、石油労働者がセックスワーカーを引き寄せる。

さらに、首都アブジャにもう一つのホットスポットが出来ようとしている。感染率第二位の都市カドゥナ州のカファンチャンは、アブジャの北東、車で1時間程度の所に位置し、アブジャの人々は週末、ここに遊びに行く傾向がある。アブジャは政界・経済界のエリートが集まる街であるが、これらの人々もHIV/AIDS感染の可能性にさらされつつある。実際、アブジャは感染率10%程度で、平均よりもかなり高くなっている。

(4)パスファインダーの活動・資金・組織について

パスファインダーは、現在カドゥナ州以外に、アビア州、カノ州 Kano(北西部)、タラバ州 Taraba (北東部)などでも広く活動を展開している。タラバ州や深南部での活動は、交通の不便な辺境地帯にも及んでいる。

これらの活動の資金は、北部での活動プログラムに関してはパッカード財団 Packard Foundation、アプローチの難しい集団へのプログラム(全国で展開)に関してはフォード財団 Ford Foundationから調達している。また、USAIDやDfIDなど、援助国の政府系援助機関とも提携して資金調達を行っている。なお、USAIDが行っているベーシックス Basics: Basic Support for Institutionalizing Child Servival (USAIDの「子どもの生存」分野の主要プロジェクト)との提携については、カノ州、ラゴス州、アビア州などで関係を持っている。

パスファインダー・ナイジェリアは、全土で多様性を持って展開されるこれらのプロジェクトを推進するため、ラゴス、アブジャ、カドゥナの3都市に事務所を置き、27人の専従職員を有している。この専従職員は、それぞれのプロジェクトごとにチームを組んで、地域NGO/CBOと連携してプロジェクト推進にあたっている。

(5)ナイジェリアにおける日本のHIV/AIDS関連の援助のあり方について

連邦政府は、ナイジェリアの6つの地理的区分(北東部、北西部、北中央部、南西部、南東部、深南部)に均等に援助を進めることを要請することが多いが、最初からこの条件を満たすのは困難である。段階を踏んで、最終的に6つの地理的区分に対する援助を行っていくのが適切なのではないか。最初に、有力な地域NGO/CBOが存在する所で援助プログラムを実施して成功モデルを作り、その上でステップ・アップを行っていくのが得策であると思われる。

例えば北部のゴンベ州 Gombe では、あまりHIV/AIDSに関する活動が展開されていない。最終的には、こうした地域でイノベーティブな活動を支援出来るようになるのが望ましいといえる。

(4)所感及び付記

パスファインダー・ナイジェリアは、深南部ナイジャー・デルタ地帯の僻地や東部カメルーン国境の山岳地帯などをも含むナイジェリア全土において、幅広くHIV/AIDS予防啓発やReproductive Health、地域NGO/CBOの運営能力向上のためのプログラムなどを展開している。国代表のマイク・エボー氏は、あえて拠点を持たず各地を移動して各地の地域NGO/CBOのネットワーキングにつとめている。パスファインダーは、たとえばベヌエ州オトゥルクポやカドゥナ州カファンチャンなど、ナイジェリアにおいてHIV/AIDSのホットスポットであることが判明した場所にいち早く行ってプログラムを遂行しており、その機動力は高く評価できると思われる。

また、米国に本部のある国際NGOだけに、その資金の多くはUSAIDや、米国の大規模な民間財団などに負っており、またUSAIDの展開するBASICSなどのプログラムとの連携もあるだけに、日米連携という観点からも評価できる。

さらに、マイク・エボー氏は、ナイジェリアにおけるHIV/AIDSの蔓延の社会的・歴史的な構造化について熟知している。ナイジェリアで新しくHIV/AIDSに関するプログラムへの援助を開始する日本にとって、サイト選定などを検討しプログラムを実施する上で、この国際NGOと連携する価値は非常にあると思われる。

4.アクション・エイド・ナイジェリア Action Aid Nigeria、ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ CiSCGHAN; Civil Society Consultative Group on HIV/AIDS in Nigeria

(1)基本事項

  1. 所在:Plot 461, Kumasi Crescent, Off Aminu-Kano Crescent PO Box 1890 Wuse II, Abuja
  2. 連絡先:
    • 電話 09-413-0986/7
    • FAX 09-413-0988
    • e-mail charlesA@actionaidnigeria.org (Action Aid Nigeria), ciscghan@hotmail.com (CiSCGHAN)

(2)取材状況

  1. 日時:2002年2月26日 午前8時50分〜9時50分
  2. 場所:ナイジェリア事務所 Action Aid Nigeria Office
  3. 対応者:
    1. アクション・エイド・ナイジェリア
       チャールズ・アバニ氏、国代表 Charles Abani, Country Director
       ハルサナ・ダウハ氏、プログラム・アドバイザー  Harsana Dawha, Program Advisor of reproductive Sexual Health/Rights and HIV/AIDS
    2. ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ
       ウォレ・ダイニ博士 プログラム・オフィサー Dr. Wole Daini, Program Officer

