今知る世界の食料危機 No.9(2020年3月号)

国連食糧農業機関(FAO)は、Global Information and Early Warning System(GIEWS)というページで、世界の食料危機に関する情報を提供しています。

2017年度まで、国際農林業協働協会が発行する季刊誌「世界の農林水産」に、GIEWSの資料の一部(”Crop and Prospects”および”Food Outlook”)を紹介するページが設けられていました。

2018年度、同誌は紙面リニューアルを行い、この紹介ページはなくなりました。

そこで、2017からAJFが呼びかけて行っている「FAOの資料を読む学習会」参加メンバーが中心となって、”Crop and Prospects”の「外部からの支援を必要としている国」「世界の穀物の需給概況」「低所得・食料不足国の食料事情」の3項目の参考訳を作成し、紹介していくことになりました。

「今知る世界の食料危機 No.9」では、2020年3月に公開された”Crop and Prospects #1 Mar 2020”の該当ページを紹介します。

「FAOの資料を読む学習会」、「今知る世界の食料危機」の作成に関心を持ったら、food@ajf.gr.jpへご連絡ください。

外部からの支援を必要としている国

アフリカ(34カ国)

食料生産・供給総量の異常な不足

中央アフリカ共和国-紛争、避難、食料供給の制約
・総合的食料安全保障レベル分類(IPC)によれば、深刻な食料不安に直面する人々(IPCフェーズ3:「危機」もしくはそれ以上)の数は160万人と推定されている。この人数は、作物の収穫量が減る時期(2020年5-8月)には210万人まで増えると予測される。

ケニア共和国 連続した雨季の降雨不足
・2018年10月から12月にあたる小雨季の降雨不足と2019年3月から5月にあたる大雨季の深刻な日照りにより、主に北部、東部地域で約310万人が厳しい食料不安に直面している。
・1月の時点で39万3,000人が、10月以降の激しい降雨が引き金となった洪水の被害を受け
た。

ソマリア連邦共和国 紛争、社会不安、連続する雨季の天候不順
・繰り返す雨季の降雨不足の影響から回復できていない、主に中部牧畜地域と、2019年後半の洪水で穀物生産が大きな被害を受けた、南部の河川域の作物生産地域で、約115万人が緊急支援を必要とすると推定される。
・1月現在、約57万人が洪水の被害を受けた。

ジンバブエ共和国 穀物生産の減少、食料価格の高騰および経済の悪化
・2019/20年度、食料不安に直面する人々は著しく増加した。その数は、2020年1月‐3月期の終わりには550万人にのぼる見込みである。IPCが2月に調査をしており、最新情報が提供される予定。
・2019年の穀物生産が急激に減少し、主要食料価格の著しい高騰と経済の低迷による収入の減少で、食料不安は悪化している。2020年の生産見通しは平年以下となる見込みであり、経済状況も引き続き極めて厳しい状況が予想される中、来年の食料状況の改善を見込むことは難しい。


広範な食料アクセスの欠如

ブルンジ共和国 社会不安、経済の悪化、一部地域での作物生産不足
・市場、農業生産活動、暮らしの混乱が、限られた人道支援や食料輸入能力の低下と相まって、引き続き食料保障に悪影響を与えている。
・2018年後半では約172万人が厳しい食料不足に直面したと推定された。(最新の入手可能な情報)
・一月現在で、10月からの激しい降雨が引き金となった洪水は、1万2,700人の被害者を出した。

チャド共和国 社会不安
・「Cadre Harmonisé」によれば、約56万4,000人が2019年10月から12月期に食料不安に直面すると予想された。
・北東部での軍事衝突により17万280人近くが国内避難民となっている。加えて、約44万3,000人の国外からの難民を抱えている。

コンゴ民主共和国 継続する紛争と東部および南部地域での食料アクセスへの制約
・主に、不安定な治安状況により、世帯レベルでの食料へのアクセスが困難なイトゥリ州、カサイ州、カサイ中央州、北キヴ州、南キヴ州、タンガニカ州で、136万人が食料不足の状況に置かれている。
・2020年2月17日現在、3,433人がエボラウイルス病(EVD)に感染し、そのうち2,149人が死亡したとWHOが報告した。

