南アフリカ:食料価格の高騰が及ぼす影響と対策

South Africa : Actions against rising food prices

『アフリカNOW 』No.81(2008年6月30日発行)掲載

平林 薫
ひらばやし かおる:東京都出身。アフリカ民族会議(ANC)東京事務所に勤務したことがきっかけで南アフリカに関わる。1997年より南アフリカ在住。東海岸のダーバンをベースに、翻訳や日本語指導、コーディネーションの仕事をしている。また、教育支援NGOのアジア・アフリカと共に歩む会(TAAA)の南アフリカ代表として、現地の学校での図書活動の支援や、現在はJICA草の根支援金で学校菜園プロジェクトを行っている。


南アフリカでは今、外国人、特に他のアフリカ諸国から内戦や政治的不安定などによって入国してきた人々に対する暴力がエスカレートしている。ジョハネスバーグ近郊の黒人居住区で勃発した問題は他の地域にも広がり、これまでに死亡者は24人に達した(5月21日現在。その後、死亡者の数はさらに増えている)。メディアでは連日、“xenophobia(外国人嫌い)”による攻撃であると報道し、政府はこのような暴力は直ちにやめるよう呼びかけている。問題が起きた地域の人々は「外国人に職を盗られる」とか「彼らが我々の住む場所を占拠している」といった不満を表している。これらの地域の人々の多くはすでに長期間、様々な社会的・経済的な問題に直面しており、その苦しみやいらだちが怒りとなり、自分たちより弱い立場の人々に対してぶつける形になってしまっているようだ。もちろん、今回の暴動の背景にはさまざまな理由があるに違いないが、人々の日々の暮らしに直接的に関わる問題を早急に解決しなければ、混乱はますます広がっていくばかりである。

南アフリカの食料品価格の高騰が人々に及ぼす影響を書くつもりでいたところに、このような問題が起きてしまった。急激な物価の上昇が、特に貧困に苦しむ人々に直接的に与える打撃はもちろん大きい。しかし、より深刻なのは人々の不安の増大で、極度の不安がこのような暴力への引き金となり、社会を混乱させてしまうことである。

南アフリカでは現在1,270万人が何らかの社会保障を受けており、GDPの3.5%が社会保障に充てられている。黒人居住区や地方の村の多くの家庭が老人の年金、月額940ランド(約14,000円)に頼って生活しているのが現状だ。もちろん、老人が亡くなれば収入は途絶えてしまう。また、政府が公表する失業率は25%であるが、これらの地域では数字は倍増すると言われている。食品全体のインフレ率は2月に14.1%を記録し、食パン(精製したホワイトブレッド)は19.92%、メイズは22.29%、食用油は66.01%と、毎日の必需品の価格が高騰しており、社会保障に頼って生活する人々にとっては特に大きな打撃になっている。ところが町中には高級車があふれ、ワールドカップの準備も含めて建設ラッシュが続き、高級レストランも連日賑わいを見せているように、南アフリカの経済は好調・安定している。問題はこの「超格差」の是正であり、経済システムの変革なのだ。

食料品価格の高騰に対する解決策として、より多くの食品についてVAT(付加価値税)14%を非課税にすることや、食品券の配布などが検討されている。また、2010年までに政府、食品会社、NGOなどが連携してフードバンク制度を設立する準備も進んでいる。ただ、これらは発効されるまでに時間がかかり、緊急の解決策とはいえない。

私たち、アジア・アフリカと共に歩む会(TAAA)は現在、国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業で学校菜園活動を行っている。収穫を給食に使ったり、販売して学校の資金にしたりと、小規模ではあるが、学校にとっては大きなサポートになっている。今こそ「自分たちの手で食べるものを作る」ことを国全体で促進していくべきではないだろうか。より大きなレベルでは、南アフリカ労働組合会議(COSATU)のヴァヴィ事務局長が土地改革の必要性を指摘し、貧困解消の対策として「自分たちで耕して作物を得る」ための土地の分配がされなければならないと訴えている。また、消費者連盟のボラニ会長も、例えば小規模農家への支援金や、技術指導プログラムの導入など長期的視野に立った対策も必要であると話している。

いずれにしても、「超格差」の是正に向けて、この国の経済を握っている人々がこれ以上貪欲にならず、この国の将来のために分かち合う気持ちを持って改革に取り組んでくれることを願っている。


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