西アフリカ地域経済発展の可能性についての研究

ー農産物加工・製造業による農村経済向上の意義と方法論ー

2007年度 食料安全保障研究会公開セミナー 報告

日時:2007年5月18日(金)18:00-20:30
講師:清野和美さん(早稲田大学大学院公共経営研究科修了)

会場:丸幸ビル2F・オックスファム会議室(AJF事務局隣のスペースです)

5月18日、食料安全保障研究会公開セミナーを開催し、講師・スタッフを含め22人が参加しました。

講師の清野さんは、企業勤務、大手国際協力NGO勤務を経て、JICAの専門家としてセネガルで活動した経験をもとに、早稲田大学大学院で修士論文を執筆されました。セミナーでは、執筆した修士論文をもとに、セネガルのマンゴー街道に並ぶマンゴーを無駄なく活用し、現金収入に結びつけていくための食品加工の重要性を提起してくれました。

以下、講演内容と質疑に関するメモです。文責は、研究会事務局にあります。

報告と提起

出発点

    • 農業が生み出しているものを活かして、セネガルの経済活動全体を発展させたいと考えた。
    • 輸出高上位を占める鉱物資源輸出は、西アフリカに多い農業従事者の所得向上につながらず、社会全体の貧困削減に結びつかない。
    • 第3次産業での経済発展も、農業従事者の所得向上には結びつかない。
    • 2002~2003年を境に、アフリカの特定の国の農産物などを扱った事例研究から、サブサハラ経済というくくりで大きくアフリカ経済全体を捉えるアフリカ研究が増えてきたように感じる。個別事例研究では研究成果の汎用性や、研究における主観などの問題が生じる。アフリカ全域を対象に大きくとらえ議論の余地を広げることで客観性を確保しようとしたのだと思う。すると、その中間に位置する地域や経済圏を対象とする研究が少ないと感じた。西アフリカには、経済同盟、通貨同盟などができており、経済を語る上では地域ブロックを考慮しなくてはならない。それで、西アフリカ経済をかたまりとして捉えるに至った。
    • 農村で農業を柱とする経済活動(農村経済)が重要なポイントである。経済開発というとマクロの視点となるが、マクロとミクロの中間にたってそれらをリンクするものが必要。ODAのプロジェクトでも、マイクロプロジェクトはあくまで女性の地位向上プロジェクトに付随する一部でしかなかった。農村の経済開発に真っ向から取り組むプロジェクトを増やしたいと考える。
    • マイクロプロジェクトや、染色など小規模商売を農村で行うプロジェクトは多々見られるが、販路が限られているため、2回目以降につながる需要が見いだせないでいる。識字率やマネージメント力に関しては訓練により延びる余地があるが、販路に関しては直ぐに解決することができない。先進国への輸出を視野に入れてプロジェクトを行い、時間はかかっても先進国の市場に出せる品質やマネージメント力を鍛えるべきではないかと思う。
    • いかなるプロジェクトでも、ローカルコンサルタントやローカルNGOを活用しなければならない。しかしながらローカルNGOで完成されているものはないであろう。得手・不得手の差が激しい。その場所に根付いて活動していくローカルNGOを育てるため、不得意分野にも挑戦させるつもりでパートナー関係を構築していく必要がある。そうすると、短期プロジェクトで終わったとしても、他ドナーとのパートナーシップをそのNGOが組むとき、経験を活かすことができる。
    • 地方行政の人材は非常に層が薄い。有能な人の数が極端に少ないため、その人が塞がっているとほかの人では対応できなくなる。このため人材育成が必要。

西アフリカにおける農業と農業政策

    • 欧州における第二次産業革命において、機械油としてパーム油などが必要になり、この時代に一次産品輸出工業が定着した。
    • 敵国に物資が流れないように、マーケティングボードが生成された。
    • アフリカ社会主義の3つの政策のうち、経済規制で許認可制度を作ったため、インフォーマルセクターが発展した。また役人との癒着が行われるようになった。輸入代替工業化政策時にも、国内産業を保護したため製造業が伸びなかった。
    • ガーナのマーケティングボードが2000年まで続いており、構造調整直後にこれは廃止されていなかったと考えられる。
    • 現在でも国によっては国家予算のうち農業支出が1%未満のところもある。
    • 土地が私有ではなく、利用権しか持っていないため、貸付が行われず農村の金融システムが発達しない。農業労働者が多数いれば、土地生産性の高いところにそれを移転させれば生産が上がるが、土地生産性の高いところにも低いところにも平等に労働者がいるため、生産性が上がらない。
    • 市場経済メカニズムで経済発展を考えると、自給自足農業がそれには組み込まれていないため、市場経済が発展しないのは当然のことである。