ジブチ共和国 連続する雨季の降雨不足による牧畜民の暮らしへの影響
・降雨不足の雨季が続いた影響で、2018年に(最新の入手可能な情報)、農村部では約15万人が厳しい食料不安に直面していたと推定される。
・1月現在で、約25万人が、10月以降の激しい降雨による洪水の影響を受けた。

エリトリア 経済的制約による食料不安人口の増加

エチオピア連邦民主共和国 干ばつが地域の生計システムへ及ぼす影響
・2019年はじめから年半ばにかけてのKaran/Belg/Gu/Gennaの雨季の降雨不足により、主に東部の農業地域と北部、南東部の農牧畜地域で、2020年はじめに850万人が厳しい食料不安に直面していると推定されている。
・1月時点で、約51万2,000人が10月以降の激しい降雨による洪水の影響を受けた。

ニジェール共和国 社会不安
・「Cadre Harmonisé」最新号の分析によれば、2019年10月から12月期の終わりには約140万人が緊急支援を必要としたと推定される。
・近隣諸国の紛争により、21万9,339人の難民を受け入れ、その内16万2,437人はナイジェリアから、5万6,000人はマリからの難民である。一方19万26人が国内避難民となっていると推定される。

ナイジェリア連邦共和国 北部での終わらない紛争
・「Cadre Harmonisé」の分析によれば2019年10月から12月期に約400万人が食料支援を必要としたと推定された。
・持続する社会不安により250万人あまりが国内避難民となっている。人道支援にアクセスできない地域は、食料危機が最も危険な状況に直面している。

南スーダン共和国:紛争、内戦、深刻な経済低迷
・継続的な人道支援にも関わらず、2019年後半に起こった広域に及ぶ洪水により、不十分な食料供給、経済の低迷、食料価格の高止まり、生計手段の喪失により、人口の大半がまだ食料危機の影響を受けている。それは、約90万人に影響を与えた。
・約601万人(全人口の51%)が厳しい食料危機に直面していると推定される。食料危機が最も大きく広がっているのは洪水により最も被害を受けたジョングレイ州と報告されている。そこでは人口の70%近くが厳しい食料危機に直面しており、2万人がIPCのフェーズ5食料危機の「大惨事」レベルに直面していると推定される。2020年1月の国内避難民は167万人と推定された。

厳しい局地的食料不安

ブルキナファソ–北部での社会不安
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、主に北部での社会不安のため、2019年10月から12月期に食料支援を必要とする人々の数は120万人と推定された。
・2万6,000人の難民、多くはマリからの難民が国内に暮らすと推定される。一方で56万人の国内避難民がいる。

カーボヴェルデ共和国-2019年農牧収穫期の不作
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年10月から12月期にかけて約1万人(全人口の約2%)がフェーズ3「危機」もしくはそれ以上の厳しい状況にあると推定された。

カメルーン共和国-社会不安
・最新の“Cadre Harmonise”の分析によれば、主に北西州、南西州での社会不安により、2019年10月-12月期に130万人が人道支援を必要としたと推定された。これらの地域では、2020年1月時点で約68万人が国内避難民を抱えており、2019年10月より25%増えた。

コンゴ共和国ー難民の流入による受入れコミュニティの限られた資源の更なる圧迫
・コンゴ民主共和国からの2万人と中央アフリカ共和国からの2万2,000人の難民がいると推定される。
・主に北部州および東部州の受入れコミュニティは食料不足と限られた生活手段にさらされ、難民の食料は基本的に人道支援に頼っている。

