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「プロサバンナ」を概観する



◇はじめに

 2015年7月、モザンビークの農民代表がプロサバンナ事業への反対の声を届けるため緊急来日しました。このことはテレビでも取り上げられ、プロサバンナ事業の進め方について考え始める人も増えているようです。

 私はプロサバンナ事業についての講演を聞いて、この問題に興味を持ちました。というのも、開発援助の授業を通して、援助事業は裨益者(affected people)のために行われるべきものである、と考えていたからです。したがって、プロサバンナ事業も農民たちが望む形で行われるべきであると考えていたのです。だからこそ、裨益者である農民たちの声を聞かず、一方的に上からの事業を推し進めるこの事業に対し強い抵抗感を感じました。

同事業について調べてみるうちに、事業に賛成する人々も存在することを知り、事業を計画し進めている人々・機関の主張と事業を批判し反対する人々の考えとのあいだの違いに驚きを隠せませんでした。そこで、下記年表にて事業の流れをまとめ、双方の見解を整理してみました。



日付 事業・声明等 事業担当・発言元 概略 参考資料
2009年9月 プロサバンナ計画合意 日本・ブラジル・モザンビーク政府 ブラジルセラード開発をモデルに、モザンビークで大規模農業開発とアグリビジネスの推進を行うことを3か国間で合意。モザンビーク北部ナカラ回廊沿い地域にブラジルから技術を移転し、農業投資を導入することで、同地域を「世界の食料庫」へ転換することを目的としていた。 JICAホームページ
トピックス 日本とブラジルがモザンビークで農業開発協力
日伯モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム準備調査最終報告書
2011年〜 ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクト 三者合同 「適正な作物・品種、栽培技術の開発を行うとともに、研究開発体制を整備」することを目的とし、主に日本へ輸出するための大豆生産技術に焦点を当てている。しかし同地域では、大豆生産を目的とした土地収奪が起きており、農民らの生活に多大な影響を及ぼしている。 JICAホームページ
プロジェクト概要
NGO側資料
プロサバンナ事業考察 概要と変遷、そしてNGOからの提言
2012年4月 プロサバンナ推進のための3カ国官民合同ミッション 日本企業8 社、 伯アグリビジネス関係17 名 日本とブラジルの民間企業によるナカラ回廊への農業投資を促進することを目的として、日伯民間関係者を対象としたセミナー等を開催。 JICAホームページ
日本、ブラジル、モザンビークで官民合同ミッション-ナカラ回廊への農業投資促進を目指す。
2012年2月〜 農業開発マスタープラン策定計画開始 日本政府 「ナカラ回廊地域の農業開発潜在性が高い地域においてより早く開発のインパクトを発揮できる事業を提案し、一方で、農業開発の推進によって起こり得る農地収奪等に対応した、現地にも裨益する開発協力のモデルを提唱することを目的とする。」(JICA資料より) JICAホームページ
プロジェクト概要
2012年9月 PDIF(プロサバンナ開発イニシアティブファンド・現DIF)の創設 モザンビーク農業省・ JICA・GAPI(モザンビーク半官半民の金融機関)   プロサバンナ事業のパイロット計画として行われ、事業対象地域における大農園に向けた融資を行う。小農は選考基準に満たないためこれら融資の対象となることが難しいのが現状である。また、融資先の募集や選定過程が不透明との批判もある。PDIFがプロサバンナ事業の一環であるとの情報開示なきままにすすめられ、「プロサバンナ事業の既成事実化」のために導入されたのではとの見解もある。 第8回ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会 議事要旨
JICA配布資料
NGOの質問状への回答(JICA)
NGO側資料
ProSAVANA市民社会報告2013 現地調査に基づく提言【資料集】(最終版)
2012年10月 「プロサバンナ事業に関する声明」 UNAC(全国農民連合)   プロサバンナ関連の諸計画が市民社会組織や農民組織を排除した状態で進行していることに疑問を呈し、事業の不透明性や、情報不足を非難。大型農業開発がもたらす生活、環境への懸念を表明し、一方で、社会的、環境的にも持続可能な「食料主権に基づく アグロエコロジー的生産モデル」を提案。 「プロサバンナ事業に関する声明」(英語版)