(3)取材内容
(1)アクション・エイド・ナイジェリアについて
 アクション・エイドは1972年にイギリスで設立された開発援助に携わる国際NGOで、現在、世界30ヶ国(アフリカでは15ヶ国)において、500万人にのぼる世界の貧困層に直接援助を行っている。「ともに貧困と闘」い、「すべての人が尊厳ある生を営む貧困なき世界」をつくることを目標としている。アクションエイドは、政府・市民社会の組織、民間セクター、貧困なコミュニティとともに活動し、貧困層や周縁層の人々の声を政府機関や国際機関に反映することを目指している 。国代表のチャールズ・アバニ氏はナイジェリア人の男性。ミーティングには、アバニ氏以外にプログラム・アドバイザーを務めるナイジェリア人女性ハルサナ・ダウハ氏ら二人のスタッフが参加した。
(2)ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ CiSCGHAN について
 ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ(以下CiSCGHAN)は、アクション・エイド・ナイジェリアの事務所と同じ場所に事務所をおいている。CiSCGHANは、ナイジェリアのHIV/AIDS問題に係わる市民社会組織 Civil Society Organizations (CSO) の連合体であり、2000年の8月に、ナイジェリアの35州から74団体が首都アブジャに集まって結成された。現在、CiSCGHAN に参加している組織は194にまでのぼっている 。
 CiSCGHANの主要な目的は、ナイジェリアのHIV/AIDSに関する国家政策に市民社会からの意見を反映させることにある。CiSCGHANは、現在英国のドナーであるDfIDやマッカーサー財団から財政的な支援を受けている。
(3)アクション・エイド・ナイジェリアのHIV/AIDS活動の方向性
 アクション・エイド・ナイジェリアは、ナイジェリアのHIV/AIDS活動に関して二つの方向性を持っている。一つはコミュニティ・レベルでの活動、もう一つは国家レベルでの活動である。
 コミュニティ・レベルの活動については、各地域のコミュニティとの協働を中心としながら、HIV感染についての人々の行動変容や、人権意識の養成を行っていくことが主目的である。
 国家レベルでの活動は、国家政策に対する、HIV/AIDSの影響を受けている多くの人々とコミュニティの参加を確保することが目的である。アクション・エイドは、連邦政府レベルから地方政府レベルまでの連携、即ち国家エイズ行動委員会(NACA)、各州エイズ行動委員会(SACA)、さらに地方エイズ行動委員会(LACA)の連携の強化など、行政政策を強化することを一つの目標としている。また、もう一つの目標として、NGO/CBOの連合体として国家政策への参加をめざすナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ(CiSCGHAN)の強化を目指している。
(4)ナイジェリアの国家エイズ戦略および州政府の活動についての評価
 ナイジェリア連邦政府が2001年に作成した国家エイズ戦略(「HIV/AIDS緊急行動計画」HEAP: HIV/AIDS Emergency Action Plan)は、内容的には先進的なものを持っている。しかし、実践面ではHEAPで目指すものの実現はなかなかうまく行っていない。
 現在、具体的に起こっている問題としては、保健省(FMOH: Federal Ministry of Health)と国家エイズ行動委員会(NACA: National Action Committee on AIDS)との間に、エイズ政策をめぐる主導権争いが存在している。また、連邦と各州の間での資金配分をめぐる問題が存在している。
 さらに、HEAPは「緊急」行動計画であり、HIV/AIDSに関するより長期的な取り組みの戦略が存在していないことも大きな問題である。
 一方、州政府においても、HIV/AIDS政策に積極的なところと、必ずしも熱心でないところとの落差が存在している。州政府が積極的に活動している州として挙げられるのが、ラゴス州、アクワ・イボム州、ベヌエ州である。ラゴス州は地域NGO/CBOに対する経済的支援を行っており、またNGOのコーディネイトも行っている。アクワ・イボム州は、州レベルでエイズに対する政策を立てている。ベヌエ州は、エイズ政策に関する市民社会の参加を確保する試みを行っている。
 州政府がHIV/AIDSに対して積極的に活動している場合、国際NGOや地域NGO/CBOにおけるメリットとして挙げられるのは、州政府が便宜を図ることにより、地域NGO/CBOと国際NGOとのコンタクトがスムーズになること、州においてプロジェクトの遂行のための環境を整えることが容易になること、などの点である。
(5)日本がナイジェリアでHIV/AIDSに関する活動を展開する上での注意点
 まず、ナイジェリアで活動する上での治安上の問題点などの危険度について言えば、第一に「ラゴスを避ける」ということ、それだけで十分ではないか。他の地域における治安状況はどれも似たり寄ったりである。
 HIV/AIDSに関する活動には多様性があり、そのどれもが重要なものである。感染率の高いところだけが活動の場所ではない。例えば、感染率の低い地域について、感染率を低いままにおさえるというのは、重要な活動である。
 一番容易に行いうるのは、強い地域NGO/CBOが存在する地域において、そのNGO/CBOをサポートすることによって、まず実績を作るということである。一方、こうしたNGO/CBOなどが何もない地域において、地域NGO/CBOを新しく組織し、育成するということが出来れば、それは大変な功績になる。
 いずれにせよ、多岐にわたるHIV/AIDSに関わる活動において、日本がどのようなコンセプトに基づき、何を行うのか。そうしたミッションをきちんと設定することが重要である。
(4)所感および付記
 アクション・エイド・ナイジェリアは、パスファインダーやアフリケアのようなプロジェクトベースの活動を展開するというよりは、CiSCGHANのような地域NGO/CBOの組織化などを通じて、ナイジェリアの連邦・地方政府の政策決定に市民社会の声を届けるという形で、より政策立案的なアプローチをめざしているように思われる。様々な国際NGOがネットワークを張り巡らせる中で、アクション・エイド・ナイジェリアのような形で、国家政策を市民社会により近づけることを目標とする国際NGOの存在も重要であると思われる。
 また、地域NGO/CBOの全国的連合体であるCiSCGHANのような存在も、将来的に大きな意味を持ってくるものであろう。しかし、複雑で多様性に富む、かつ全土を結ぶ交通網なども現状では存在しないナイジェリアのような国において、CiSCGHANのような地域NGO/CBOの連合体が自主的な立場を保ちながら発展して行くには、極めて大きな困難があり、複雑な政治力学の行使が必要であろう。
 今後、日本がナイジェリアにおけるHIV/AIDSに係わる支援を行っていく上で、アクション・エイドは連邦・州・地方政府との連携の確保などにおいて、またCiSCGHANは事業のサイト選定などにおいて、連携できる余地があるものと思われる。