エスワティニ王国ー局地的な生産不足
・2020年3月までに約23万2,000人が人道支援を必要とされており、これは昨年の推計を上回っている。

ギニア共和国ー局地的な穀物生産不足
・2019年10月-12月期に、約7万2,000人が食料支援を必要としたと推定されている。

レソト王国ー穀物生産の減少
・2019年10月から2020年3月に、約43万3,000人(農村人口の約30%)が食料不足人口と予想され、前年より増加している。

リベリア共和国―高い食料価格
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、約4万1,000人が2019年6月から8月期にかけてフェーズ3「危機」以上にあると推定されている。 約8,700人の難民を受け入れている。

リビア-社会不安
・人道支援を必要としている人々の数は、90万人(人口の13%)と推定され、そのうち34万人が食料援助を必要としている。 難民、難民申請者、国内避難民は、食料危機に最もさらされやすい人々である。

マダガスカル共和国ー食料へのアクセスの減少
・約73万人が食料不安に直面していると見込まれ、その大半は食料生産に被害
がでやすい南部のいくつかの州にいる。2019年の穀物生産が豊作となり食料を
入手しやすくなったことから、食料不安に直面する人々の数は前回の予想よりも
少なくなった。

マラウイ共和国ー地域的な生産不足と食料価格高騰
・食料価格が高止まりしていて食料へのアクセスが困難になっており、また穀物
の供給が以前の予想よりも限られていることから、最近、食料不安に直面してい
ると見込まれる人々の数は上方修正された。
・2020年3月までに、全体として190万人が支援を必要としていると見込まれる
が、それでも2019年の同じ時期に比べると少ない。

マリ共和国ー絶え間なく続く危機
・約2万7,000人の難民、そして人道支援に頼る20万8,000人の国内避難民、7万
6,000人の帰還民がいる。
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によると、絶え間なく続く紛争のため
、2019年10月から12月期には約64万8,000人が食料支援を必要とすると推定さ
れる。

モーリタニア・イスラム共和国ー牧草の減少
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年10月から12月期に約29
万9,000人が支援を必要とすると推定された。
・主としてマリからの難民、約5万9,000人が国内に居住している。

モザンビーク共和国ーサイクロンによる被害と生産不足
・2つの大きなサイクロンの影響と厳しい乾燥気候が、中部および南部のいくつ
かの州で食料不安を増大させた。
・全体で、約170万人が食料危機にあると推定される。

★ナミビア共和国ー干ばつによる農業生産減少
・たいへん厳しい降雨不足により、2019年の穀物生産は急減し家畜の死亡率も
高まったため、食料確保に悪影響が出、農家の収入が伸び悩んだ。
・その結果、43万人がIPCフェーズ3「危機」に直面しており人道支援を必要と
していると推定される。

セネガル共和国ー地域的な穀物生産不足
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年10月から12月期に約35
万9,000人が支援を必要とすると推定された。
・主としてモーリタニアからの難民、推定1万4,500人が国内に居住している。

シエラレオネ共和国ー食料価格高騰
・2019年10月から12月期に約34万8,000人が厳しい食料危機にあったと推定さ
れた。

スーダン共和国ー紛争、社会不安と高騰する食料価格
・2019年6月から8月期、厳しい食料危機にあったと推定される人々の数は、主
として国内避難民および紛争の影響を受ける地域にある国内避難民受け入れ共同
体の580万人であった。
・1月時点で約42万6,000人が洪水の影響を受け続けている。

ウガンダ共和国ー地域的な穀物生産不足と難民流入
・2019年初頭、テソ地域東部とカラモジャ地域東北部で約50万人が厳しい食料
不足に陥ると見られている(最新の情報による)。
・南スーダンからの難民約86万7,000人と、コンゴ民主共和国からの難民約39万
8,000人が複数の難民キャンプに収容されており人道支援に頼っている。
・1月時点で約31万2,000人が、10月以来の豪雨によって発生した洪水の影響を
受けている。

★タンザニア連合共和国ー地域的な穀物生産不足
・2019年の主耕作期が長引く乾燥気候の影響を受け穀物生産に大きな被害が出
た主としてマニャラ州北東部・キリマンジャロ州およびドドマ州中央部・シンギ
ダ州で、約100万人が緊急支援を必要としていると推定される。