豊穣な季節の野菜、果物を活かす取り組みを

    • 副業収入確保可能性の例として挙げられるものが、セネガルのマンゴー街道。季節ごとの果物一色になる街道。ガンビアの常設市場で、野菜がとても立派なものが想像以上に多かった。これを何とかできないのかと考えた。
    • マンゴーを容器なしで、40度の気温で古いトラックに乗せて運び、フェリーがないため5日待たされることになると、半分以上が腐ってしまう。マンゴーを大消費地に持っていかず、農村で加工して売ればよいのではないか。
    • トロピカルフルーツ系のデザートで使用するため、欧州でもマンゴー・ピューレの需要がある。
    • マンゴー・ヴィネガーは最近作られている。去年から作られているセネガルでは、これまで見られたマンゴーが落ちている光景が見られなくなると華々しく新聞記事となっていた。
    • 販路は先進国(米、EU)。米、EUは特恵措置が行われているため、販路としてよいのではないか。AGOA(米アフリカ成長機会法)で西アフリカは研究されておらず、生かされていないが、東ではケニヤなどがこれを活用して衣料品を売り出している。最初AGOAは石油ばかりを輸入していたのではないかと批判されたが、最近では上記ケニアの例のように衣料品なども売られている。また西アフリカは経済連携協定(仏・APE、英EPA)の利用に関しても、規定などの面で東よりも遅れている。また、EU市場では経済の枠組み以外では厳しく、輸出の際に製造者の健康などの記録も要求されるため、ハードルが高いといえる。
    • ITA(省庁の下にくっついている公社)ら3社のパートナーシップにより工房が建てられた。農産品フェアをダカールなどで行うときに出品されていたのが見受けられた。将来は国際的市場へ売り出すことを目標としている。
    • ブルキナの事例はフェアトレードである。マンゴー・ヴィネガーなどを作っている。6つのNGOが分担し、技術指導、マーケティング、財政マネージメントなどを訓練する。
    • マンゴー・ワインまでを現地で生産し、スイスでヴィネガーにする。将来的にはヴィネガーまで現地で製造したい。
    • JICAが支援して取り組まれた一村一品運動のガーナのシア・バターの例では、アクターごとのつなぎの部分が非常に難しいところである。青年海外協力隊員の行ったことが帰国後に放置されていたが、最近は協力隊が事業プログラムに含まれて、生かされるように変化してきたのではないか。
    • 「成長の極」理論に基づき、ナイジェリアを除くと小国ばかりの西アフリカでは、地域の中にひとつの極を形成し、原料を極に集め、加工行路にのせて先進国に輸出する流れが作り出せないだろうか。日本でのNEPAD支援では、複数国に裨益する工業案件を作成できないだろうか。このように複数国と協議することは大変であるが、通常案件形成をする場合に要望調査を行うなどするが、長期的な目で見ていくことが必要となる。
    • マンゴーで極を形成するとなると、セネガルの南のカザマンス地方やマリ、ギニアなどで良いマンゴーが生産される。そこから大消費地に生で持っていくことではなく、近くに極を作り、原料をそこまで運んで加工して、先進国へ輸出する構造が見える。しかし、いきなりマンゴー製造センター(インフラ)を建設するのではなく、事前に人材育成を行ったうえで整ったインフラに乗せていくことが望ましいのではないか。

質疑応答

Q:緑の革命がアフリカでは難しく、アジアとは違う状態にあるため、「レインボー・レボリューション(イノヴェーション)」など新しいものを作り出す必要があるのでは。マンゴーや他の多種製品を作ろう。RIは日本が何ができるのか、アジアは何が出来るのかがポイントとなる。アジア開発銀行は現在農業からワンステップあがっている。アフリカ開発銀行はアジアのそれより2年先に出来たにもかかわらず、アフリカ人ばかり集めて先進国を寄せ付けない体制をとっていたため、緑の革命など実現できなかった。アフリカ開発銀行の主体性が無理であると思える。よって、他国がアフリカとの連携を考える必要があるのでは。