5.ユニセフ・ナイジェリア United Nations Children's Fund
(1)基本事項
(1)所在:33 Usuma Street, Off Gana Street, Maitama, Abuja
(2)連絡先:
・電話 09-413-4687/8
・FAX 09-413-4226
・E-mail cbwakira@unicef.org
(2)取材状況
(1)日時:2002年2月27日 午後3時〜4時
(2)場所:ユニセフ・ナイジェリア事務所 Unicef Nigeria Office
(3)対応者:シリラ・ブワキラ氏、保護と参加プロジェクトチーフ
 Cyrilla Bwakira, Chief, Protection and Participation
※シリラ・ブワキラ氏はナイジェリア人女性である。
(3)取材内容
(1)ユニセフのナイジェリアにおけるHIV/AIDSへの取り組みについて
 ユニセフは、ナイジェリアにおけるHIV/AIDSに対する取り組みについて、年齢階層別の「ライフ・サイクル・アプローチ」Life-Cycle Approach を採用している。
 まず第一段階として、母子感染の防止のためのプログラム。第二段階は、初等教育段階の児童に対して、HIV/AIDSに関する知識と性教育を行うプログラム。第三段階は、青少年(〜18歳)に対して、HIV/AIDSに関する予防啓発とコミュニティの参加を促すプログラム、あともう一つは、エイズ孤児に対するプログラムである。
 このうち、第一段階の母子感染の防止については、薬剤供給などの面で政府からのサポートを確保している。また、第二段階の初等教育においては、6つのパイロット・サイトにおいて、学校教育の中で性教育と結びつけてHIV/AIDSに関するIEC(情報・教育・コミュニケーション)のプログラムを行っており、政府の教育関係の行政機関の支援を受けている。
 ユニセフが政府との関係において重要視しているのは、現在の政府のドナーへの依存度の高さを徐々に解消し、政府自らのHIV/AIDSに対する政策決定への関与を増大させ、自立した政策決定が実現できるように政府の能力を増大させていくことである。
(2)ユニセフのHIV/AIDSに関する予防啓発の取り組みについて
 ナイジェリアにおけるHIV/AIDSへの反応は、否定、無視、誤解 denial, ignorance, misperception が中心であった。ユニセフはこれについて、昨年の12月、HIV/AIDSに関する情報・教育・コミュニケーションの提供に向けたパッケージを作り、学校・大学、教会やモスク、健康センター、マスメディア、市場などの人が集まる場所において情報を提供するプログラムを行った。
 このプログラムは、MARC(Massive Awareness Raising Campaign on HIV/AIDS:HIV/AIDSに関する大規模予防啓発キャンペーン)と名付けられ、ユニセフと地域NGO/CBOや労働組合などの各種団体、州・地方政府の連携によって、全国の6大都市(ラゴス、イバダン、アブジャ、カノ、カドゥナ、ポートハーコート)で行われた 。
 これが最もうまく行ったのがリヴァーズ州(深南部、ナイジャー・デルタ地帯)のポートハーコートであり、100万人の人が何らかの形でHIV/AIDSに関する情報二アクセスすることが出来た。
 また、若年層のカップルを対象にした教育プログラムも展開した。20〜24歳の400カップルに対して、エイズに関する情報を提供した。また、国立病院の医療従事者に対する教育活動も行っている。
(3)首都アブジャにおけるHIV/AIDSに関する活動の展開について
 アブジャは、昨年12月に展開したMARCのキャンペーンが最もうまく行かなかった場所であり、HIV/AIDSに関係する活動の展開が最もやりにくい場所であると言える。その理由は、この都市が何もないところから人工的に作り上げられた都市であり、極めて歴史が浅いため、コミュニティがほとんど存在しないこと、人の流動が激しく、人が一ヶ所に留まっていないこと、すなわち、蓄積された社会資源がほとんどないため、HIV/AIDS関連の活動において、こうした資源を利用することが出来ない。
 ところが、こうした活動のやりにくさと裏腹に、アブジャはHIV感染率が非常に高く、ナイジェリアの地方における感染率の平均が約4%であるのに対して、アブジャは10%を越えている。その理由は、各地から建設労働に従事する男性の単身労働者が流入し、性行動が極めて活発であることによる。しかし、まだプロフェッショナルなセックスワーカーの層は多くなく、もっぱら、若くて経済力のない女性がセックスワークに従事することになっている。こうした状況が、アブジャのHIV/AIDSの状況を非常に問題のあるものにしている。
(4)ナイジェリアにおいてHIV/AIDS関連の活動をしやすい場所について