ザンビア共和国−農業生産不作と食料価格上昇
・主として2019年の穀物生産不作と食料価格上昇の結果として、230万人が食料
不足に陥り支援を必要としていると推定される。
・長引く乾燥気候のために収穫が減少した南部と西部が最も広範な食料危機に見
舞われている。

アジア(8カ国)

食料生産・供給総量の異常な不足

シリア・アラブ共和国ー紛争
・約650万人が食料危機に直面しており、食料と生計への支援を必要としている。加えて250万人が食料危機におちいる可能性があり、危機対応力を高めるため、生計への支援が必要とされている。
・国際的食料支援が実施されているものの、シリアからの難民が近隣諸国の受け入れコミュニティの食料不安を高めている。

広範囲な食料アクセスの欠如

朝鮮民主主義人民共和国ー低い食料消費レベル、乏しい食生活多様性
・2019年4月に行われた、FAO/WFP合同評価ミッションによれば、1,010万人(人口の40%)が食料不安人口と推定された。この人々は低い食料消費レベルに苦しみ、食生活の多様性も乏しい。

イエメン共和国ー紛争、貧困および食料価格・燃料価格の高止まり
・2019年4月に最も困難に陥っている45地区のうちの29地区で実施されたIPC緊急対応地域分析によると、同地域では125万人が極度の食料不安に直面していた(IPC評価のフェーズ3「危機」もしくは4「緊急事態」)とされた。これは、2018年12月同地域で食料不安におちいっていると推定された155万人から減少した。継続的な食料支援がなければ、約2,000万人が食料不安に直面すると見られる。

厳しい局地的食料不安

アフガニスタン・イスラム共和国ー紛争と避難民
・2019年8月から10月までに、1,023万人(人口の3分の1)が厳しい食料不安に直面し、そのうち780万人がIPC評価フェーズ3「危機」に、240万人がフェーズ4「緊急事態」にあった。紛争と自然災害が続き、限定的な経済活動が最も貧しい家庭の危機対応能力を弱めている。

バングラデシュ人民共和国ー多数の難民の流入が受け入れコミュニティに負担をかけている
・UNHCRによる最新(2020年1月)の情報によれば、ミャンマーからの約91万
5,000人のロヒンギャ難民がバングラデシュ内の主にコックスバザール県で暮らしている。多くの難民は2017年8月後半のミャンマー・ラカイン州での暴力再発を受けてバングラデシュに逃げた。多数の難民は地域コミュニティや既存する施設、サービスに負担をかけている。

イラク共和国ー紛争
・180万人と推定される人々が国内避難民となっている。
・おおよそ177万人、多くは国内避難民と帰還民が食料と生計の支援を必要としている。

ミャンマーーチン州、カチン州、シャン州、カレン州、ラカイン州の一部地域での紛争
・ラカイン州、チン州、カチン州、カレン州、シャン州で今なお紛争が続いているため、特に2017年以降、国内避難民が大量に発生した。2019年12月時点で、主として女性と子供、推定27万3,000人が国内避難民となり、その多くがラカイン州とカチン州にあるシェルターへ国内避難している。
・紛争により、自由な移動が阻まれ生計活動に従事することもままならず、教育や医療などの重要なサービスへのアクセスが制限されているため、国内避難民の多くは厳しい食料不足の影響をうけている。

パキスタン・イスラム共和国ー避難民
・この国には未登録も併せて140万人近いアフガニスタンの難民がいる。これらの人々の大半が人道支援を必要としており、受け入れコミュニティのすでに限られた資源に負担をかけている。

ラテンアメリカ・カリブ海 (2カ国)

広範囲な食料アクセスの欠如

ベネズエラ・ボリバル共和国ー厳しい経済危機
・長引く厳しい経済危機の中、ベネズエラからの難民と移民の数は480万人に達すると推定されている。彼らはコロンビア(160万人)、ペルー(86万3,000人)を含めた近隣諸国に定着している。受け入れ国でのこれらの難民と移民に対する人道支援のニーズは大きい。
・2019年第三四半期のWFPの食料安全保障評価によると、約230万人(全人口の8%)が、主として食料価格の高騰により、深刻な食料不安に直面している。