A:アフリカはひとつの問題だけで行うことが無理である。アジアの緑の革命は、米消費量が非常に高かったためであるが、アフリカの主食だけでも5つ8つ程ある。アフリカ全体でみると主食は穀物だけでなく芋類も非常に重要である。また、近年は非伝統的輸出農産物が出てきた。これは伝統的なものが価格が下がったため、他のもので外貨を稼ごうと考えた。だがこの非伝統的農産物の加工に問題がある。国内で加工まで至っていない。(国内資本の欠如に問題がある)マンゴーなど加工し易いものなら成功しやすいのではないだろうか。

Q:(1)国内市場が飛んでいる印象を受けた。直接国際市場をターゲットとして進めていくのであれば、先に国内でマーケティング能力、加工などを高めてから国際市場へ行くべきなのではないか。先進国側の企業が彼らの工場を西アフリカに作ってしまうのではないか?
(2)JICAの支援でミクロレベルでの農村開発、女性の地位向上などがひとまとまりになっているとの指摘があったが、JICAは現在マクロでも行っており、中間が確かに飛んでいる。しかし、この指摘と一村一品運動とのつながり。

A:地方行政レベルでの研修やマネージメント技術などをJICAの技術協力で行っていることをイメージし、ここを強化しなければ草の根と国家レベルの計画が実現されないのだろうかと考えた。JICAの技術協力のなかでここが出来ないのか。ラッピングやボトルなどのブランドイメージが消費者には重要である。製品そのものの技術向上だけだは売り物の価値が半減してしまうのではないか。
(1)国内の購買力を考えた場合に、製造しても買う人が限られているためいきなり輸出を考えた。現地人はマンゴーを多大に消費している。我々は加工品を食しているが、現地人は生での方を好んで食べるだろうが、安い生マンゴーを選択するだろう。

Q:西アフリカで調査をやった。農業をやっているのに貧乏な生活をしていた。ナイジェリアは土地が良いため、肥料を入れなくても雨が降るし、農業に関わる天候がとてもよいため何でも作ることができる。しかし、できあがったものがコミュニティー内の消費で終わってしまう。できてからビジネスに繋がることが、西アフリカにない。物を作り、どのように現金化するかのエンジンがない。外部からの情報がないため。TVを見ているが、映像を見るが、教育が低いためどのように自分で作成したものをビジネスにつなげるか分からず。2つ目にマーケティングに関してローカルでしか売れないとなると、農民に対してとても損となる。どの国でもForeign Currencyが大事である。アフリカではお金が回らない。外に繋がることが大事。3つ目にファイナンスに関して、作物を作ったとしてもどのように保存するか、技術があったとしてもお金がないため出来ない。上から見ると日本政府はアフリカにサポートをしているが、お金だけではなく、渡したお金がどのように草の根まで利用されているかを調査していただきたい。ナイジェリアでは世界で第3位の汚職大国である。力のある国は圧力をかけられないと汚職が行われてしまうのでどうにかしていただきたい。

Q:農村金融に関して、長期の融資が土地の問題もあり農村では受けにくいと述べたが、どのくらいまで農村レベルの人が融資を受けにくいのか、金額がどのくらいなのか、まとまったお金が必要な場合に農村の人々はどのようにしてお金を実際借りるのだろうかが分からない。

C:アフリカの東西を見比べた上で清野さんの論文を読んだ。農民の所得を挙げるためには何をすればよいのかと聞きまわった結果、土地所有の問題であった。人口が少ないため、土地の価値が少なくなってしまい、土地が担保力を持たない。土地が登記されているにもかかわらず、記録がないため貸す側が確定することが出来ない。最近土地登記が行われるようになってきたが、まったく進んでいない現状である。またその上に構造調整の結果、農業金融がなくなり、民間がそれを補う事が要求されるが、担保のない状態で農民にお金を貸さない。加工の必要性に関しても、人口が少ないため最寄に市場がないということが考えられる。市場までの距離が長すぎるため、米もマンゴーも3割がだめになってしまう。農業加工を行うためには、工場にコンスタントに電気を流さなければならないし、近くに金融機関がなければならない。更に灌漑の肥料を効果的に行うためには不可欠である。このような農業インフラがどこも低い状態である。Completion pointに達した国は教育と医療だけではなくバランスの取れた支援が必要である。