 アブジャが活動をやりにくい場所であるのと対照的に、活動がやりやすい場所も存在する。基本的には、それは州政府がHIV/AIDS対策について積極的な場所である。これについては、一つは連邦・州・地方のエイズ行動委員会の連携がうまく行っているところ、CiSCGHAN(前述:ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ)に参加している地域NGO/CBOの活動がうまく機能しているところである。
 州政府のとりくみが機能している州として挙げられるのが、リヴァーズ州(ポートハーコート)、ラゴス州(ラゴス)である。
 また、この国では、国立の研究所や保健センターなどよりも、各地にある大学の方が多くの知的資源を提供する傾向がある。
(4)所感および付記
 ユニセフとの対話でもっとも印象的だったのは、ナイジェリアを訪れる日本人から見てもっとも「安全な」場所といわれるアブジャが、ナイジェリアで活動する国際NGOや地域NGO/CBOから見たとき、「最も活動しにくい」場所になっているということである。日本人にとってアブジャが「安全」であるのは、、そこが官庁や多国籍企業、外国人駐在員たちの街であり、アブジャのナイジェリア人のコミュニティが弱体であるからだが、逆にHIV/AIDSに関する活動を展開する立場から見れば、まさにそれが理由で地域共同体を基礎とした啓発活動が展開できず、活動が困難になってしまうというのである。このことは大変示唆的である。この場所の日本人にとっての「居心地の良さ」は決してナイジェリア人と共有されたものではなく、むしろ相反したものであるということができるのである。
 しかし、だからこそアブジャは、日本がナイジェリアにおけるHIV/AIDS活動にコミットする上で一つの可能性を持つフィールドであるということもできる。この後に述べるアブジャの地域NGO/CBOである「女性の健康・教育・開発」Women's Health, Education and Development の活動と、前に述べたパスファインダーが展開している、アブジャに隣接するカドゥナ州南部カファンチャン地方での活動などを日本の支援で有機的に統合していくことで、アブジャ・連邦首都領域 Federal Capital territory およびその周辺におけるHIV/AIDSの感染状況を少しでもよくしていくことは可能ではないか。
6.まとめ
 米国や英国等に本拠をおく国際NGOは、ナイジェリアの全土にわたって自生する、コミュニティを基礎とした地域NGO/CBOをかなりの規模においてネットワーキングし、援助国および国際援助機関、また連邦・州・地方の政府機関との結節点となることで、ナイジェリアのHIV/AIDSに関する活動において極めて重要な役割を果たしている。これらの国際NGOは、主に米国や英国に留学して保健医療を専門的に学んだ優秀なナイジェリア人たちによって組織・運営されており、その能力や任務遂行の意志は極めて高いように思われた。
 アクション・エイドが政策指向的であるのに対して、パスファインダーはアプローチしにくい地方での地域NGOとの連携を目指しており、またアフリケアはとくにナイジャー・デルタ地帯での活動展開に力を入れていること、またユニセフは大都市において、多くの社会セクターを動員して予防啓発メッセージを流すプロジェクトを中心に展開していることなど、国際NGOはそれぞれに一定の特徴がある。これらがうまく相乗効果を持つことが出来れば、ナイジェリアのHIV/AIDSへの取り組みは今後大きく成長すると思われる。
 課題として考えられるのは以下の二つである。
 まず、99年の議会制民主主義体制の確立により、ナイジェリアへの援助国・援助機関の関心は大きく高まり、国際NGOの活動も、資金力の充実により大きく高まってきていると思われる。実際には、国際NGOには予算執行能力はあるが予算形成能力があるわけではないので、援助国・援助機関のナイジェリアへの関心がこのまま継続すれば、彼らの実現できる活動はどんどん増大するだろうが、政治的な混乱などによって資金の流れが細くなれば、彼らの活動もそれに従って弱体化するしかない。
 次に、国際NGOは地域NGO/CBOと協力してHIV/AIDSに関する活動を実施するのであり、実際の活動の遂行はその多くの部分を地域のNGO/CBOに負っている。今回はこれらの国際NGOから活動を聞くことにより、彼らの活動が全土に広がっていることが理解できたが、実際にこうした地方現地において、地域NGO/CBOがどのような活動を展開しているかについては、今回の調査では必ずしも把握できなかった。HIV/AIDSに関する援助資金が、実際にHIV/AIDSの影響を受けている一般の人々にきちんと行き渡るかどうかは、これら地域NGO/CBOの力量にかかっているのであり、国際NGOに対して資金的な援助を行う場合には、具体的にプロジェクトを行っているサイトにおいて、実際に地域ベースの活動が適切に展開されているかどうかを定期的にチェックしていく必要があるだろう。