厳しい局地的食料不安

ハイチー続く干ばつと高いインフレ
・干ばつの穀物生産(特にトウモロコシ)への影響と、コメや主食を含む輸入食料価格の高騰により、2019年10月時点で約367万人が厳しい食料不安に直面し食料支援を必要とすると予想された。

世界の穀物需給概況

穀物市場における供給は概ね良好

FAOによる2019年、世界の穀物生産予想は、直近で27億1,900万トンとなり、2018年の生産より約6,200万トン(2.3%)多く、2月に報告されたよりも470万トン多い。粗粒穀物の総生産予想は2月に報告された前回より500万トン多い、14億4,400万トンに増え、2018年よりも2.4%上昇した。最新の修正は、西アフリカとウクライナにおいて以前見込まれたよりも豊作だったことが公表されたことを反映している。2019年の小麦生産予想は、前月の7億6,300万トンから変更無く、2018年より4.2%高く市場2番目の出来高を記録した。
2019年のコメ総生産は前月比で大きく変わらず、5億1,2000万トン(精米ベース)で、2018年の最高記録から0.5%減った。2019/20年度の世界の穀物利用は27億2,100万トンの記録に達する予想で、2月の予想から700万トン(0.3%)近く増加している。主にインドとカナダにおける240万トンの上方修正を受けて、2019/20年度の小麦消費は2018/19年度よりも1,200万トン(1.6%)増えると懸念される。粗粒穀物の利用では、前年から比べ主に飼料利用が増えており、現在14億4,500万トンであり、2018/19年度より約1,600万トン(1.1%)多い。2019/20年度のコメ利用では、今月、非食料利用において130万トン下方修正されたにもかかわらず、予想は前年比で約1%上昇し、史上最高の5億1,400万トンとなっている。
FAOにおける2020年に迎える期末了までの世界穀物在庫の予想は、今月240万トン増加し8億6,600万トンに近く、世界の期末在庫率は30.9%の良好な水準を維持している。イラン・イスラム共和国でここ数年の生産量推定値を調整したために、在庫率が上方修正したことから、今月、2019/20年度の世界小麦在庫は260万トン(1%)増加し、2億7,700万トンであった。期首に比べて、EUや中国(本土)、インドでの生産増が、米国、ロシア連邦、オーストラリアを含む数カ国での減産を相殺して余りあり、世界の小麦在庫は約200万トン(0.7%)増加すると予想される。対照的に粗粒穀物の在庫は、とうもろこし在庫が大幅に減少したことにより、期首に比べて800万トン減少する予想である。2019/20年度期末の世界コメ在庫は2月から100万トン増加し1億8,200万トンで、期首から微減(0.4%)している。公共部門による在庫確保と地域的な購入がこれからの輸出増加の多くを占めるインドでは、在庫が増えると予想されて、今月タイでは在庫が低いが、それをしのいだと予想された。
FAOによる2019/20年度の世界の穀物貿易は約4億2,000万トンと予想され、2018/19年度より再び950万トン(2.3%)増え、史上2番目に多い取引となる。主要穀物である小麦では、前年に比べて貿易は大幅に増大するとみられ、2018/19年度から550万トン増えて、2019/20年度(7月/6月)は1億7,400万トンに達すると予想されている。輸入国では、インドネシアやカザフスタンによる小麦購入予想は低いが、トルコでは国内供給が逼迫しているため記録的な800万トンに引き上げられている。FAOによる2019/20年度(7月/6月)の粗粒穀物の世界貿易予想は微増で、2018/19年度から240万トン(1.2%)増加し2億100万トンである。大麦の貿易は170万トン(6.9%)増加し、この貿易増の多くを占めている。2019/20年度の世界のとうもろこし貿易は、1億6,700万トンに達する予想で、前シーズンとほぼ変わらない。2020年(1月から12月)の世界コメ貿易は、イン
ドや中国(本土)からの輸出増加が予想されるため、回復が期待でき、2019年の落ち込みから3.6%回復し、4,600万トンに達する見込みである。