「プロサバンナ事業に関する声明」(日本語版)
小括 2009年の合意当初から日本政府は、モザンビーク北部には、ほぼ手つかずの広大な余った農業適地が存在しているという主張をしており、ブラジルのセラード開発で得た知見を活かしてモザンビークで大規模農業開発とアグリビジネスを推進することとされていた。しかし、2012年10月に現地農民組織、市民社会から抗議声明が出された後、日本政府の発言は「小規模農家支援」を意識したものが目立つようになる。「広大な余った農業適地が存在している」という主張も、「将来の土地は足りず地元小農の移動農耕が原因」との主張に変わった。
2012年11月〜 「ステークホルダー会議」やDistrict Meetingなど、農民らとの対話プロセス開始 モザンビーク政府・JICA主導 農民らの批判の声を受け日本政府の発言は、「大規模農業開発」から「小規模農家支援」を意識したものに変化し、農民らとの対話のプロセスも開始された。しかし'対話'とはいうものの、政府側からの一方的なものであり、透明性や説明責任を欠くものであったため、「農民参加の既成事実化」であるとの批判もある。 NGO側資料
ProSAVANAにおける農民・市民社会組織の参加・コンスルテーションの推移
NGO側資料
ProSAVANA事業で長引き、悪化してきた諸問題に関するNGOの見解と資料一覧 
2013年5月 「プロサバンナ事業の緊急停止と再考を求める公開書簡」の提出 UNAC他、全23団体 これまでの懸念点が繰り返された上で、事業の「即時停止」が求められた。対話のためのメカニズムの確立と、小農支援を中心に据えた農業政策を引き続き要求している。 「プロサバンナ事業の緊急停止と再考を求める公開書簡」(日本語版)
2013年9月 マスタープラン「コンセプトノート」の発表 日本政府 小農に土地登記をさせることで耕地の使用権の範囲を確定し、それ以外の未使用地への農業投資を促進することや、民間企業との契約栽培等が、生計向上に不可欠であると結論づけているが、主張の根拠となる情報は提供されず、事業・政府に対する不信感は増大している。 コンセプトノート(英語版)
NGO側資料
プロサバンナ事業考察 概要と変遷、そしてNGOからの提言
2014年3月〜 ナカラ回廊農業開発におけるコミュニティレベル開発モデル策定プロジェクト 三者合同 「ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクトにおいて提唱された新しい農業技術を活用した村落レベルの農業開発モデルを構築・普及すること」を目的としている。(JICA資料より) JICA資料
PEM案件概要表(日本語版)
NGO側資料
プロサバンナ事業考察 概要と変遷、そしてNGOからの提言
2014年6月 「プロサバンナにノー!全国キャンペーン」 UNAC他、全9団体 交換書簡への回答がないまま事業が継続されている状況を受け、「プロサバンナにノー!」キャンペーンが開始される。政府による情報操作や反対派に対する脅迫・犯罪的行為の企みを非難している。 「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」(日本語版)
「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」(英語版)
「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」(原文)
2015年4月 マスタープランの発表 モザンビーク政府・日本政府  地元小農の伝統的な農業形態が生産性の低さの原因であるとし、生産性向上には、小農らの土地登記、定着農業へ転換、農薬や化学肥料の大量投入、民間企業との契約栽培の実施が不可欠であると結論付けている。ドラフト作成前に予定されていた協議が行われないまま発表されたことに対し批判の声が挙がっている。 マスタープラン(日本語訳)
2015年6月 3カ国市民社会 緊急共同声明「プロサバンナ事業のマスタープランに関する公聴会」の無効化呼びかけ UNAC(モ)、AJF(日)、 Justica Global (伯)他、 全73団体 一般に向けた公聴会であるにもかかわらず、モ政府与党関係者が参加者の多数を占める、反対派の農民組織、市民社会組織の参加に対する妨害行為、弾圧、脅迫行為の頻発、聴衆に適切な手段で情報が提供されない等多くの問題点が指摘されている。公聴会参加者の人権の保護と回復、3州で行われた全ての公聴会の無効化を要求している。 「プロサバンナ事業のマスタープランに関する公聴会」の無効化呼びかけ(日本語訳)
「プロサバンナ事業のマスタープランに関する公聴会」の無効化呼びかけ(原文)