第三 地域NGO/CBOに関する調査

1.地域NGO/CBOの果たす役割
 国際NGOが、地域NGO/CBOと援助国・援助機関、ナイジェリア現地の国・地方の政府機関、社会セクターを結ぶ結節点として機能し、エイズの影響に強くさらされている各地の人々に対する資金・資源の流通を果たすものであるとすると、地域NGO/CBOは、その地域のコミュニティと直接アクセスし、コミュニティの人々に直接働きかけて、その信頼関係のもとに、HIV/AIDSに係わる具体的な事業を執行するアウトプットの役割を果たすものである。そのため、地域NGO/CBOの活動は、ナイジェリアにおけるHIV/AIDSに関する活動が具体的な効果を持つかどうかについての最も重要な要素となる。
 地域NGO/CBOに要求される能力は、いってみれば過大である。地域共同体の権力関係に浸透している必要がある一方、HIV/AIDS問題について地域をエンパワーするためには、欧米で発達したようなワークショップなどの手法を学び、それを地域に応用できるだけの能力も持たなければならない。また一方で、国際NGOと連携して援助国や援助機関から資金の流通を得るためには、組織の恒常的な運営や組織財政についてのアカウンタビリティの確保も必要である。パスファインダーなどの国際NGOは地域NGO/CBOのこうした能力の育成をサポートしており、国際NGO/CBOによって形成されたNGO/CBOも多くあると思われる。
 今回の取材では、地域NGO/CBOについては、アブジャ近郊のスラム街を活動の舞台とする一組織についてしか取材できなかったが、この組織はきわめて洗練された情熱的な活動を展開しているように感じられた。この組織を紹介することで、地域NGO/CBOの活動のあり方について検討したい。

2.アブジャとはどのような都市か
 アブジャにおける地域NGO/CBOの活動を紹介する前に、アブジャという都市について若干紹介しておきたい。
 ババンギダ政権が1991年に国家元首府をラゴスからアブジャに移転して以降、アブジャはサバンナの荒野から瞬く間にナイジェリアの中央の行政機関や多国籍企業の集積地として成長を遂げた。とくに99年の民政移管後は、混沌と治安の悪さで悪名高いラゴスからほとんどの官庁と多くの大企業が移転し、アブジャはナイジェリアにおけるグローバリズムの拠点都市としての位置づけを確保した。アブジャにおけるこの側面を代表するのが、アブジャの首都機能を担うムルタラ・ムハマドおよびンナムディ・アジキウェの名が冠せられた二つの高速道路によって形成される環状道路の内側、とくに中央官庁街から北のマイタマ Maitama 地区、ワセ Wuse 地区である。この地域には、官庁街、企業本社、高級ホテルや大使館、政府機関などが位置している。
 しかし当然のことではあるが、荒野から現代都市を建設するにおいては、多くの建設労働者が必要となる。都市建設に向けた公共事業が活性化するにつれ、多くの単身労働者がアブジャ近辺に流入し始めた。一方、首都機能の移転に伴い、政府の仕事に関係する多くの人々がラゴスからアブジャに移動した。これらの人々は、地価が極めて高いアブジャ中央から北部には住むことが出来ず、環状道路の外側に大規模なスラム街が作られ始めた。さらに環状道路内でも南部のガルキ Garki 地区に大規模なタウンシップが作られ、これらが環状道路内の庶民の街として機能し始めた。これらの地域は、アブジャのもう一つの側面である。これらの地域は、グローバリズムのアブジャに大量の労働力を提供しつつ、それぞれの社会をコミュニティ化し、バイク・タクシーや車の修理を行う工場の集中地域などのインフォーマル・セクターを形成し始めた。現在、これらのインフォーマル・セクターには、男性の単身労働者の性的需要を満たすための売春街も大規模に形成されるに至っている。すでにアブジャのHIVの感染率は10%に達し、ナイジェリアの平均推定感染率(5.4%)のほぼ二倍に至っているのである。
 アブジャはもはや、ナイジェリアの他地域から閉鎖されたグローバリズムの拠点都市ではありえない。ナイジェリアの中心部に位置するアブジャは、いまやグローバル都市としての要素と、新しく形成されたナイジェリア人のコミュニティの要素が大きくせめぎ合うダイナミックな変化の時期を迎えている。アブジャにおいて、ナイジェリア人自身が自らHIV/AIDSに対して自覚的なコミュニティを作っていくことは極めて重要である。この役割を果たそうとしているのが、次に紹介する地域NGO/CBOである「女性の健康・教育・開発」Women's Health, Education and Development なのである。