Q:肥料を自国で生産している国はどこですか。

A:セネガルとか2ヵ国である。

C:肥料を必要としているのは内陸部であるため、やはり運送コストと時間がかかる。

C:ナイジェリアでは今まで軍事政権であったため、工場などがつぶれていた。

C:セネガルの肥料の原料は輸入である。工場はあるが、輸入に頼っている。

C:トーゴに西アフリカ開発銀行があるが、レベルが高いと思われる。日本もかつて貸したことがあるが、一切延滞はなかった。フランス財務省も西アフリカ中央銀行を承認している。この銀行を利用して支援を行っていくことが望ましい。点を面に変えたプロジェクトが必要。

C:自力で品種改良を行った青年は、生で成功している。生でも加工でも農民に選択権の幅があることを知らせてあげる必要があるのでは。セネガルには高等技術学校はあるが、3ヶ月程度でステップアップできる学校が欲しいとセネガルの青年が言っている。たとえばマーケティング技術などを簡単に学べる学校が、地元を短い間離れるだけの距離で欲しい。せっかく集まっている情報を提供できる場所が農家の人々のステップアップにつながるのでは。

C:自給農民という言葉を使用していたが、みんな何らかの副業なり余剰があるはずである。完全に自給農民はほとんどいないと思う。このような余剰をいかにうまく所得に結びつけるか?最近副業に野菜がとても多い。

C:聞いた話で、ローカルNGOがセネガルで空港のそばで野菜を作り、ヨーロッパに輸出している。新鮮なうちに運べる場所にあれば加工にしなくても良い。野菜はアスパラやインゲンなどがとても伸びている。

C:いずれアフリカのどこかの国が、日本がアジアをひっぱったようになってほしい。そうしなければシリコンバレーが作るれない。ナイジェリアは人口が多いため、南アと似ている。南アはアフリカのマーケットをリードしていけるのではないだろうか。

C:先進国へマーケットをと述べる前に、国内では出来ないのかと考えた。ものを中でまわせばよいのではと考えたが、市場を考えた場合、ナイジェリアは最大の市場である。他国はナイジェリアに持っていけば売れるのではないかと考える。しかし、国の政策として農産物に輸入規制がかかっているため難しいとのこと。

C:やはり情報不足が問題である。ナイジェリアは人口が多いため、持ってくれば足りないくらい必要である。ナイジェリアには色々な航空会社が参入してきているが、ようやく政府は外国の会社だけでなく民間でも頑張らなければならないと考える。

C:言葉の定義に関して農村・経済開発→農村経済の構図に反対する。アフリカは経済成長を一生懸命頑張り、ダメなら教育をやる。このように極端にひとつの政策を推し進めるためだめになる。よって、狭義の農村開発と広義の農村開発と分けて考えるべきである。

C:私が意味することが農村経済だと後から気づいたため、言葉を置き換えていった。

C:社会的な厚生はいらないのか?と農村経済という用語は誤解されてしまう。経済厚生と社会厚生は車の両輪であり、どちらがかけてもうまくいかない。

C:農村社会開発はどうですか?

Q:先ほどの短期職業訓練学校は以前からあると思うのだが。

A:セネガルに関しては、民間になったため授業料を払わなくてはならないため人々が利用できなくなった。

C:一部だけ自己負担で、それ以外は政府が支援してくれるという形。

C:何度もこの試みは失敗してきたが、職業訓練は重要であるためコストダウンしていただきたい。

Q:加工業に関して、基本的にどのくらいの量が集まるのかを下調べする必要がある。世界一のキャッサバ生産国でも集まりが悪い。食料だからとのこともあるが、適時にどのくらい集まるかに関しても、販路と同様考えなければならない問題である。トラックを持って集めに行っても集まらない現状がある。

A:大規模な製造センターのレベルになると、やはり原料確保の問題が生じる。その前に工房レベルでレベルアップしていく必要がある。

C:しかし、小さすぎると市場が揃わないのではないか。希少価値でフェアトレードならまだしも、これでは持続的な加工業は難しいのではないか。NGOなどの機関が入って行った事業で5年しかもたないものしかない。

Q:セネガルの土地利用はどうなっているのですか?

A:土地利用法が作られたはずだが。2004年に出来た農業基本法は、期限を設けてコミットメントをした。方法としては私有化を認めるが、農民と小農に関しては認めるなとNGOなどが協力なアドボカシーがあった。

C:農民にとってのインセンティブがある。土地の所有権などがないとお金が借りられず、また契約をしたくてもできずでインセンティブが上がらない。農民の行動に対する影響力が高いため、各国別にどうなっているかを調査する必要がある。

C:フランスでこの試みが始まっている。土地の台帳作りなど。

食料安全保障研究会リンクバナー