初期の徴候では、2020年の小麦生産は史上最高値に近くなる見込み

北半球の大半の冬小麦はまだ休眠状態で、FAOの予備的な生産予想は、2020年の世界の小麦生産は7億6,300万トンとなり、2019年の記録的な高い水準に近くなる。
ヨーロッパ(EU27カ国プラス英国)において過剰な降雨のために作付が減少し、生産が減少すると予想されるため、ヨーロッパでは2020年の小麦生産は落ち込む見通しである。また冬季の気温が平年より高くなりつつあり、霜に対する作物の耐性が弱まり、生産を落ち込ませる可能性が高くなっている。ロシア連邦の小麦生産は、平年を上回る8,000万トンとなる見込みで、2年連続の増産である。この増加傾向の予想は、史上最高である2,870万ヘクタールに及ぶ作付によるもので、同時に適切な土壌水分とそれを保持する十分な積雪があり、良好な生産予想に寄与している。ウクライナでは作付面積が減少した結果、2020年の小麦生産は300万トン近く減少する予想だが、過去5年の平均レベルにとどまる。

北米において米国では、価格が下がっているため、冬小麦の播種が前年に比べて約1%減少し、歴史的にも低いレベルだった。一部の地域では、気候不順のため生産がわずかに減少し、2020年の総小麦生産は100万から200万トン減少すると見られる。カナダでは、価格高騰により冬(小麦)の作付が拡大し、春(小麦)の播種が増加すると予想され、収量が前年と変わらなければ、平年作より多い3,400万トンレベルの生産になると予想される。アジアにおいて、インドでは小麦生産は大きく増加し、史上最高の1億620万トンの生産量予想が発表されている。この良好な予想は、主として2020年(政府の)高い買い上げ価格におされて、冬小麦の耕作地が記録的であったためである。パキスタンでは、恵まれた気候条件と十分な農業への投入財の供給により、2,500万トンを少し上回り、平年に近い収穫になると予想される。同様に、トルコやイラン・イスラム共和国では、小麦生産は平年に近いレベルになる見込みである。北アフリカにおいては、2020年年頭に降雨が少なく、気温が平年を上回ったこともあって、チュニジアやアルジェリア、モロッコでは日照りに直面し、生産見込みが減少した。南半球では、小麦の植え付けは5月に始まるが、オーストラリアでは日照り続きの状況が緩和されると見られ、生産が激減した2019年から回復すると予想される。
南半球の国々では2020年度の粗粒穀物の主要収穫期は終わり、第二四半期が始まる。一方北半球では同じ時期に播種が始まる。南米においては、強い輸出需要と国内の穀物の価格高が続き、アルゼンチンではとうもろこしの播種は平年を上回ると予想される。加えて最適な気候条件が、収量を押し上げると予想され、2020年のとうもろこし生産は、史上最高であった2019年に近いレベルに達すると見込まれる。ブラジルでは、2020年の公式なとうもろこし生産予想は約1億トンとされ、高い生産高だった2019年に匹敵し、一部地域では播種をわずかに増やし、局地的な乾燥条件により減った生産を相殺すると予想されている。南アフリカにおいて、価格の高騰、需給緊迫と適切な降雨に押されて、2020年にはとうもろこしの作付が回復し、結果的に生産は増加し、1,400万トンまで伸長し、平年のレベルを優に超えると見込まれている。近隣の国々では、耕作期の進行とともに気候条件は改善したが、耕作期初めの降雨不足が収量に影響し、収穫は平年より少ない、または平年に近いと予想される。