3.アブジャにおけるHIV/AIDSに関する地域NGO/CBOの活動:「女性の健康・教育・開発」 Women's Health, Education and Development について
(1)基本事項
(1)所在:Plot 288, Lagos Crescent, off Samuel Ladoke Akintora Blvd, Garki II, Abuja
(2)連絡先
・電話 09-314-8365, 314-7263
・E-mail whednigeria@yahoo.co.uk
(2)取材状況
(1)日時:2002年2月28日午後3時30分〜5時10分
(2)場所:「女性の健康・教育・開発」事務所
(3)対応者:
 アイリーン・パトリック・オグボク氏、プログラム・オフィサー Ms. Irene Patrick Ogboku, Program Officer
 エスター・アデビイ氏、プログラム・コーディネイター Ms. Esther Adebiyi, Program Coodinator
 イケンナ・グラント氏、会計担当者 Ikenna Grant, Accountant
(3)取材内容
(1)前提
 「女性の健康・教育・開発」 Women's Health, Education and Development はアブジャ環状道路内側の南部に位置するガルキ2地区 Garki II に位置する。他の多くの国際NGOの事務所は北部のマイタマ Maitama 地区・ワセ Wuse 地区など、アブジャのグローバル都市としての要素を代表する地域に位置しているが、ガルキ2地区は北部から移動してきたハウサ人中心の単身労働者のタウンシップを中心とした地域であり、とくにこの事務所が位置するところは、これらの単身労働者らの生活を支える中小の商店や工場が集中する地域である。アブジャの中で「人々の生活」を感じることの出来る場所であるということができる。このガルキ2地区も、この地域NGO/CBOの活動の舞台の一つとなっている。
(2)「女性の健康・教育・開発」について
 「女性の健康・教育・開発」は、1988年に北部カノ州の州都カノ Kano, Kano で非政府・非営利・非政治組織として結成され、1994年に女性、とくにセックスワーカー Commercial Sex Worker のエンパワーメントの活動を開始した。その後、カノでの活動と並行してアブジャでの活動を開始している。
 「女性の健康・教育・開発」の活動目標は、
a)女性、とくにセックスワーカーのリプロダクティヴ・ヘルスに向けた教育を行う。
b)女性たちの自助のためのサポートを行うとともに、女性の経験をシェアし、その経験を有効なものにしていく。
c)弱い立場に置かれた女性たちの職業訓練を行い、収入の増加と自己受容の拡大を図る。
 という3点におかれている。
 「女性の健康・教育・開発」の基本的な活動は、アブジャに住むナイジェリア人のコミュニティであり、かつスラム街であるということのできるアポ地区 Apo 、マブシ地区 Mabushi 、ガルキ地区 Garki などにおいて、女性、とくにセックスワーカーに対する啓発やコミュニティ・エンパワーメントを行っていくことである。また、このエンパワーメントの過程で、HIV/AIDSに関する情報の提供を行い、女性たちが男性に対して Reproductive Rights を確保し、HIV/AIDSから身を守るための行動変容を実現していくことを目指している。
(3)セックスワーカーへのエンパワーメントの具体的な展開
 ただ、人口の流動の多いアブジャでは、セックスワーカーの移動も激しく、啓発活動は非常に難しい。それを実現するために、「女性の健康・教育・開発」では、まずコミュニティに入っていき、女性たちを対象にアドボカシー・ミーティングを行う。その前段階で、地域の指導者や宗教的指導者、地域の鍵になるすべての人々に会い、自分たちの目的を説明し、その活動の主旨を理解してもらう。セックスワーカーを対象としたワークショップを定期的に行うのは、その後である。
 現在、「女性の健康・教育・開発」がワークショップを行っているのは、アブジャ周辺のマブシ地区、アポ地区など7つのコミュニティである。
 セックスワーカーたちは、自己の男性に対する、また社会に対する権利の存在を認識していない。こうしたセックスワーカーたちに、ワークショップを通じて自己の性的権利 Sexual Rights の存在を自覚させていくことが非常に重要である。このことは、セックスワーカーたちが性行為において、HIV/AIDSの感染の可能性の高い性行為から、セイファー・セックスへと行動を変容させることが出来るかどうかにとっても、大きな試金石であるということが出来る。
 こうしたワークショップは、定期的な開催が成功していけば、徐々にセックスワーカーたちに主導権を渡していき、彼女ら自身が運営していけるようにしている。
(4)「女性の健康・教育・開発」の歴史とセックスワーカーたちが直面する困難
 「女性の健康・教育・開発」は、もともと北部のカノ市で活動を出発させた団体であり、この地域で同様の活動を行っていた。ところが、カノ州は1999年にイスラーム法(シャリーア) Shari'a を導入し、セックスワーカーを排除・迫害するようになった。もともとナイジェリア北部はイスラーム教の影響が極めて強い地域であり、カノ州だけでなく北西部諸州の多くがシャリーアを導入したために、多くのセックスワーカーが迫害を受けて北部から追放され、アブジャに流入せざるを得ない状況に追い込まれていった。連邦首都領域であるアブジャは、自由な場所であり、シャリーアを導入することはあり得ないからである。
 「女性の健康・教育・開発」の活動も、カノ州で「売春婦の存在を利する」ものであるとされ、迫害を受け排除されてしまった。その結果として、近年、活動の比重をカノからアブジャに大きく移動した。なお、現在「女性の健康・教育・開発」はカノに地域事務所をおいている。
(5)セクシュアリティに対する無視を克服するための活動
 女性が自己の性的権利に自覚的でないことの大きな原因は、ナイジェリアにおいて日常生活でセクシュアリティが無視され、セックスについても全く話をすることがない、ということにある。
 その結果、女性はセイファー・セックスの方法はおろか、性それ自体について全く何も知らないまま成長することになり、成人になって無防備なままセックスワーカーになって行かざるを得ない状況になることが多い。
 「女性の健康・教育・開発」では、セックスワーカーを対象としたワークショップにおいて、イギリスで開発されたメソッド("Stepping Stones" という本)を活用しながら、現場に適した形で適用して展開している。彼女らの行動変容の鍵は、いかに適切にIEC(情報、教育、コミュニケーション)を導入するかである。
 リーフレットやポスターについても作成している。「女性の健康・教育・開発」が作成する多くのリーフレットやパンフレットは英語で作られているが、ハウサ語のバージョンも存在する。「女性の健康・教育・開発」はカノから移り住んできたため、活動スタッフの多くはハウサ人である。また、アブジャのコミュニティに住んでいる人もハウサ人が多い。
(6)活動における資金調達の方法
 「女性の健康・教育・開発」の現在の活動展開における主要な援助組織は、米国のマッカーサー財団 McArthur Foundation、英国の家族計画に関する団体である Interantional Family Health および同様の米国の団体 Family Health International、さらに英国の援助機関DfID である。また、国際NGOであるパスファインダー・インターナショナル・ナイジェリアと提携してセックスワーカーに関する協同プロジェクトを行っている。「女性の健康・教育・開発」はこれらの団体に対して、活動面・財政面でのアカウンタビリティーを確保しており、こうした点については強い自信を持っている。
(7)日本の援助に期待すること
 英国・米国の政府・援助機関は、HIV/AIDS、教育、民主化の3つの要素に関して活動を行っている。日本は、例えば草の根と政策の二つのレベルを結びつけること(政策をよりコミュニティに近づけるためのアドボカシー的な要素と強めること)とか、技術の導入により、地域NGO/CBOの能力を向上させていくこと、貧困の問題を解決するための方法論を提供することなど、英米とは別のコンセプトでナイジェリアに対するアプローチを展開するのが適切なのではないか。
(4)所感および付記
 アブジャ南部のガルキ2地区で、女性スタッフ2名、男性スタッフ1名の3名からじっくりと話を聞き、また、ポスターやリーフレットなど、この組織がコミュニティに提供しているグッズなども得ることができた。
 今回の訪問で直接、コミュニティに対する活動を展開している地域NGO/CBOに取材できたのは、この組織のみである。3人とも、自分の活動に相当の自信を持っており、説得力を持って自分の活動の方法論や意義について展開した。相当の力量のあるスタッフであるということができる。
 最後に、この団体がアブジャ郊外のマブシ地区において、その翌日(3月1日)にワークショップを行うことを聞き、参加させてもらうことにした。ワークショップの内容については次の項に譲る。