(注)
*ブラジルセラード開発:
 ブラジルに「緑の革命」をもたらしたといわれる、日伯農業開発協力事業。農業には適さないとされていた広大な熱帯サバンナ地域が、世界有数の農業地帯に変貌を遂げた。日本のODAの成功例と謳われている。
ブラジルの不毛の大地「セラード」開発の奇跡[JICA HP]

* 北部ナカラ回廊沿い地域
 ナンプーラ州、ニアサ州、ザンベジア州にまたがり、森林・水・石炭・天然ガス等の天然資源に富んでおり、民間セクターから人気が高い。ナカラ港と内陸の都市を結ぶインフラ整備事業も行われている。
Corridor Development and Foreign Investment in Agriculture: Implications of the ProSAVANA Programme in Northern Mozambique


出典:外務省HP

* アグロエコロジー
「化石燃料に依存する工業化された農業に代わる食料生産と環境の未来を保障する」農業の在り方として、現在世界各地で取組が始まっている。「農薬を使わない農法などにとどまらず、生態系を守る農業の在り方や社会の在り方」なども含まれる。
(株)ATJ HP 

* プロサバンナにおける契約栽培
「ナカラ回廊をゾーンに区分けし、それぞれのゾーン内で栽培する作物、栽培手法、栽培者(小農、中農、企業)を定めている。ゾーン区分に基づき、商品作物栽培プロジェクトがいくつか示され、ある区分には大規模企業農業のみが定められており、残りは、大農・中農の混合や、小農による契約栽培方式などである。」
現地・国際市民社会声明(2013年4月29日) 




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ここが気になる




■プロサバンナ事業は何を主眼としているのか
〜政府の主張は、2009年合意当初とは変わっているようだが・・・〜

事業推進側の主張 事業への疑問
・2009年9月
 大規模農業開発とアグリビジネスの推進目的

 モザンビーク北部に広がる手つかずの広大な未耕作地を、土壌改良や品種改良の技術を生かしてアフリカ最大の農業地帯にする。民間投資を促進し輸出用作物を生産することで、ブラジルセラードに次ぐ「世界の食料庫」を目指す。
・実際には、事業対象地域には約400万もの農民が暮らしており、大規模農業開発により多大な影響を受ける。現代的な農業への転換政策は、これら農民の伝統的な農業の特性を無視して行われ、導入される諸制度(土地登記制度や契約栽培)により、裨益者であるはずの農民の権利が侵害される。
・2013年1月
 地域の小農の貧困削減と食料安全保障への貢献

 現代的な農業手法を採用することで、国内用・輸出用作物の生産を拡大し、ナカラ回廊に居住する低生産低収入の地元農民の生活向上に貢献する。
・日本政府・JICAは「小規模農民支援」とは主張しているが、当初の「大規模農業開発」という方向性が未だ残っており、最大の受益者は企業であるとの疑念を拭えない。小農によりそった形での開発を行うべき。


■事業の不透明性・合意形成プロセス
〜事業について説明し、合意を形成するための場はつくられてきたか〜

外務省・JICAの見解及び回答 農民団体による現状報告・追及
・NGOの追及に対して 「議論しながら作成をすすめている」、「この場ではわからない」、主体はあくまでモザンビーク政府であるので、「公開できる立場にない」、「情報収集の結果はモザンビーク政府農業省に所属するものであり、その公開は同省の判断に基づく」、との回答が散見される。 ・政府、実施機関から事業についての情報公開が十分ではなく、また事業について質問をしても明確な回答が得られない。
・農民との「対話」は順調に進んでいる。説明会には各農民団体に参加を促し、実際に多くの農民組織が出席している。故意に一部団体を除外するような対応はとっていないし、今後も「丁寧な対話」を行っていく。



 →外務省ウェブサイト:ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会
・公聴会を通して「対話」が進むとの説明だが、実際は、参加のための事前登録が必要で、登録のない参加希望者が参加を拒否されたり、通達された開催日・時間・場所が予告なく変更されるなどの参加妨害が行われている。  また、公聴会において小規模農家の参加は制限され、参加者の大半をモザンビーク政府与党関係者が占めていた。事業に反対の発言をした者は、地元行政府によるいやがらせをうけたり脅迫をうけるなどの人権侵害も起こっている。  そもそも事前に提供されたマスタープランは技術的な文書で、一般聴衆が短期間で把握するには不可能であったといえる
2015年7/8(水)UNAC農民代表による報告@明治学院大学



◇おわりに

 事業計画やそのための手続き・取組等と、これに対する疑問や情報開示要求を通して明らかになったことを整理すると、事業を計画し推進している人々・機関による情報公開が不十分であること、計画の文言と実態が必ずしも対応しているとは限らないことがわかります。
 しかし、皆が納得いくような事業に向けて合意を形成するためには必要な情報が共有されることが不可欠です。私たちは今後も情報公開が行われていくか、情報が共有された場で議論が行われ得るか、といった点にも注目していく必要がありそうです。

 モザンビークの農民代表はこう訴えています。
「政府が提示したマスタープランに出てくるのは小規模農民ではなく、モザンビーク政府、JICAの姿だ。地元農民が実際に策定プロセスに参加する形で、全く新しいマスタープランをもう1度作り直してほしい」と。 「我々モザンビーク農民自身が新しい事業をどのようにするか話し合い事業を実施する、そのようなときに日本に支援をお願いしたい」と。(2015年7月8日/UNAC政策提言・国際連携担当、ヴィセンテ・アドリアーノさん「土地を生かし、農業に生きる〜UNAC(全国農民連合)の取組」@明治学院大学)
 彼らの農業をリスペクトし、サポートするような支援を行ってほしいという訴えを、私たち日本人は重く受け止めるべきではないかと思います。

 冒頭でも述べましたが、私は、開発援助事業とは裨益者のために行われるべきものであると考えています。したがって、裨益者である地元農民たちからこれほどまでに多くの反発の声があがっているプロサバンナ事業は、やはり一度原点に立ち返って見直されるべきではないかと、そう考えるのです。




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up 2015.08.28