低所得・食料不足国の食料事情

2020年初め、天候不順や害虫の発生により、生産の低下が予想される

低所得・食料不足国では、2020年の穀物の収穫が3月から始まり、生産の見通しは、紛争や天候不順、さらには一部のアフリカの国ではサバクトビバッタの発生によって低下している。
南部アフリカでは、翌月に2020年の収穫が始まる予定で、耕作期初めの降雨不足により、一部の国では生産見通しが低かったが、年初からの適度な降雨により改善された。その結果、モザンビーク南部とマダガスカル南部では、洪水と継続的な乾燥により、一部の作物の損失が報告されているが、南部アフリカの2020年の生産は、不作であった昨年と比較して増加すると見られる。しかしながら、特に懸念されることは、ジンバブエの2020年の穀物生産が、降雨不足と農民の投入財へのアクセスを妨げている経済的困難のため、2年連続で平年作を下回ると予想されることである。

2020年の主な穀物の作付けが3月/4月に始まる東アフリカで、サバクトビバッタの広範囲にわたる発生が、今後数ヶ月の作物や牧草資源に深刻なリスクをもたらす。3月から5月の雨季の平年を超える降水量の予測は、収量の見通しを押し上げる一方で、サバクトビバッタの繁殖条件を作り出し、さらなる発生につながる可能性がある。西アフリカでは、牧草地として利用できる面積は3年連続で低いレベルにあり、家畜の体調に影響を与えている。2020年の穀物の播種は3月に始まる。中央アフリカでの永続的な紛争は、農業生産能力を弱体化させ続けており、2020年の収穫は影響を受ける可能性が高い。
アジアでは、低所得・食料不足国の中で最大の穀物生産国であるインドでの2020年の小麦生産が、過去最高の1億620万トンと予想されており、これは作付けが記録的であったことを反映している。

アフガニスタン・イスラム共和国とシリア・アラブ共和国では、投入財利用が、紛争と紛争のもたらした混乱によって影響を受け、2020年の穀物生産の伸びを抑制すると予想されている。主にアジアの低所得・食料不足国に集中して2019年の穀物生産量は増加しており、FAOの2019年の低所得・食料不足国の総穀物生産量の推定値は、4億8,060万トンで、5年間の平均を2,650万トン超え、年間ベースで1%高くなっている。2019年の生産の増加は、主にアジア、特にインドとシリア・アラブ共和国、およびガーナとマリで平年作以上の収穫があった西アフリカの生産の好転によるものである。これらの生産増は、東アフリカと南部アフリカの国々での生産の低迷を上回って余りある。

主にアフリカの低所得・食料不足国での輸入需要の緩やかな増加

2019年の総生産量の増加にもかかわらず、低所得・食料不足国の穀物の輸入需要は、2019/20年度の平均7,190万トン以上の水準と推定され、前年の量を420万トン上回っている。 増加した需要は、主に天候による収穫量の低下によるアフリカの低所得・食料不足国の生産不足を反映している。注目すべき輸入需要増加は、2019年の収穫が5年間の平均を下回り国内の在庫も少なく生産の減少を補う国内供給能力が低下したジンバブエとケニアで予想されている。対照的に、輸入需要は、国内生産が国内供給能力を強化したアフガニスタン・イスラム共和国やシリア・アラブ共和国をはじめとするアジア諸国の一部で減少した。

今知る世界の食料危機 No.16(2021年9月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.15(2021年7月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.14(2021年3月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.13(2020年12月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.12(2020年9月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.11(2020年7月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.10(covid-19の影響)⇨

⇦ 今知る世界の食料危機 No.8(2019年12月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.7(2019年9月号)

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⇦ 今知る世界の食料危機 No.3(2018年9月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.2(2018年6月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.1(2018年3月号)


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ウガンダエスワティニエチオピアエリトリア

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カーボヴェルデカメルーンギニアケニアコンゴ共和国コンゴ民主共和国)

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ザンビアシエラレオネジブチジンバブエスーダンセネガルソマリア)

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タンザニアチャド中央アフリカ)

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ナイジェリアナミビアニジェール)

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ブルキナファソブルンジ)

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マダガスカルマラウイマリ南スーダンモーリタニアモザンビーク)

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リビアリベリアレソト)