4.アブジャ郊外のスラム街マブシ Mabushi 地区で行われたワークショップ
(1)マブシ地区とは
 3月1日、前章の「女性の健康・教育・開発」がアブジャ郊外のマブシ地区においてセックスワーカーのワークショップを開催した。地域NGO/CBOの実地での活動を取材する貴重な機会にもなるため、筆者も参加することとした。
 宿泊先のシェラトン・ホテルまでスタッフに車で迎えに来てもらい、そこから片側3車線の高速道路サニ・アバチャ・ウェイ Sani Abacha Way を北に向かうと、3〜4分で市中心部をとりまく環状道路の西側部分であるンナムディ・アジキウェ高速道路に出る。この交差点から、車は舗装道路を外れ、サバンナに切り拓かれた道とも言えないような斜面を下る。数分もかからないうちに、マブシ地区の入口に到着する。
 マブシ地区は、およそ5万人が居住する都市スラムである。道路は舗装されておらず、その場所が道となったのはまったき偶然によるといわんばかりである。その入口部分には、市内を闊歩するバイク・タクシーの整備・修理工場群がびっしりと軒を連ねている。工場とはいっても、即席で立てた小屋に、車両修理のための器具や装置が並べられているだけだが、そこでは数百台のバイク・タクシーが整備を待っており、多くの労働者たちが車両整備に明け暮れている。
 バイク・タクシー整備工場群が終わると、日用雑貨の市場があり、その奥が居住区となっている。建物の多くは泥レンガで壁を作り、トタンなどで屋根を覆ったもので、これらの建物が迷路のように入り組んで建っている。もちろん、下水道はなく、下水は通行路のまん中を流れている。
 居住区の中には、学校(トタン屋根だけの簡易な建物である)、複数のキリスト教会やイスラーム教のモスク、食堂やバーなどがある。ただし、食堂やバーはその奥に売春施設を持っており、セックスワーカーの女性たちが寝起きしている。
 マブシ地区はアブジャ市街地、とくにエリートの居住するマイタマ地区・ワセ地区に近いため、この地域にセックスワークを供給する拠点となっているようである。買春を行う男性たちは、必ずしもマブシ地区の住人だけというわけではなく、むしろ、市街地から、男性が買春のためにこの地域にやってきたり、あるいは、マイタマ地区の繁華街や高級ホテルに女性たちが繰り出して売春を行うといったケースの方が多いようである。マブシ地区にも、イスラーム法(シャリーア)を施行した北部諸州から逃れてきたセックスワーカーたちが多く流入しているとのことである。
(2)ワークショップの概要
 ワークショップは、マブシ地区にあるバー「フリーメンズ・エンターテイメント・バー」の奥の部屋で行われた。参加者は15名(女性13名、男性2名)、スタッフが4名(女性2名、男性2名)であった。
 マブシ地区には多くの売春施設がある。今回のワークショップは、これらの売春施設にいるセックスワーカーのうち、それぞれの施設で世話人的役割を務めているセックスワーカーが参加するものである。
 前章において、ナイジェリアでは性について語る文化・習慣がなく、女性たちは性について無防備なまま社会に出ることになる、という「女性の健康・教育・開発」スタッフの話を紹介した。無防備なままセックスワーカーとなった新入女性たちに対して、年長者たちは指導的な立場にたつ。そのとき、年長者たちがどのような立場から新入者たちにアドバイスできるかは重要である。年長者たちが性的権利やエイズの問題について自覚的であれば、彼女らはそのような立場から新入女性たちを啓発していくことができる。一定の研修を受けたセックスワーカーたちは、「女性の健康・教育・開発」から「エデュケイター(教育者)」としての資格を得、IDカードが渡される。「女性の健康・教育・開発」のワークショップにより、マブシ地区でこれまで80人のセックスワーカーが「エデュケイター」としての資格を得ている。
 ワークショップの話題作りのために、会場の壁一面にHIV/AIDSや性感染症に関するメッセージを書いた模造紙が貼られる。ワークショップは英語ベースで行われ、まず最初に黙想を行ったあと、参加者全員で簡単な自己紹介を行う。その後、1人の男性スタッフがファシリテーターとなり、エイズやセックス、健康の問題について参加者と掛け合いながら必要な情報とメッセージを伝えていく。ファシリテーターはきわめてよく訓練されており、独特のライブ感覚を生み出しながら、参加者を退屈させずにメッセージを伝えていく。ファシリテーターはそれぞれのトピックに合わせて参加者に質問をしたり、意見を出してもらう。発言した参加者には全員でリズムを取って拍手し、誰もが発言できる肯定的な雰囲気を作り出す。また、一体感を高めるためにゲーム的なことも行われる。ワークショップは午前11時に開始され、およそ3時間程度続く。
(3)今回のワークショップのテーマ
 今回のワークショップでは、以下のような内容がテーマとしてとりあげられた。
a)エイズについて
・HIV/AIDSとは何か。それぞれの正式な名前と、それが免疫を破壊し、最終的に人間を死に追いやるメカニズムはどうなっているか。
・HIV/AIDSを防ぐにはどうするか。
・コンドームの正しい使い方はどんなものか。コンドームのはめ方、取り外し方、捨て方の練習。また、コンドームの購入方法や値段(無料配布は行われていない)、使う前に製造年月日や損傷の有無をチェックすること、再利用してはいけないこと、子どもが遊んだりしないようにその辺に捨てないこと、など。
b)セックスについて
・セックスについて率直に語ろうという試み。セックスについて、自分にとってよいことと悪いこと・嫌なことをそれぞれ参加者からだしてもらい、その上で、悪いこと・嫌なことをどうやって避けるかという話につなげていく。
・参加者からは、セックスをする上でよいこととして、「子どもを生むことが出来る/満足を得ることが出来る/人間関係を深めることが出来る/楽しい/仕事としてお金を得ることが出来る/相手との婚姻関係を維持することができる」などの点が挙げられた。一方、悪いこと・嫌なこととして、「望まない妊娠/妊娠中絶/性感染症・HIVに感染すること/感情的に混乱してしまうこと/痛いこと/短い時間に何人もの人とセックスしなければならないこと/結婚生活が破壊される場合があること」などが挙げられた。その上で、解決策として参加者から出たのは、コンドームを使うこと、セックス・パートナーの数を減らすこと、などであった。
c)エデュケイターとして必要な素養
・よいエデュケイターであるためには、まず「すべての人が特別だ」(everyone is special)ということを理解しなければならない、という前提を確認した上で、参加者に「よいエデュケイターである条件」を出してもらう。条件として出てきたのは、「自分の責任について自覚的である/秘密を守る/精神的・肉体的に健康である/社交的である/うそをつかない/教師であると同時に人から学ぶことが出来る/相手を前にして一方的にしゃべらない/相手に対して配慮する/ボディ・ランゲージを理解する/相手を一方的に決めつけない」など。これについては、スタッフの女性や年長者が実際に「悪い例」を演技してみるなどのパフォーマンスもあった。
d)性感染症について
・性感染症として知っている病名を参加者に挙げてもらうとともに、「性感染症にかかっているとHIVにも感染しやすい」ということをファシリテーターが参加者に分かりやすく説明した。
e)体調が悪くなったらどうするか
・体調が悪くなっても病院に行かないで、流通している抗生物質を飲んで放っておくという傾向があることについて、抗生物質が体にもたらす副作用や悪影響、また、抗生物質に依存していると免疫力が低下することなどを分かりやすく説明し、体調が悪くなったら医師に受診することを勧めた。
(4)ワークショップに対する評価
 ワークショップは、技量の高いファシリテーターに導かれ、参加者がファシリテーターに応答する形で双方向的に進められるタイプのものである。
 ワークショップの役割は、エイズやSTDなどについて正確な情報を伝えることにとどまらない。参加者たちがワークショップから帰って売春施設において担うエデュケイターとしての役割を確認したり、セックスについて積極的に話すことで、セックスを無視したり否定的に見る伝統的な文化を克服することも主要なテーマとなっており、単に「知識の啓発」ではなく、個人、さらには社会文化的な意味での「行動変容」を促すものとなっている。
 このワークショップの水準の高さは、第一義的には、ファシリテーターによる雰囲気作りやプレゼンテーション能力の高さによるものである。しかし、参加者の側も積極的に意見を出すなどして、肯定的な雰囲気を作り出しており、情報を伝える側とそれを受け取る側の相互作用がうまく機能する形となっていた。こうした極めて高い水準のアウトプットを実現している地域NGO/CBOが存在することは、HIV/AIDSが深刻化するナイジェリアにあって、一つの希望であるということができよう。

第四 総括

1.ナイジェリアのHIV/AIDS対策の死命を制するNGO/CBOセクター
 ナイジェリアのHIV/AIDS政策に係わる諸セクターの中で、NGO/CBOの占める位置は極めて高い。ナイジェリアの中央・地方の政府機関が保健・医療分野において弱体であり、援助国・援助機関も、複雑かつ多様な社会構造に直接対応することができない以上、エイズに影響を受けるコミュニティに対する社会資源のアウトプットは、コミュニティに根ざした地域NGO/CBOが担わざるを得ず、また、援助国・援助機関や政府機関と地域NGO/CBOを有機的に統合し、資源を供給する動脈の役割は国際NGOが担わなければならない。こうした意味でNGO/CBOの成長の如何はナイジェリアのHIV/AIDS政策の死命を制するといっても過言ではない。
 幸いなことに、ナイジェリアではHIV/AIDSに係わる地域NGO/CBOの発展が著しく、これらを束ねる全国組織「ナイジェリアHIV/AIDS市民社会諮問グループ」(CiSCGHAN)には約200もの地域NGO/CBOが加盟している。もちろんこれらの組織は玉石混淆ではあろうが、上記第三でみた「女性の健康・教育・開発」のように、地域コミュニティに対して極めて質の高い貢献をしている組織も多く存在しているものと思われる。また、これらの組織を全土にまたがって束ね、国際社会とつなぐ役割を果たす国際NGOも、優秀な人材を得て幅広く活動していることが推察される。こうした意味では、ナイジェリアのHIV/AIDSに関する開発援助は、一般的にいえば、提携先となる国際NGOと信頼関係を築いた上で、アウトプットとなる地域NGO/CBOの活動の質・量を見極めてサイトを選定して行うことにより、適切な効果をもたらすことができるものと思われる。

2.NGO/CBO支援のサイト選定に向けて検討すべきポイント
 一方、日本がこれらの開発援助に参加する場合には、開発援助が適正な効果をもたらすかどうかに加え、ナイジェリア現地の治安情勢や連絡体制など、日本側として考慮しなければならない事情も存在する。国際NGOへの取材内容に鑑みれば、ナイジェリアにおいてHIV/AIDSに関する地域NGO/CBOの活動が最も積極的に行われているのは、ナイジェリア最大の都市ラゴスと、ナイジェリア深南部のナイジャー・デルタ地帯(リヴァーズ州、アクワ・イボム州)であろうと思われるが、これらはいずれも治安上の問題が存在しており、日本として直接援助を実施するのはなかなか困難であろうと思われる。
 一方、ナイジェリアで最大のHIV/AIDSのホットスポットは、首都アブジャのある連邦首都領域に隣接するカドゥナ州南部、ナサラワ Nassarawa 州およびその南のベヌエ州にある。これらの地域はいずれもアブジャと関連が深く、アブジャ自体のHIV感染率も他地域に比べかなり高くなってきている。こうした意味では、アブジャ連邦首都領域およびカドゥナ州南部周辺を主要な援助対象サイトとするのは、首都に近接しているという意味で、治安情勢はともかく連絡体制としては有利なのではないかと思われる。この地域での地域NGO/CBOについては、国際NGOとしては、パスファインダー・インターナショナル・ナイジェリアが把握しているものと思われる。

3.保健医療分野における公共セクターの機能強化も不可欠
 ナイジェリアのHIV/AIDS政策を考える上で、もう一つ検討すべき重要な要素が存在する。それは、NGO/CBOの活動には、それ自体がもつ限界が存在するということである。
 地域におけるHIV/AIDSの予防啓発やコミュニティにおける行動変容の実現、患者・感染者のピア・サポートや権利の確立、女性の性的権利の概念の普及、エイズ孤児およびそれを支える家族のサポートといったことについては、NGO/CBOは最大の役割を発揮する。しかし、ナイジェリア全土における統一的なサーベイランス体制の確立、患者・感染者に対する薬剤供給を含む医療の提供などについて、NGO/CBOがその全体を担うことは不可能である。これらの問題については、NGO/CBOは地域における個別の展開および政府の政策決定に対するアドボカシーを担うことはできるが、これらのトータルなコーディネイトは、本来、政府機関でなければ行い得ない任務である。
 現状でナイジェリアの政府機関は、能力ある人材の欠如や腐敗、インフラ整備の不良、政府各級セクターの意志一致の欠如といった問題があり、これらをトータルに担う能力が不足している。政府の保健医療分野における機能の強化は極めて重要な課題である。援助国・援助機関は、国際NGOや地域NGO/CBOの政府へのアドボカシー活動と連携して、ナイジェリアのHIV/AIDS政策における政府の政策の充実を図ると同時に、サーベイランス体制および医療の提供にかかわる公共機関の人材育成、医療・保健インフラの整備、薬剤供給の援助などについて、ナイジェリア政府の機能強化に向けた援助を行う必要がある。ナイジェリアの政府機関は複雑怪奇であり、一筋縄でいくことはないであろうが、この点に関してもアクションエイド・ナイジェリアやCiSCGHANなど、国際・地域NGO/CBOのアドボカシー活動と連携しながら実施することで、一定の前進をかち取ることは可能であると思われる。
 日本は戦後、保健所や医療機関を全土にわたって普及し、公衆衛生の改善を達成した実績がある。こうした経験をナイジェリアに伝え、ナイジェリアの保健医療分野における公共セクターの機能強化をはかっていくことは、欧米と違う、日本の「顔の見える援助」のあり方として有効ではないだろうか。
 こうした観点に鑑みれば、日本はナイジェリアのHIV/AIDSに関する開発援助を効果的に、かつ「日本の顔が見える」形で実現するためには、すでに欧米の資金により具体的に機能しているNGO/CBOなど民間セクターの活動支援に特化するのでなく、現状で弱体な公共セクターの機能強化という視点をも持つ必要がある。日本は、これらの二つを車の両輪として、ナイジェリアのHIV/AIDSの状況が具体的に改善され、かつ日本の「顔」が見えるような援助戦略を検討しながら、個々の援助プログラムを実現していくことが必要である。

以上

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